海外の好事家(こうずか)たちは、日本の“怪獣”を自国の“MONSTER”と一緒くたにすることなく、きちんと区別して“KAIJU”と呼ぶ。ゴジラ、ガメラ、バルタン星人、ピグモン……彼らに、それだけ異質なる雰囲気を感じているということだろう。一方の日本人も、エイリアンやプレデターを“怪人”ではなく、“クリーチャー”などと呼んでいるように、我々はどこかで線引きをしているのだ。では、その違いはどこにあるのか?

左から、『パシフィック・リム』(2013)よりナイフヘッド、『GODZILLA ゴジラ』(2014)よりゴジラ。どちらもCGキャラクターだが、敢えて中に人が入っているかのようなデザインにしていることがわかる

※写真はすべて筆者の私物のフィギュア

『ゴジラ』のルーツ

2013年7月、映画『パシフィック・リム』が公開された。太平洋の底からやってくる巨大生命体の群れを迎え撃つため、世界各国が巨大な人型ロボットを建造するというストーリーで、この巨大生命体は劇中で“KAIJU”と呼ばれている。もちろん、これは日本語の“怪獣”を意味しており、エンドロールでも「“モンスター・マスター” レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧ぐ」という賛辞が映し出される。本多猪四郎とは、『ゴジラ』(1954)をはじめとする東宝特撮映画を数多く手掛けた監督だ。『パシフィック・リム』を監督したギレルモ・デル・トロは、これまで幾度となく本多やゴジラに対する敬意を表明している。しかし、そもそもモンスター映画の本家といえば、日本ではなくアメリカのほうなのだ。今から遡ること85年、『キング・コング』の世界的大ヒットからすべては始まった。
未だ恐竜が生息する髑髏島にて、原住民から神と崇められていた巨大な猿人コングが、見世物として連れてこられたニューヨークで大暴れ……映画を観たことがなくても、エンパイア・ステート・ビルをよじ登るコングの姿に見覚えがあるという者は少なくないだろう。『和製キングコング』(1933)『江戸に現れたキングコング』(1938)(註1)といった便乗映画が公開されるなど、当時の日本でも大きな反響があったことがうかがえる。“特撮の神様”と呼ばれる円谷英二に至っては、『キング・コング』と同作スタッフの手による『猿人ジョー・ヤング』(1949)の特撮部分のフィルムを所有しており、日夜研究に勤しんでいたという(註2)。また、もうひとりの“モンスター・マスター”であるレイ・ハリーハウゼンも、『キング・コング』に感銘を受けて、モンスター映画の世界に足を踏み入れることとなった。
そして1953年、『キング・コング』の特撮を担当したウィリス・オブライエン(註3)のもとで一番手として活躍していたハリーハウゼンが、一本立ちのデビューを果たす。北極の核実験で蘇った恐竜リドサウルスが、ニューヨークに上陸したのち、軍隊と激しい戦闘を繰り広げる『原子怪獣現わる』である。この作品も興行として大成功を収め、『放射能X』(1954)『世紀の怪物/タランチュラの襲撃』(1955)『世界終末の序曲』『The Cyclops』『戦慄!プルトニウム人間』(1957)『巨人獣』(1958)(註4)と、放射能で生物がモンスター化する映画が矢継早につくられていった。1954年に公開された『ゴジラ』もまた、そのひとつである。海底洞窟で生き永らえていた古代生物(註5)が、水爆実験の影響で住処を追われて東京に上陸するという大筋は、『原子怪獣現わる』にそっくりだ。企画スタート時に付けられていた『海底二万哩から来た大怪獣』という仮題にしても、『原子怪獣現わる』の原題『The Beast from 20,000 Fathoms』の影響下にあったことは明白だろう。

“怪獣”の定義とは?

『ゴジラ』が、『原子怪獣現わる』から多大な影響を受けた作品であったことは間違いない。しかし、ただの二番煎じであったならば、その国外版として再編集が施された『怪獣王ゴジラ』(1956)が世界的大ヒットを記録することもなかったに違いない。なにせ『ゴジラ』は、数十年を経て、二度もハリウッドでリメイクされるような作品なのである。それまでのモンスター映画とは、一線を画する“なにか”があったと考えるほうが自然だ。
では、何が違ったのか? まずアメリカと日本では、モンスターの表現方法がまったく違う。コングやリドサウルスは、コマ撮り(ストップモーション・アニメーション)という手法で命を吹き込まれていた。コマ撮りとは、金属骨格を仕込んだゴム製の人形を、1コマ毎に少しずつポーズを変えながら撮影していき、あたかも動いてるかのように連続再生するテクニックのこと。当時の映画フィルムは、1秒あたり24コマで構成されていたため、たった1秒の映像のために24回も人形を動かさなくてはならない。これは大変に根気の要る作業で、金も時間も掛かってしまう。そのため、ゴジラをはじめとする多くの怪獣の場合、着ぐるみの中に俳優が入って演技することで表現されている。着ぐるみ怪獣は、人間のシルエットからかけ離れた姿にしづらい反面、当然ながら滑らかに動くことができる。コマ撮り特撮には、フリッカー(註6)と呼ばれる画面のチラつきが付き物なのだ。さらに着ぐるみのサイズに合わせてつくられた巨大なミニチュアを用いた破壊シーンには、コマ撮りのそれとは比較にならない重量感とスピード感があった(註7)。コングもリドサウルスも、ニューヨークの建造物や乗り物を破壊していたが、東京を廃墟に変えたゴジラと比べれば、ささやかな暴れぶりだったと言わざるを得ない。軍隊の攻撃を歯牙にもかけず、口から熱線を吐いて返り討ちにするようなヤツは前代未聞だったのである。とにかく日本の怪獣が持つ破壊力と生命力は、人智を超えている。
そして、その力の源である身体は、限りなく大きい。コングは身長約12~15m、リドサウルスも20mほどだが、初代ゴジラは50mと桁違いの体躯を誇る。当然、対戦相手となる怪獣は、それに準じたサイズに設定されるため、『キングコング対ゴジラ』(1962)に登場した際には、コングも45mにスケールアップしていた。『キングコング:髑髏島の巨神』(2017)の最新コングは、初代コングの倍以上ある31.6mだったが、これは2020年公開予定の『Godzilla vs. Kong』においてゴジラと戦うことを見越してのもの。極めてイレギュラーな措置だといえる。また、1998年公開のハリウッド版『GODZILLA』では、「Size Does Matter(サイズが重要だ)」なるキャッチコピーが用意され、ティーザー予告や劇中でも巨大感にこだわった演出が貫かれていた。先述の『パシフィック・リム』も同様で、高層ビルにも負けない巨躯は、海外の人間が考える“怪獣”らしさのひとつということなのだろう。

左:『ウルトラマンタロウ』(1973)より液体大怪獣コスモリキッド
右:『ウルトラマン』(1966)より四次元怪獣ブルトン(上)、『ウルトラマンティガ』(1996)より邪神ガタノゾーア(下)
一口にウルトラ怪獣と言っても、ストレートな二足歩行の恐竜タイプもあれば、不可思議な形状をした動くオブジェタイプもある。また、複数の演者が入ることによって、人間から大きくかけ離れたシルエットを実現したタイプも……

さらに日本の怪獣の主戦場は、映画でなくテレビだ。『ゴジラ』の大ヒット以降、東宝はコンスタントに新作怪獣映画を送り出すようになり、やがて大映、東映、松竹、日活と各社こぞって怪獣映画の製作に乗り出した。「第一次怪獣ブーム」の到来である。そして1966年1月には、円谷英二率いる円谷プロによる『ウルトラQ』のテレビ放送が開始された。今なお続く「ウルトラマン」シリーズの第1弾だ。かつて映画館でしか見られなかったはずの怪獣が、テレビで毎週見られるようになってから半世紀が経った現在、なんとウルトラ怪獣だけでも優に1,000体を超す数が存在する。「ウルトラマン」シリーズには、ゴジラのように現代まで生き永らえた、あるいは独自の進化を遂げた古代生物に加えて、宇宙や異次元からやってきたもの、ロボット、サイボーグ、果ては妖怪・悪霊としか表現できない怪獣(註8)まで登場しており、身体の大きさも人間大から50m級、100m級……それどころじゃない。細菌サイズから無限(註9)と、その幅広さたるや凄まじい。
しかも、これはウルトラ怪獣だけに絞った話。1971年から数年間にわたって巻き起こった「第二次怪獣ブーム(変身ブーム)」の際には、「仮面ライダー」シリーズなどに登場する等身大の怪獣=怪人も含めて、とてつもない数の怪獣が量産されている。さらに『機動戦士ガンダム』(1979)以前のロボットアニメをはじめ(註10)、この頃はヒーローの敵役として怪獣を登場させるアニメも少なくなかったし、『マチャアキ・前武 始まるヨ!』(1971)のように、レギュラー出演者として着ぐるみ怪獣を用意するバラエティ番組(註11)まで現れた。いわば粗製乱造の時代なのだが、怪獣が持つ可能性を最大限に拡げた時代といえなくもない。おそらく海外のマニアが考えている以上に、“怪獣”とは何でもアリの世界なのだ。ただ、向こうのモンスターは、原則的にドラゴンはファンタジー映画、宇宙生物はSF映画、幽霊はホラー映画といった具合にTPOをわきまえているものだが、日本では恐竜だろうが宇宙人だろうがゾンビだろうが邪神だろうが、おかまいなしに現代社会に迷い出て、ヒーローや防衛チームとド派手な戦闘を展開する。それがディファクトスタンダード(事実上の標準)だ。逆にいえば、現代の世に出現するという点が、怪獣を怪獣たらしめている重要な要素のひとつなのかもしれない(註12)。
さて、そろそろ話をまとめよう。その漠然とした共通イメージとは裏腹に、意外にも定義しづらい日本の怪獣たち。実際、特撮マニアが一堂に会すれば、怪獣の定義という答えのない議題で盛り上がることも少なくない。しかし、外側から見た“怪獣”の要件をあぶり出すことはできる。まずは現代、あるいは近未来、近過去に出現すること。例えばハリーハウゼンは、1958年に『シンバッド七回目の航海』を成功させたのち、ドラゴンやサイクロプス、グリフォンなどが登場するファンタジー映画を数多く手掛けるようになるが、こういった“剣と魔法の世界”のモンスターと怪獣は別物というふうに認識されているようだ。第二に、極めて巨大であるということ。「ウルトラマン」シリーズのマスコット的存在であるピグモンやカネゴンのように、小さく可愛らしいものも少なからず存在するが、やはり常識を超えた巨体こそが怪獣の王道だろう。そして、その大きな体躯を以て、文明の象徴ともいえるビル群を破壊する。もしかしたら次は自分が狙われるかも……という身近な恐怖を内包する怪人が、現実の犯罪者やテロリストに近い存在だとすると、怪獣は一種の災害なのだ。怪獣は、“僕”も“あなた”も関係なく、すべてを潰し、焼き払っていく。さまざまな異論、例外はあるだろうが、ひとまず当コラムにおいては、ビルをも破壊する巨大生命体=怪獣と分かりやすく定義したい。では、次回より『ゴジラ』の影響を受けて誕生した海外生まれの怪獣たちが、いかに世界各国の都市を破壊してきたかを紹介していこう。


(脚注)
*1
『和製キングコング』は本家の1カ月後、『江戸に現れたキングコング』は5年後と公開時期には開きがある。いずれもフィルム原版は紛失したものと見られており、現在は視聴することができない。ただし、前者のコングは着ぐるみで扮装した人間、後者も等身大の怪獣であったと伝えられている。

*2
1962年に『キングコング対ゴジラ』、1967年に『キングコングの逆襲』の特技監督に就任した際、その研究の成果を存分に発揮している。また、初代ゴジラが品川駅構内の列車を転覆させるくだりや『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966)にて、実際に人間を掴むためにつくらせた実物大のガイラの腕など、『キング・コング』へのオマージュを挙げればキリがない。

*3
本論から外れてしまうため、ここでは軽く触れるにとどめたが、無声映画の時代よりコマ撮りを駆使した映像をつくり上げてきたパイオニアのひとりで、すべての怪獣の父ともいえる偉大な存在である。『猿人ジョー・ヤング』では、アカデミー最優秀特殊効果賞を受賞している。

*4
最初の2本を除き、すべてバート・I・ゴードン監督作品。バート・I・ゴードンは、数多の巨大生物ものを手掛けたことから“ミスターBIG”の愛称でも親しまれている。その作品の大半は、生きた昆虫などを実景に合成するという手法でつくられており、独特の迫力を持つ。

*5
劇中では「ジュラ紀から白亜紀にかけて、稀に生息していた海棲爬虫類と陸上獣類の中間生態を持つ生物」と説明されている。当然、そんな生物は実在しない。その出自からして“怪しい獣”を体現しているのが、ゴジラなのである。

*6
実際に動いてるものと違い、常に被写体がブレずに静止しているために起きる現象。コマ撮りが抱える技術的欠点だったが、ジム・ダンフォースやフィル・ティペットといった優れた後進の技術革新によって解消されていくこととなる。また、この痙攣したようなギクシャクした動きが、かえって効果をあげるケースも多々あった。

*7
ハリーハウゼンは、建造物の破片の一つひとつをワイヤーで吊り上げ、コマ撮りで落下させるという恐ろしく手間の掛かる方法で表現している。なお、予算削減のためにミニチュアの使用は最小限に留められており、日本の特撮映画のように広大なセットは組まれていない。結局、コマ撮りにせよ着ぐるみにせよ、特撮とは時間もコストも掛かるものなのだ。

*8
『ウルトラマン』には、交通事故死した少年の魂とともに消え去っていったヒドラ、幼い娘を遺して逝った母親の化身とされるウーのように、生物の枠からはみ出た霊的な怪獣も存在する。その後のシリーズでは“月では兎が餅をついている”という地球人の想像が具現化したモチロンや地蔵に封印されていたエンマーゴ、金太郎にそっくりな相撲の神様が化けたジヒビキランなど、やや妖怪じみた怪獣の登場が相次いだ。

*9
『ウルトラセブン』に登場するダリーは、宇宙細菌の一種で人間の肺に寄生する。そして、あらゆるエネルギーを吸収して無限大に成長するバルンガは『ウルトラQ』、惑星をエネルギーとする暗黒星雲にも似たバキューモンは『帰ってきたウルトラマン』に登場した。

*10
それまでの巨大ロボットアニメといえば、侵略者が送り込むサイボーグ怪獣、ロボット怪獣を迎え撃つため、正義を愛する若者がロボットに乗り込んで出撃するという図式が一般的だったが、『機動戦士ガンダム』ではロボット=モビルスーツを人間同士の戦争の道具として扱っており、その後のリアルロボット路線の先駆けとなった。ただし、日本の特撮・アニメに登場する怪獣を網羅するというコンセプトでつくられていたケイブンシャの豆本『全怪獣怪人大百科』の1980年度版と1981年度版には、ザクやグフといったモビルスーツも怪獣の一種として掲載されている。

*11
司会者の前田武彦をモデルとしたマエタケ怪獣ベロベロと、同じく堺正章がモデルになっているマチャアキ怪獣ガリガリ。番組そのものは短命に終わったが、ちゃんと怪獣玩具の定番であるソフトビニール人形やブロマイドが発売されており、現在でもそれなりに名が知られている。

*12
21世紀後半の宇宙開拓時代を舞台にした『キャプテンウルトラ』(1967)や戦国時代に生きた忍者たちの活躍を描いた『仮面の忍者 赤影』(1967)、江戸時代初期に宇宙人の侵略があったというていで進む『魔人ハンターミツルギ』(1973)といった例外も存在する。