日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)の第7回夏季研究発表大会が2018年9月1日に開催された。会場の明治大学駿河台キャンパスでは「越境するデジタルゲーム研究」をテーマに、さまざまな研究発表が行われた。大会委員長の中沢新一氏(明治大学)が「明治大学をゲーム研究の東の拠点としたい」と抱負を述べるなど、日本のゲーム研究が新たな次元に入ったことを印象づける内容となった。

開催テーマは「越境するデジタルゲーム研究」

日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)は2018年9月1日、明治大学駿河台キャンパス(東京都千代田区)で第7回夏季研究発表大会を開催した。テーマは「越境するデジタルゲーム研究」で、学術研究者からゲーム開発者、専門学校の教員、そして学生まで約80名の参加者が集結。16の口頭発表、5本の企画セッション、8本のインタラクティブセッション(ポスター発表)が行われた。オープニングでは大会委員長を務めた中沢新一氏が、「ゲーム研究では立命館大学が西の拠点となっている。この大会を機会に、明治大学が東の拠点と言われるように努力していきたい」と挨拶。日本のゲーム研究のさらなる発展を予感させる大会となった。

デジタルゲーム開発はエンジニアリング・アート・シナリオ・デザイン・サウンドなど、さまざまな要素が混在する学際的性質を持つ。デジタルゲーム研究においても同様で、特に本学会では毎回、工学・芸術学・心理学・歴史学・教育学など、幅広い分野・視点の研究が一堂に会して、多様な視点から議論が展開される。その中でも今回は例年以上に企画セッションが活況で、学術的発表の枠に留まらない、多彩な講演や報告が行われた。こうした混沌とした学会の性格は、活況を呈するゲーム業界の現状が反映したものだったといえるだろう。なお、当日のプログラムは下記の通りで、公式サイト上で予稿集も無償公開されている。

フランクな雰囲気で行われたインタラクティブセッション
プログラムリスト

セッション1 シリアスゲーム
「英語の語彙能力向上を目的としたシリアスゲーム FishyFishy!の学習意欲向上機能の拡張」久保田大輝(日本大学大学院)、古市昌一、粟飯原萌、坂口譲、大井朋子(いずれも日本大学)、ガイ・スィーヒ(Lexxica)
「経営者の連接構造意思決定モデル:ゲーム産業を対象とした戦略から市場投入モデル」川上智、粟飯原萌、古市昌一(いずれも日本大学大学院)
「行政、広報、ゲームの「将来」:2017年衆議院選挙での公共PR「eスポーツ×衆議院議員選挙「はどのように企画・運営されたか?」蔵原大(東京電機大学)、小野憲史(ゲームジャーナリスト)

セッション2 ゲーム史
「非正規市場における正規版ゲームタイトルの公式翻訳考察:任天堂とSCEの事例について」梁宇熹(立命館大学大学院)
「ゲームセンターが社会に定着するための諸要因の分析:ドイツでのフィールド調査分析を中心に」川崎寧生(立命館大学)
「博物館におけるゲーム展示の意義と可能性:ゲーム所蔵館連携の観点から」尾鼻崇(中部大学)、小出治都子(大阪樟蔭女子大学)
「乙女ゲームからみるヒロインのキャラクター性」小出治都子(大阪樟蔭女子大学)、尾鼻崇(中部大学)

セッション3 企画セッション1
「日本における「e-sports」振興の現状と課題」中川大地(明治大学)、なべぞーむ(フリーランス)、加藤裕康(成蹊大学)

セッション4 ゲームプレイ分析
「情報行動としてのソーシャルゲーム利用に関する考察:モバイルライフログ分析を通して」白石圭佑(立教大学)
「ゲームデバイス埋め込み型生体計測によるゲームプレイ時の脈波伝搬時間計測法開発の試み」大塚誠也(帝京大学大学院)、小川充洋(帝京大学)

セッション5 ゲームデザイン
「ナラティブ的思考の一解釈に注目したトレーディングカードゲーム要素を用いてゲーミファイするプログラミング支援の試み(第3報)」小川充洋(帝京大学)、大塚誠也(帝京大学大学院)
「ゲーム理論で分析するスペースインベーダーのリスクとリターン」高橋勝輝(フリーランス プログラマ編集者)
「アナログゲームを用いたゲームデザイン教育の実践」鈴木英仁(総合学園ヒューマンアカデミーゲームカレッジ)
「ゲームデザイン要素とアイディア発想法の相性に関する検証」宮西和機(北海道情報大学)

セッション6 ゲーム技術/アーカイブ
「聖戦ケルベロス開発者横断アンケート:ソーシャルゲーム開発アーカイブ」今給黎隆(東京工芸大学)
「ゲームエンジン知能化のためのソフトウェア・デザイン」三宅陽一郎(日本デジタルゲーム学会)

セッション7 企画セッション2
「ワークショップ:2018年版論文フォーマット改定のポイント」伊藤彰教(日本デジタルゲーム学会)

セッション8 企画セッション3
「『ドラクエ』時代から振り返る、ゲームメーカー広報業務の歴史:第10回ゲームメディアSIG研究会」鴫原盛之(フリーライター)、高橋宏之(キャメロット)、小野憲史(ゲームジャーナリスト)

セッション9 企画セッション4
「ナムコ開発資料のアーカイビングとその活用」岸本好弘(遊びと学び研究所)、兵藤岳史(バンダイナムコスタジオ)

セッション10 企画セッション5
「『ホモ・ルーデンス』80年“ゲームする人類”の古層にあるもの」中沢新一、中川大地(いずれも明治大学)

インタラクティブセッション
「ゲームデザイン要素とアイディア発想法の相性に関する検証」宮西和機(北海道情報大学)
「オンラインゲームにおける協調的集団活動が現実の集団活動能力に及ぼす影響の検討」高田佳輔(中京大学)
「小学校プログラミング教育のためのシリアスゲーム開発」森本達也(東京学芸大学大学院)
「日本人プレイヤーがFPSに価値を見出している要素に関する研究」前田享佑、遠藤雅伸(いずれも東京工芸大学)
「デジタルゲームにおいて駆け引きを感じる要素に関する定性調査分析」篠山拓朗、遠藤雅伸(いずれも東京工芸大学)
「プレイヤーがゲーム性を感じる要素に関する定性調査分析」遠藤広樹、松本佑介、遠藤雅伸(いずれも東京工芸大学)
「プレイヤーがゲームを面白いと感じる要素に関する定性調査分析」仲村真廣、横田直明、遠藤雅伸(いずれも東京工芸大学)
「Joy-Conによるプレイ体験の定性調査に基づく新たなプレイスタイルに関する研究」山本裕次郎、遠藤雅伸(いずれも東京工芸大学)

※表記は大会プログラムに準拠

DiGRA 2019京都に向けて加熱するゲーム研究

大会委員長の中沢新一氏

上記のように内容は多岐にわたったが、筆者が4つのセッションを取材して感じたことは、日本のゲーム研究やゲーム文化における、歴史観や世代交替を意識させる内容だったということである。なかでも特にこの点を強く感じたのが、「企画セッション5/「ホモ・ルーデンス」 80年“ゲームする人類”の古層にあるもの」で、大会委員長を務めた中沢新一氏と、大会コーディネーターの中川大地氏の対談形式で行われた。中沢氏はシューティングゲーム『ゼビウス』(1983年)を契機に、制作者であり、本学会研究委員長の遠藤雅伸氏と親交があり、著書『ポケットの中の野生――ポケモンと子ども』(岩波書店、1997年)で文化人類学的な視点からゲーム『ポケットモンスター』に関する評論も行うなど、デジタルゲームに古くから造詣が深い研究者として知られている。その中沢氏が「遊び研究」の古典的名著である『ホモ・ルーデンス』を引用しつつ、対談を通してデジタルゲーム研究に新たな視座を提供したことで、参加者も大きな刺激を受けていたように感じられた。

このほか、「企画セッション3/「ドラクエ」時代から振り返る、ゲームメーカー広報業務の歴史」では、旧エニックスで『ドラゴンクエストⅢ』および『IV』の開発に携わり、ゲーム会社と出版社のエコシステムをつくり上げたゲーム開発者の高橋宏之氏(キャメロット)が登壇。ゲームライターで本学会ゲームメディア専門部会世話人の鴫原盛之氏との対談で、「ドラクエ」開発と『週刊少年ジャンプ』との関係が、日本のゲーム会社とゲームメディアにおける関係性構築の基礎をつくり上げたことが明かされた。対談中で高橋氏は『ドラゴンクエストⅣ』開発で得た知見をもとに、ゲーム雑誌での情報露出とゲーム開発を有機的に連携させ、宣伝行為につなげるノウハウを習得したと解説。同時期に考案したメディア向けのプレスキット作成が、「ファイナルファンタジー」シリーズをはじめ、多くのゲームで踏襲され、業界標準になっていったことも示した。

また、「企画セッション4/ナムコ開発資料のアーカイビングとその活用」では、バンダイナムコスタジオの兵藤岳史氏から、同社が進める1980年代のゲーム開発資料のアーカイブに関する取り組みに関する発表が行われた。兵藤氏はアクションゲーム『マッピー』(1983年)の例をあげつつ、ゲーム黎明期の開発資料は貴重な文化遺産であるとともに、人材教育にも活用できるとコメント。今後もアーカイブを進めつつ、一般公開も視野に入れていきたいとした。一方で「セッション1 シリアスゲーム/行政、広報、ゲームの「将来」:2017年衆議院選挙での公共PR「eスポーツ×衆議院議員選挙」はどのように企画・運営されたか?」では、蔵原大氏が、行政主導によるゲームの活用事例で、公文書による記録が数年で破棄されている現状を指摘。2017年衆議院選挙で東京都選挙管理委員会が企画・開催した社会啓発イベント「eスポーツ×衆議院議員選挙」について、公文書のリサーチと関係者へのヒアリングを元に、予算や開催概要について説明した。いずれもアーカイブという点で興味深い事例になったといえる。

大会参加者一堂で記念写真

最後に大会クロージングで遠藤雅伸氏より、DiGRA JAPANの上部組織にあたるデジタルゲーム学会(DiGRA)の国際大会が2019年に京都の立命館大学で開催されることがあきらかにされた。また、DiGRA JAPANの第8回夏季研究発表大会も国際大会にあわせて、同じく立命館大学で開催される予定だとコメント。遠藤氏は「日本のゲーム研究を世界の研究者に広く紹介するチャンス」だとして、多くの研究発表を期待したいと呼びかけた。日本でDiGRAの国際学会が開催されるのは、2007年に東京大学で開催されて以来、12年ぶり2回目となる。また、DiGRA JAPAN自体がDiGRA2007を東京で誘致するための受け皿として、2006年に設立された経緯もある。まさに2019年に新たな飛躍を果たすために改めて足場を固める、そんな意味合いも感じさせる本研究大会となった。


第7回夏季研究発表大会
テーマ:越境するデジタルゲーム研究
開催日:2018年9月1日(土)
会場:明治大学 駿河台キャンパス アカデミーコモン
主催:日本デジタルゲーム学会
http://digrajapan.org