2000年4月から2001年3月にかけて全6話のOVA(オリジナルビデオアニメーション)としてリリースされた、ガイナックス制作の鶴巻和哉監督『フリクリ』。こだわり抜かれたアニメーション演出と、サブカルチャーへの造詣が合わさった独特の世界観は、日本のみならず世界のアニメファンからカルト的な人気を得た。18年の時を経た今年、『フリクリ』の初めての続編、『フリクリ オルタナ』『フリクリ プログレ』が、劇場作品として公開。制作会社をProduction I.Gに移し、装い新たになったこの2作品は、『フリクリ』の何を引き継ぎ、何を新たにしたのか。

新たな提案としての青春物語『フリクリ オルタナ』

2018年公開の『フリクリ オルタナ』(以下、『オルタナ』)は、主人公のカナと友人3人の、女子高生4人を主軸に据えた物語となっている。4人の友情や思いやり、気になる男子・佐々木に対するカナの心の揺れをメインに、前作の登場人物であり物語の推進役とも言えるハルハラ・ハル子が絡んでいく。OVA版『フリクリ』(以下、OVA版)に倣って6話構成となっているが、話の筋道がしっかりと設定されており、OVA版とはまた違った、わかりやすい青春物語となっている。
監督の上村泰は2004年にガイナックスに入社し、OVA版の監督を務めた鶴巻和哉の下でキャリアを始めている。アニメファンだったという上村は、大学1年の時に観たOVA版を、「初めて、コマ送りで観るということをやった」(註1)と評しており、多大な影響を受けていることを明かしている。しかしながらその続編である『オルタナ』の監督を務めるにあたっては、OVA版のような説明の少ない複雑で難解な演出作品ではなく、「わかりやすい『フリクリ』」をつくることを選択している。上村はOVA版の魅力を「心の動きが繊細に描かれている」と捉えており、『オルタナ』では自分が高校生の頃に感じていた「モヤモヤ」を、主人公・カナの視点を通じて描き出すことに尽力したという(註2)。
本作は女子高生たちの友情とそれぞれの心情変化、恋愛、将来の道を悩みながら選んでいく過程などが全面に押し出されており、旧来のファンからは『フリクリ』らしくないという意見もあるが、“心の動き”という一要素を取り出して新しい作品に仕上げたことから、OVA版が提示していた重層的な要素が改めて感じられる。この青春物語もまた、新しい『フリクリ』なのだ。

新しいクリエイションの輝き『フリクリ プログレ』

『フリクリ プログレ』は、雲雀弄(ひばじり)ヒドミと井手交(こう)という高校生の男女が、ハルハラ・ハル子が分裂したうちのひとり、ハルハ・ラハルの壮大な野望に巻き込まれながらも、互いを意識していく物語が主軸となっている。こちらはOVA版と似たテイストで、説明しすぎない多様な読みと謎が散りばめられた作風に仕上がっている。
本作も『オルタナ』と同様に6話構成となっているが、『オルタナ』と異なり、各話ごとに監督が異なる。なかでも1話「サイスタ」監督の荒井和人と5話「フルプラ」監督の末澤慧は、本作が初監督作品となる。荒井は1991年生まれ、末澤は1985年生まれと若手ながらも、確かな個性を感じられる表現をつくり出している。
「サイスタ」監督の荒井は、最初のエピソードでもあるので表現は保守的にしたと語っており、インタビューでは「もっと実験的な映像でもよかったかな」と後悔も口にする。しかしながら、キャラクターデザインにも深く関わっており、何千字もの設定を考えたそうだ。例えばヒドミのヘッドホンに特徴的な猫耳を生やすことも荒井の発案によるものだというし、本作オリジナルのメインキャラクターであるジンユのデザイン案も手がけている。エピソード間の整合やバランスも荒井が担当し、かつてOVA版の鶴巻和哉のようなポジションもこなしており(註3)、20代ながら本作で確かな仕事を務め上げていることが確認できる。
一方、末澤の「フルプラ」は、本作では一番先鋭的な映像表現に挑戦していたと言ってよい。このエピソードは、原画担当のアニメーターが描いた線をそのまま生かした、高畑勲監督『かぐや姫の物語』にも似た画づくりがなされている。これは通常動画マンの担当である原画と原画の間を繋ぐ中割り(原画と原画のあいだの動きを分割して絵にする作業)までを原画担当が行うことで実現しており、分業の性格を薄くした、自主制作アニメにも似た手法をとっている。さらに原画マンは色塗りまで担当していて、デジタル作画ながらも手描きの筆致や圧が生き生きと伝わってきて目が奪われる(註4)。
かつてのOVA版が、各カットごとにアニメーターの色が濃く出ていた作品であったように、本作も各話で監督の個性が強く押し出されている。本作における前述の2人の仕事は、これからに繋がる表現の可能性を感じさせてくれる。

次の世代のアニメーションのために

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズや『龍の歯医者』の監督を務め、名実ともに現在のアニメーション界を牽引する一人と言ってよい存在となっている鶴巻和哉だが、そんな彼が初めて監督を務めた作品がOVA版であった。
熱狂的なファンが多いだけに、今回の新作にはさまざまな評価が飛び交う。しかしながら、『フリクリ』の本質を心情劇と解釈し新たな提案を成功させた上村泰、エピソード間の繋がりをとりまとめクオリティ維持を担った荒井和人、「『フリクリ』らしさ」にあふれる斬新な表現に挑戦した末澤慧など、次世代の存在が強く感じられたのは紛れもない事実である。今ではトップクラスのクリエイターたちが、かつてそれぞれの仕事において自分の色を出したOVA版のように、本作もまた10年後20年後の豊かなアニメーション表現への軌跡になるはずだ。


(脚注)
*1
『CONTINUE』(太田出版)Vol. 55、第1特集 フリクリ、P. 35

*2
『CONTINUE』(太田出版)Vol. 55、第1特集 フリクリ、P. 36

*3
劇場版『フリクリ プログレ』パンフレット インタビュー 荒井和人×末澤慧

*4
『CONTINUE』(太田出版)Vol. 55、第1特集 フリクリ、P. 43−44


(作品情報)
劇場版『フリクリ オルタナ』
上映期間:2018年9月7日(金)−9月27日(火)
上映時間:135分
監督:上村泰
脚本:岩井秀人
キャラクター原案:貞本義行
声の出演:新谷真弓、美山加恋、吉田有里、飯田里穂、田村睦心、ほか

劇場版『フリクリ プログレ』
上映期間:2018年9月28日(金)−10月18日(火)
上映時間:136分
監督:荒井和人、海谷敏久、小川優樹、井端義秀、末澤慧、博史池畠
脚本:岩井秀人
キャラクター原案:貞本義行
声の出演:林原めぐみ、沢城みゆき、水瀬いのり、福山潤、ほか

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