『PUI PUI モルカー』を手掛けた見里朝希のように、学生アニメーション出身者が、その個性を商業アニメーションの世界で発揮する流れが広がってきている。現代美術やミュージックビデオといった方面で生かされることが多い表現技法や、アカデミズムで学ぶ創作姿勢が、どのような経緯で商業アニメーションに生かされるに至ったのか。プロデュース側の視点も含めて、実例を挙げながら検証する。

東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)2021の「YOUNG POWER 2021」で西郡優喜子さん(左)の作品を講評する中武哲也さん(右から2人目)とアニメーターの渡辺敦子さん(右)

『PUI PUI モルカー』が生んだ新しい潮流

ひとつの流れが生まれている。美術系の大学や大学院でアニメーションを専門に学んだ人たちが、絵本のようなタッチの絵を動かしたり、人形をコマ撮りで動かしたりといった映像表現なり、羊毛フエルトのような素材の部分での個性的なクリエイティビティを生かしながら、大勢の目に触れる商業アニメーションの世界に参画する流れが、この10年ほどのあいだに大きく広がったように見える。代表例が、2021年4月からテレビ放送された、見里朝希監督による『PUI PUI モルカー』の大ヒットであり、2018年1月にテレビ放送され、実験的ともいえる演出で目を引いた『ポプテピピック』だ。どちらかといえば現代美術に近い分野のものとして見られていたクリエイティビティが、どのような経緯をたどって商業の世界で引っ張りだこになっていったのか?

2021年3月15日に東京・池袋で開催された、東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)2021で、アニメーションを学ぶ学生たちによる卒業・修了作品を上映する「YOUNG POWER 2021」というプログラムが行われた。その席上、『進撃の巨人』(第1期2013年、第2期2017年、第3期2018〜2019年)や『GREAT PRETENDER』(2020年)といったシリーズを手掛けているアニメーション制作会社、WIT STUDIOの共同創業者で取締役の中武哲也が、ストップモーションのアニメーションスタジオを社内に設立する準備を進めていることを打ち明けた。

その時は、具体的な内容にまでは触れなかったが、後に参画するのが『PUI PUI モルカー』で脚光を浴びた見里だということが発表され、世間は大いに湧いた。2017年に東京藝術大学大学院の映像研究科アニメーション専攻を修了した見里は、修了作品の『マイリトルゴート』(2018年)が世界中の映画祭で賞を獲得し、次代を担うアニメーション作家として注目を集めていた。次に何をつくるのか? アヌシーやオタワといった主要なアニメーション映画祭でグランプリを狙うクリエイターになるのか? そう思われていた見里が、次に手掛けたのがテレビの子ども向け番組『きんだーてれび』で放送される『PUI PUI モルカー』だった。

意外だったかといえば、そこへと至る伏線はあった。大川ぶくぶのマンガを原作に、神風動画がテレビアニメ化を行った『ポプテピピック』だ。ショートアニメをつないでいくパターンで構成されていて、全話の、それもAパートとBパートで、主人公のポプ子とピピ美を演じる声優をすべて変えるという、通常のアニメではありえない演出も行われて、アニメファンに評判となった。同時に、セルルックのアニメーションだけでなく、羊毛フエルトで造形されたキャラクターが踊るストップモーション・アニメーションや、ゲームのドット絵のようなアニメーションも使われて目を引いた。

この羊毛フエルトを使ったアニメーションで起用されたのが、見里より先に東京藝大大学院(以下、藝大院)アニメーション専攻を修了した当真一茂と、小野ハナによるユニット「UchuPeople」だ。当真は、修了作品として羊毛フエルトのキャラクターをコマ撮りで動かす『パモン』(2014年)をつくっており、『ポプテピピック』ではそのテイストが生かされた。小野は、修了作品『澱みの騒ぎ』(2014年)が第69回毎日映画コンクールで大藤信郎賞を受賞。WIT STUDIOが参加したテレビアニメ『けだまのゴンじろー』(2019〜2020年)の第20話Bパート「だっしゅつ!毛だらけワールド」で、絵コンテと演出を手掛けた。

この『けだまのゴンじろー』で、エンディングのアニメーションのディレクターを務めたのが、見里だった。WIT STUDIOでは『PUI PUI モルカー』が世に出る以前から、しっかりと目を掛けていたことになる。キーマンは、同社の山田健太プロデューサーだ。学生アニメーションの上映会などに足繁く通って、新しい才能を見出し自社の作品に取り入れる試みを行って来たという。その流れで、ながべ原作のマンガ『とつくにの少女』(2015〜2021年「月刊コミックガーデン」連載)の第8巻にアニメーションDVDを付けることになった際、藝大院アニメーション専攻を出た久保雄太郎と米谷聡美を起用した。

久保は、東京工芸大でアニメーションを学んだ後、藝大院に進んだ経歴の持ち主。手掛ける作品は、高度な動きを手描きの絵の連続で見せるもので、伝説のカナダ人アニメーション作家、ライアン・ラーキンを思わせる創造力が感じられた。米谷も、東京工芸大から藝大院に進んだ口で、修了作品『白いうなばら』(2015年)は絵本のような淡いテイストを持った作品だった。そんな2人を起用し、それぞれの持ち味を生かした短編をつくらせたWIT STUDIOでは、同じメンバーで長編版『とつくにの少女』の制作にも乗り出した。

こうした動きに加えて、見里によるストップモーション・アニメーションのスタジオ設立となれば、本気で商業アニメーションとは違った傾向のアニメーションに取り組んでいく覚悟があるといえる。計画自体は、『PUI PUI モルカー』がこれほどまでに大人気となる前から進めていたものだろうから、なおのこと会社としての本気度がうかがえる。押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)や、沖浦啓之監督『人狼 JIN-ROH』(2000年)など、ハイクオリティのアニメーションで知られるProduction I.Gと同じIGポートグループに属するWIT STUDIOだが、新しいことへの挑戦では、今やIGをしのいでいるといえるかもしれない。

そうした挑戦を、WIT STUDIOに限らず各所で起こしそうなきっかけを『PUI PUI モルカー』はつくった。モルモットという愛らしいキャラクターを羊毛フエルトでつくり、素材とのマッチング感を高めたこと、ハリウッド映画を思わせるような派手なアクションを、丁寧な造形と1話1カ月といった丹念な撮影作業によってつくり上げたことで、見る人が驚き、感動する作品に仕立て上げた。

『PUI PUI モルカー』には、UchuPeopleの小野ハナも参加して、第3話「ネコ救出大作戦」と第4話「むしゃむしゃおそうじ」で絵コンテを担当した。モルカーたちの愛らしさと優しさが感じられるエピソードだった。スパイ映画ばりのアクションで話題となった第8話「モルミッション」で、見里とともに絵コンテとアニメーターを担当した佐藤桂も、藝大院で学んだ一人。修了作品「A Pawn」(2019年)では、木ぎれでつくられた兵士たちが、木ぎれの散らばった戦場で撃ち合うストップモーション・アニメーションを見せてくれた。

「ピングー」シリーズ、「ひつじのショーン」シリーズといった海外のアニメーション作品や、「こまねこ」シリーズ、『リラックマとカオルさん』(2019年)といった合田経郎が率いる日本の「ドワーフ」による作品を通じて、ストップモーション・アニメーション自体への親しみは醸成されていた。近年は、見里が強く惹かれたというヘンリー・セリック監督の『コララインとボタンの魔女』(2009年)や、日本がモチーフになったトラヴィス・ナイト監督『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2016年)を手掛けた「スタジオライカ」の作品が、ストップモーション・アニメーションで映画シーンを牽引している。

それでも、『PUI PUI モルカー』のように、学生アニメーションの世界を巣立って間もないクリエイターが、テーマやビジュアルで子どもから大人まで幅広い層にヒットする作品を手掛けたことは、新しい潮流といえそうだ。

久野遥子のクリエイティビティ

そうした先駆的な存在としては、岩井俊二監督の『花とアリス殺人事件』(2015年)にロトスコープアニメーション(俳優たちの動きをトレースしてアニメーション化する手法)のディレクターとして携わった、久野遥子がいる。2013年に多摩美術大学のグラフィックデザイン学科を卒業した際に制作した『Airy Me』(2013年)が注目を集め、第17回文化庁メディア芸術祭でアニメーション部門の新人賞を、マンガ『甘木唯子のツノと愛』(KADOKAWA、2017年)では第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞したクリエイターだ。

久野遥子『Airy Me』

少女マンガ的な面立ちをしたキャラクターが登場するルックに、商業アニメーションを真似たものかと思わされるが、すぐさま部屋の中を自在に動き回るカメラワークなり、メタモルフォーゼしていくモチーフなりといった、アニメーションとしてのテクニックの高度さに驚かされ、何が描かれているのかを知ろうと深く見入らされる。

商業とアートのボーダーを揺さぶるような作風を取り入れようとしたのだろうか。『スワロウテイル』(1996年)の岩井俊二監督が、実写作品としてつくった『花とアリス』(2004年)の前日譚となる『花とアリス殺人事件』を制作した際に、大学を卒業して間もない久野を、ロトスコープアニメーションディレクターとして起用し、動きや見せ方のセンスを取り入れた。

独特の画風から、NEWSの加藤シゲアキによる小説『オルタネート』(新潮社、2020年)の表紙絵を描き下ろしたり、LUMINEの「ルミネカード10%OFFキャンペーン」でアニメーションCMを制作したりと、活動の幅を広げている。そのなかにあって、商業アニメーションへの参画も少なくなく、市川春子の同名マンガを原作にしたテレビアニメ『宝石の国』(2017年)では、エンディングや第11話「秘密」の演出などを担当した。

マンガ大賞2018、第21回文化庁メディア芸術祭新人賞を受賞した板垣巴留の同名作品を原作にしたテレビアニメ『BEASTERS』(2019年)でも、第7話「制服と被毛のそのまた下の」でウサギのハルが見る夢のパートを担当した。カメラワークとメタモルフォーゼの妙味を見せて、セルルックのフル3DCGでつくられた作品に、アクセントとしての揺らぎを与えている。

起用される作家の確立した個性が大きく損なわれることなく、商業アニメーションの世界に取り入れられているという点は、『ポプテピピック』に起用されたほかの学生アニメーション出身クリエイターたちと同じだが、そうした個性を、同じ作品にバリエーションを与える意味で使ったというよりは、同じシリーズの中で個性が生きる部分を見出し、任せたという点で先進的といえるかもしれない。

商業アニメーションの現場で活躍する大学アニメーション出身者

2021年4月から6月にかけテレビ放送された商業アニメーションでも、学生アニメーション出身者の活躍があった。『オッドタクシー』(2021年)の木下麦監督だ。タクシードライバーとして働くセイウチの主人公をはじめ、ゴリラの医師やアルパカの看護師、トイプードルのアイドルといった具合に、擬人化された動物たちが生きる世界を舞台にした物語と見せて、じわじわと真実が明らかになっていくミステリー仕立ての内容で話題になった。

木下監督は、2014年に多摩川美術大学を卒業した際に『INDOOR』という作品を手掛けたあと、アニメーターなどを経験してP.I.C.S、OLM制作の『オッドタクシー』で初監督を務めた。1950年代のアメリカのアニメーションが持つ風合いを再現した卒業制作での取り組みが生かされた、グラフィカルな東京の街の描写に登場人物たちの入り組んだ関係が乗って、かわいらしいが奥深い物語世界をつくり上げた。

ほかの制作現場ではどうか。実は、老舗中の老舗スタジオ、東映アニメーションでも藝大院を出たクリエイターが活動を始めている。同社の若手が部署を超えて集まって、ひとつの企画を動かすプロジェクトから生まれた『ジュラしっく!』(2018年)という短編アニメーションで、監督を務めた石谷恵だ。

『かたすみの鱗』(2015年)という修了作品は、恐竜の化石を収蔵した博物館への思い出を振り返った女性が、少女となって動き出した恐竜たちに出会う幻想的なストーリーと、柔らかい絵柄で、才能をうかがわせた。東映アニメーションに入って、今は『ONE PIECE』(1999年~)の演出を任されるまでになっているが、その過程で『ジュラしっく!』を手掛けて、再び恐竜たちを動かしてみせた。

同じ東映アニメーションで、『ゲゲゲの鬼太郎』第6期(2018~2020年)の第1、第2エンディングを担当し、シリーズに演出助手としても携わった松實航は、日本大学芸術学部映画学科でアニメーションを学んだ。『私はワタシ』(2016年)という卒業作品では、個性的な少女が自分は普通だと思っているのに、周囲はそう見てくれない歯がゆさや寂しさを乗り越えていく姿を、優しい絵柄で描いた。

これは、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(2019年)の片渕須直監督が受け持った卒業制作ゼミから生まれた作品だった。片渕監督自身も同じ日芸映画学科の卒業生。テーマ性を持った作品で何かを感じさせるクリエイターの後輩を送り出した格好だ。

より強い商業性を持った、学生アニメーション出身者として忘れていけないのが石田祐康だ。京都精華大学マンガ学部アニメーション科の学生時に、『フミコの告白』(2009年)というアクション性に秀でた作品を送り出し、一般のアニメファンにも強烈な印象を与えた。卒業制作となった『rain town』(2011年)は、一変して雨が降り続ける街を舞台に、少女とロボットとの交流を描いた優しくて切ない作品だった。『フミコの告白』は第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞、『rain town』は第15回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞新人賞に選出されている。

石田祐康『フミコの告白』

そうした幅の広さを、卒業後に自ら設立に携わったスタジオコロリドを拠点に、『陽なたのアオシグレ』(2013年)や『ペンギン・ハイウェイ』(2018年)を次々に発表することで見せている。若いながらも確実に作品を発表している活躍ぶりは、九州芸術工科大学(現九州大学)在学中からアニメーション制作を始め、スタジオ・リッカを立ち上げ『サカサマのパテマ』(2013年)を監督し、2021年に新作『アイの歌声を聴かせて』の公開を控える吉浦康裕とともに、新海誠を追うクリエイターとして注目される。

ちなみに、スタジオコロリドの『ペンギン・ハイウェイ』で作画監督を務めた石舘波子は、その後に藝大院に進んでこの春に修了作品『わたしのトーチカ』(2021年)を発表した。地上のドームで暮らす少年が、潜水服を着て井戸に降りるとそこには家があり、少女が暮らしている。学校があって、少年は潜水服のまま学校に通い、友人たちと交流し、戻って少女のわがままに付き合って、寝て起きてまた学校へと行く繰り返しの日々を送っている。

友人だと思って話し掛けても、相手は友人だとは思ってくれない。そうした疎外感や孤独感が漂う作品をつくるに当たって、石舘は主演の声優に沢城みゆきを引っ張り出した。制作中から、声は絶対に沢城みゆきだと決め、無理なら全部自分で演じるしかないと覚悟しながら事務所に依頼すると、ぜひにと引き受けてくれたという。学生作品であっても妥協しないプロ意識に加え、学生として学んだ技術や演出などのノウハウが、再び戻ったアニメーション制作の世界でどのように発揮されていくのか。次の監督作品を見てみたい。

プロデューサーとクリエイター、それぞれの視座

ほかにも多々、学生アニメーション出身で、商業アニメーションの分野で活動しているクリエイターはいる。『PUI PUI モルカー』のヒットもあって、よりいっそう新しい才能を探し出そうとする動きが強まるかもしれないが、すべてがうまくマッチングするとは限らない。『ほしのこえ』(2002年)で新海が世に出た後、個人クリエイターに注目する動きが活発化したが、今に続く大きな勢力を形成するほどには至らなかった。作家の個性がそのまま出た作品で勝負するには、WIT STUDIOのように盛り立ててくれるプロデューサーが必要だった。

あるいは、『宇宙よりも遠い場所』(2018年)のいしづかあつこのように、商業の世界で活躍を目指す道もある。愛知県立芸術大学在学中からアニメーション作家として注目を集めていたいしづかあつこだが、本人は当初から商業志望で、マッドハウスに入り数々の作品に携わって現在に至る。

TAAF2021の「YOUNG POWER 2021」で学生の作品を見たWIT STUDIOの中武取締役も、女子美術大学の西郡優喜子による『光明は囁く』(2020年)を見て、「人を感動させるストーリーがベースにあって、西郡さんの映像が乗ることで一歩進めるのではないか。日常の幸せみたいなのを映像化するような企画と合体した時、進化しそうな気がする」と指摘。自身がIG時代に手掛けた『君に届け』(第1期2009〜2010年、第2期2011年)を例に挙げ、「『君に届け』をやってください」と言っていた。

「YOUNG POWER 2021」の最後では、中武取締役が参加者たちに、「最適な未来がきっとある。本人がやりたいことが大切で、納得がいく人生でないといけないが、要望に応えられることがあれば、気楽に連絡して欲しい」と呼び掛けていた。信じて飛び込むのもひとつの道。そして、自身が信じる道を貫き、世間に認めさせるのもひとつの道だ。

いずれにしても、アニメーションを学んだ学生の感性や技術の使いどころを見極めるプロデュース側の目、そして、自身で得意不得意を理解して、最善の道を模索するクリエイター側のセルフプロデュース力が、より良いマッチングを生んで、次代のアニメーションに豊穣さをもたらすことになりそうだ。