愛知県立芸術大学 関口敦仁
作業概要
本事業では、メディアアート部門での研究マッピングとして研究状況のマッピング調査およびデータベースウェブサイト「メディアアート文化史インターフェイス」のメンテナンスを行なった。
研究マッピングはメディアアートの研究状況の調査として60年代から現在まで、メディアアートに関する研究論文や執筆情報の取得および分析である。日本語で書かれた研究論文を、Google Scholarなどの各種論文検索ウェブサイトからスクレイピングし、Endnoteへの出力、データクリーニングを行った。集めた情報は約1300論文以上となり、それらを経年およびカテゴライズで分類し、分析および検証を行った。また、データベースウェブサイト「メディアアート文化史インターフェイス」(昨年度「メディアアート文化史」構築事業の成果)は公開を前提としており、今年度は、内容を精査する等のデータの更新やインターフェイスの仕様等のメンテナンスを行った。
はじめに
昨年まで本事業でのメディアアート部門ではオブザーバーとして参加していた。
今年度はメディア芸術の他の部門で研究マッピングが進んでいく中で、メディアアート部門でも、研究マッピングによって、メディアアートの研究状況について調査を行う必要が生じ、今年度の事業として行った。
事業内容は以下の4行程となる、
1、メディアアートに関する研究論文や執筆情報取得。スクレイピングとクリーニングによる。
2、研究マップデータベース構築がなされた場合に、掲載するリンクデータの情報の保存
3、集められた情報について、経年、カテゴライズ分類し、それらの比較を行う。
4、昨年度行われたメディアアート文化史構築事業成果の、メディアアート文化史インターフェイスの公開を前提とした、データの更新やメンテナンス。
1、メディアアートに関する研究論文や執筆情報取得
一般的な研究論文サーチ手法を利用して、スクレイピングによりデータ収集を行った。
アニメーション分野で行なっている手法を参考に進めた。
当初、論文サーチクラウドMendeleyを利用し進めていたが、今後、日本語の検索サービスの終了の告知もあり、手法の変更を検討した。
日本語論文のサーチは、CiNii, J-stage, などを直接検索し、その後、Google Scholarで「メディアアート」、「ビデオアート」、「メディアインスタレーション」等のキーワードからスクレイピングを行い、Endnoteへの出力を行なった。IDOを持つ情報と持たない情報も含め、論文のみならず、キーワードに該当する文献情報の収集を行った。
それぞれの論文管理サイトによって、同じEndnoteの出力でも、書式が違い、出力情報のクリーニングが管理必要となり、時間のかかる作業となった。ただ、より適切なスクレイピングにより、論文数は増量するはずである。今回は大きく概要を見てみたとするのが適切であろう。
図1、Google Scholar画面
2、研究マップデータベース構築がなされた場合に、掲載するリンクデータの情報の保存
スクレイピングしたデータは基本的にはEndnoteのデータフォーマットで保存しておき、データ表示に対応した、今後の報告などのウェブ掲載に合わせデータ出力の検討を行う。
図2、Endnoteでのデータ表示画面
3、集められた情報について、経年、カテゴライズ分類し、それらの比較を行う。
Endnoteのサーチ機能を利用して、メディアアート研究マッピング比較年表(図3)を作成した。初出は1969年で万博の予行演習的なイベント「インターメディア・アート フェスティバル」に関するテキストであった。その年から1995年頃までに書かれた研究論文では「ビデオアート」関するもので、その内容は、ビデオをどのように使うかという技術論、ビデオを用いた作品論で占められている。特に1990年代の研究論文では、最新のテクノロジーとしてビデオを使ったアート、という見方で論じられた論文がいくつか見受けられる。
1995年以降になると「メディアアート」というワードが増えていく。これまでのメディアアートの歴史を振り返るもの、海外でのメディアアート系展覧会のレポートが多い。同時に、執筆者の勤務校での実績レポートや授業内容のレポートも増えている。このことは、各大学にメディアアート系の学科やコースが設置された背景とも重なる。
2000年以降は、扱う内容やテーマの幅に広がりが出て来る。映画や音楽といったジャンルを含有したもの、テレビゲームやウェブサイトと関連付けたものを見る事が出来る。これらの多くは、執筆者の論、執筆者の作品についての論である。なお、文献の出自元が学会誌のみならず、『美術手帖』や『広告』といった雑誌であることも特徴として挙げたい
2010年代に入ると、より内容やテーマの幅が細分化され、傾向づけることは難しく、文献の出自元も多様化していく。メディアアートがアートの中の一ジャンルに留まる事無く、より多くの分野で理解され、求められている現状を感じる取ることができるだろう。
全体的には、ビデオアートが盛んな時期は制作主体で研究論文の対象として扱われる数が少なかったと思われる。近年になって、それらを歴史的に記述する文献が目立つのが特徴である。一方、メディアアートの制作者は、美術系の作家のみならず、工学系、情報工学系の研究者や、彼らとアーティストのコラボレーション作品も多いのが特徴としてあげられる。そのため、制作者自身の論文は、他者による作品研究、歴史研究とともに、多くの割合数を示ししている。この点はメディアアート部門がメディア芸術の他の部門と異なる特徴といえるであろう。研究論文の総数は最近の5年間は安定的に推移しているが、その数が増えてはいない。研究発表されている学会なども、多くあるが、それぞれの学会においては少数派と言える状況でもある。この点は、メディアアートが様々な分野へ拡張している点とも言えるが、表現としての受け入れ先が少ない影響とも読み取ることができるだろう。
図3 メディアアート研究マッピング比較年表
4、昨年度行われたメディアアート文化史構築事業成果の、メディアアート文化史インターフェイスの公開を前提とした、データの更新やメンテナンス。
メディアアート文化史インターフェイスはすでに公開しているが、その取り扱い説明などがなく、利便性がない状況でもあった。今後、メディア芸術研究マッピング事業のウェブ公開に合わせて、リンク先の提示のみならず、使用説明も加えて、今後の研究のために利用できるように配慮する。