1. 本事業の趣旨・背景・目的
本事業は、一昨年度および昨年度の同事業の継続として、国内外のゲーム研究の歴史と現状を整理し、それを通じて今後の国内のゲーム研究の活性化を目指すものである。
一昨年度は、ゲーム研究の重要文献を洗い出し、リストアップするという作業を行った。昨年度は、研究史を文章形式で記述するという作業を行い、小冊子『ゲーム研究の手引き』としてまとめた。昨年度の作業は、一昨年度にリストアップした文献の関連づけや位置づけを実現できたという点で成果としては評価できる。しかし、一昨年度に作成した文献リストを目録として今後どのように整備し充実させていくかという点については現時点でほとんど手がつけられていない。
したがって、今年度は、限られた時間の中でできる作業として、ゲーム研究文献目録を今後具体的に構築していくための枠組みの定義を目標とした。
2. 実施概要
2.1. 実施体制
井上明人(立命館大学):助言
福田一史(立命館大学):メタデータ設計、報告書執筆
細井浩一(立命館大学):コーディネーター、助言
松永伸司(立命館大学):事業のディレクション、報告書執筆・編集
2.2. 実施スケジュール
第1回メディア芸術マッピング検討会
日時:1月23日(火)15時30分~17時
場所:大日本印刷加賀町ビル会議室
参加者(ゲーム領域):松永伸司
第1回メディア芸術マッピング(ゲーム領域)検討会議
日時:2018年2月6日(火)16時~18時
場所:遠隔会議
第2回メディア芸術マッピング検討会
日時:2月8日(木)14時~16時
場所:大日本印刷加賀町ビル会議室
参加者(ゲーム領域):細井浩一、松永伸司
第2回メディア芸術マッピング(ゲーム領域)検討会議
日時:2018年2月13日(火)12時~14時
場所:遠隔会議
第3回メディア芸術マッピング(ゲーム領域)検討会議
日時:2018年2月22日(木)10時~18時
場所:立命館大学ゲーム研究センター
※メディア芸術マッピング(ゲーム領域)検討会議には、各回とも井上、福田、細井、松永が参加。その他、適宜電子メールでのやりとりで進めた。
2.3. 作業概要
実質的な作業は、全3回の検討会議および本報告書の執筆である。
第1回検討会議では、一昨年度事業の文献リスト作成および昨年度事業の冊子作成の評価を行ったうえで、今年度の作業目標を策定した。文献リストは、重要文献の選別と一覧化という点で意義があるが、そのデータ自体は再利用可能な形式を持っていない。冊子は、ゲーム研究史とその中での各文献の位置づけを概観できるものではあるが、個々の文献の内容に即した分類・特徴づけはなされていない。これらの不足点を補うには、再利用可能なデータ形式を持ち、かつ個々の文献の特徴づけと関連づけが可能な文献目録を作る必要がある。そのための今年度内に実施可能な作業は、①文献目録の実現に向けた設計方針の決定、および、②目録作成のテストを行い、来年度以降の設計作業に具体的な見通しをつけること、の2点である。
第2回検討会議では、作業①について、おおまかな方針を定めた。具体的には、メディア芸術データベース(ゲーム分野)の枠組みをそのままゲーム研究文献目録にも利用するという案が示され、その実現可能性やメリットについて検討を行った。
第3回検討会議では、作業①のより具体的な方針の決定と、作業②を実施した。それぞれの詳細は3章に譲るが、最終的に文献目録の設計方針を確定し、来年度以降に必要な作業工程を明確化した。
以上3回の検討会議での議論とそこで得られた結論にもとづき、本報告書を作成した。報告書執筆は、松永(1章、2章、3.3節、3.4節、4章の執筆および全体の編集)と福田(3.1節、3.2節の執筆)が担当した。
3. 実施内容
以下、ゲーム研究文献目録の設計方針とその実現に向けた作業工程の詳細を述べる。
3.1. ゲーム研究文献目録の機能要件
前述の通り、一昨年度の事業ではゲーム研究文献のリストを、昨年度事業ではゲーム研究のガイドブックと位置づけられる小冊子をそれぞれ作成した。これらの事業を通して、重要文献のうちの一部は、リストと小冊子内の参照文献というかたちで、ある程度洗い出しがなされている。
しかし、現状ではこうした重要文献が文字通り単なる「リスト」として羅列されているだけである。今後の拡充や幅広い利活用のためには、文献情報を適切な機能を持つ目録として記録し、さらにはその目録を広く利用可能なオンラインの情報システムを通じて公開することを目指していく必要があると考えられる。
そのためには、まずゲーム研究文献目録の機能要件を整理しなければならない。とくに、書誌データについての近年の研究動向を踏まえるとともに、ゲーム資料との関連性などを十分に考慮に入れたかたちで機能要件を策定することが望ましいだろう。この想定にもとづけば、ゲーム研究文献目録の機能要件として挙げるべきは次の4点である。
- リスト化された資源を記録できること
- 標準的な(あるいは今後標準になると予想される)書誌データのためのメタデータモデルを有すること
- Linked Open Dataとして再利用性の高い書誌データが提供されること
- 研究の対象となるゲーム資料との関連が記録できること
3.1.1. リスト化された資源の記録
これまでに作成した文献リストを分類すると、書籍、雑誌論文、博士論文、オンライン文書の4種類に分けられる[1]。また、そこには国内・国外の文献がともに含まれる。目録はこれらを記録するためのものであるから、当然ながらそれらの文献資料に適用可能なメタデータモデルでなければならない。
3.1.2. 標準的な書誌データのためのメタデータモデル
パニッツィやカッターなどといった目録作成(Cataloging)を考えるうえでその端緒とされる研究以来、目録の形式や規則ならびにその標準化は重要な論点であり続けてきた。とりわけ、1997年にIFLA(国際図書館連盟)が刊行したFRBR(書誌レコードの機能要件)は、現在の書誌データのメタデータモデルを考えるうえで避けて通ることのできないものとなっている。事実、西洋を中心に、FRBRをモデルとして持つRDA(資源の記述とアクセス)がすでに「国際目録作成標準」となっている。日本でも、これに適応した規則として、「日本目録規則2018年度版」の刊行が今年度中に予定されている[2]。
また2017年には、FRBRおよびその補遺として位置づけられるFRADとFRSADを統合したモデルとして、IFLA LRM(IFLA図書館参照モデル)が発表された[3]。これは、目録のためのメタデータモデルを設計するうえで基礎となるハイレベルの概念モデルとして策定されたものであり、今後広く用いられていくことが予想される。実際、RDAもIFLA LRMへの適応を宣言している。
こうした国内外の動向を踏まえれば、IFLA LRMに適応する―つまりそれにマッピング可能な―メタデータモデルを有する目録を採用すべきである。同モデルを採用することで、IFLA LRMで定義される5つのユーザタスク、すなわち発見・識別・選択・入手・探索も同時に満たされると言える。
3.1.3. Linked Open Dataとしての利活用
Linked Open Data(LOD)とは、ウェブ技術を用いて機械可読性の高い形式で情報を公開する技術のことである。セマンティックウェブ技術の利活用の主要なムーブメントとして注目され、そのシーンも活発化してきている。書誌データは、一般的に再利用性が高いデータである。また、公共事業であるという本事業の根本的な性格からしても、LOD技術を導入して、広く用いられるように設計することが望ましいことは間違いない。
3.1.4. ゲーム資料との関連性
本事業において目録の対象となるのはゲーム研究文献であることから、ゲーム資料(とくにゲーム作品)について何らかのかたちで参照・言及するものが多数あることは確実である。具体例として、たとえば『マインクラフト』の教育への利活用実践の報告や、『ゼビウス』の持つ物語性に関する批判的論考などが挙げられる。このような場合、目録には当の文献とゲーム資料との関連を記録できることが求められる。この関連づけによって、その資料がどのような識別的特徴を持っているかをより具体的なかたちで明示できるようになる。
以上の4つの機能要件を満たす目録に文献を記録していくことで、拡張や関連づけを可能にする一般性と幅広い利用可能性を持ったゲーム研究文献目録を作ることができると考えられる。
3.2. ゲーム資料目録との統合
続いて、3.1節で示した機能要件をどのようなシステムとして具体的に実装するかについての構想を述べる。一言で言えば、すでに別事業として進行中の資料目録「メディア芸術データベース(正式版)(ゲーム分野)」との統合を目指すというものである。
3.2.1. メディア芸術データベース(正式版)(ゲーム分野)の概要
メディア芸術データベースは、2015年年度末に開発版が公開されたが、2020年度中には正式版としてアップデートされたデータベースが公開される予定である。
現在公開されている開発版は、識別子、タイトル、タイトル(カナ)、タイトル(ローマ字)、タイトル(英語)、プラットフォーム、発売日、ディベロッパー、パブリッシャー、ブランド、レーティング、プレイヤ数、価格、メディア、周辺機器、必要環境、推奨環境、著作権情報、所蔵情報、備考、レコード作成のための参考資料、などといった項目から構成されるシンプルなスキーマのデータベースである。これに対して正式版では、①書誌データ作成のためにIFLA LRMのメタデータモデルを基礎とするゲーム記述のための適用モデルとして設計し、②RDAの重要項目(コアエレメント)の属性を有する、③Linked Open Dataとして書誌レコードを提供する、といった方針に沿って開発が進められている[4]。現在策定中のモデルの概要が下記の図1である。IFLA LRMと同様に11個の実体からなる。各実体の属性の説明はここでは省略するが、上述の通りRDAの主要なエレメントが含まれている。
図1. ゲーム分野データベースのメタデータモデル概観
3.2.2. 研究文献についての同データベースの記述ポテンシャル
このメディア芸術データベース(ゲーム分野)の目録のためのメタデータモデルには、前述の通り、図書館の目録作成標準であるRDAのコアエレメントと呼ばれる主要項目が含まれている。すなわち、正式版のメタデータモデルは、図書館の伝統的な収集対象である資料―書籍、雑誌、雑誌内の論文など―の記録に用いることができるということである。また、RDAは、オンライン資料についても記録可能だという特徴を有している。下記の表1は、ゲーム研究文献の具体例について、現在想定するスキーマを用いてテーブル形式でメタデータを記録したものである。OPACで確認できるような、いわゆる図書館的な書誌データは、十分に記述可能であることがわかる。ここで示したのは体現形レベルの実体の記録のみだが、著作レベルや表現形レベルの実体の記録では、例えば主題・件名や言語など、当の資料の内容に関わる情報の記録がなされることになる。
属性 | サンプルデータ |
本タイトル | 文学としてのドラゴンクエスト: 日本とドラクエの30年史 |
異形タイトル | ぶんがくとしてのドラゴンクエスト: にほんとドラクエの30ねんし |
異形タイトル | ブンガク トシテノ ドラゴンクエスト ニホン ト ドラクエ ノ 30 ネンシ |
責任表示 | さやわか [著] |
出版地 | 東京都豊島区 |
出版者 | コアマガジン |
出版日 | 2016年12月16日 |
シリーズタイトル | コア新書 |
シリーズ内ナンバー | 019 |
発行形態 | single unit |
体現形の識別子 | ISBN: 978-4-86436-946-6 |
メディア種別 | unmediated |
キャリア種別 | volume |
数量 | 255 pages |
大きさ | 17.8 * 11.2 cm |
基礎素材 | paper |
入手条件 | 定価: 本体880円+税 |
表1. 書誌データ(体現形)の記録の事例
また、IFLA LRMの機能に沿って必要な書誌的関連を設計し、それを記録することができるというのも本目録の特徴である。たとえば、図2は研究文献のみならず、攻略本を含むゲーム作品以外の資料との関連の事例を示したものである。ここでは、「『Grand Theft Auto 4』という著作は『The Art of Failure』という著作に参照される」という関連が示されている。
図2. レコード間の関連を記録した事例
メディア芸術データベース(ゲーム分野)の目録では、ゲーム作品間の関連を記録するための語彙の実装については現段階ですでに想定されている。しかし一方で、ゲーム作品と研究資料の関連や、研究資料間の関連を記録するための語彙の実装については未検討である。それゆえ、この目録にゲーム研究文献目録を統合するには、これらの関連を記録するうえであらかじめどのような語彙が求められるかを洗い出し、整理することが必要になる。その語彙には、たとえば「参照する」、「言及する」、「批評する」などといったRDF(Resource Description Framework)における述語が含まれるだろう。さらに各述語がどの実体間に必要となるかを定義する必要がある。そうした語彙さえ確定できれば、あとは各クラスの属性もしくは関連を増やすだけでよいため、実装は問題なく可能だと予想される。
関連の記録に関する課題として、もうひとつ考えておくべきことがある。すなわち、データ間関連の数量的な膨大さに由来するメタデータ作成上の困難さという点である。データ間の関連は、実体の個数をnとすると、nの自乗分だけ存在し得ることになる。特徴的な例を挙げよう。『Rules of Play』というゲーム研究でよく参照される書籍があるが、この中では270件ほどのゲーム作品が参照されている。それらをすべて目録に記録し得るだろうか。あるいは、それが可能であったとして、そのような関連を大量に持つ文献をさらに大量に記録することは可能であろうか。データを記録することができるモデルを設計することと、実際にそのデータを記録することは分けて考える必要がある。実際にデータを作るに際しては、実効性や有用性という観点から別に基準を設ける必要性があるだろう。
このようにいくつか検討事項を残してはいるものの、メディア芸術データベース(正式版)(ゲーム分野)は、3.1節で述べたゲーム研究文献目録に必要とされる機能的要件をおよそすべて満たしていると言える。
3.2.3. ゲーム研究文献を同データベースに記録することのメリット
ゲーム研究文献をメディア芸術データベース(正式版)(ゲーム分野)で記録することのメリットは何か。ここでは、以下の4つの観点からメリットを述べる。
- 標準的な目録のためのメタデータモデルの採用による利便性・再利用性の向上
- システムの再利用によるコスト軽減
- 関連の記録によるデータベース全体の価値向上
- 主題記録の充実による利便性の向上
3.2.3.1. 標準的な目録のためのメタデータモデルの採用
一昨年度に作成したのリスト形式のデータでは、いわゆる現代的な目録に求められる機能をごく部分的にしか果たし得ない。それに対して、メディア芸術データベースのメタデータモデルは、いわゆる目録に必要とされる機能が十分に備わっているため、利便性が高い。
また本メタデータモデルは、IFLA LRMの適用モデルとして設計され、Linked Open Dataとして公開することを予定している。それゆえ、ここで作成された書誌データを様々なかたちで広く再利用することも可能である。
3.2.3.2. システムの再利用によるコスト軽減
本メタデータモデルに即した書誌データを作るだけで、ゲーム研究文献目録をそのままメディア芸術データベースに投入できるというメリットがある。言い換えれば、新たにシステムを開発する必要がないということである。フリーライドが可能だということは、コスト面で大きなメリットになると考えられる。
3.2.3.3. 関連の記録によるデータベース全体の価値向上
ゲーム作品とゲーム研究文献をつなぐ関連が記録されることで、個々の研究文献中に登場するゲーム作品の情報に利用者が容易にアクセスできるようになる。また、研究文献で頻繁に参照されるゲーム作品が何であるかといった全体的な傾向についての情報も得られる。また、場合によっては、どのような主体(個人や団体)についての研究が多いかも明らかになる。このように関連の記録は、ゲーム作品とゲーム研究文献の双方についての情報を増やし、ひいては目録・データベース全体の価値を高めるものになる。
3.2.3.4. 主題記録の充実
主題(subject)とは、簡単に言えば「資料を特徴づけるための辞書化されたキーワード」である。たとえば、「ゲーム音楽」に関する研究としてどのような文献があるかを探すことを考えよう。各データに適切に主題が付与されていれば、主題として「ゲーム音楽」と入力し検索することで、求める文献の情報の一覧を簡単に発見し、資料の取得方法まで把握することができる。
3.3節で詳しく述べる通り、ゲーム研究文献の主題記録を意義あるかたちで行っていくには既存の辞書だけでは不十分だが、メディア芸術データベースのシステムはそれを乗り越えるための環境を提供する。メディア芸術データベースでは、データの記録(主題の付与)だけでなく典拠ファイル(辞書)の作成も可能だからである。主題という論点は、パスファインダーという観点からよく取り上げられる。パスファインダーとは、資料までの通り道の設計のことであり、初心者を中心とした幅広い利用者に必要な普遍性の高い目録に対するニーズにもとづく機能である。主題を充実させることで、より普遍的で柔軟な、より良い目録になることが期待される。
3.3. 主題の設計
3.2節で述べた通り、メディア芸術データベースの枠組みはそのまま利用可能だが、そこで現在採用されている主題や主題ファセット(キーワードの切り口)は、ゲーム資料向けのものである。したがって、ゲーム研究文献向けのものを新たに設計する必要がある。
3.3.1. 既存の図書館目録の主題の利用可能性
本事業では、いくつかの既存のゲーム研究文献について、①国立国会図書館とアメリカ議会図書館のそれぞれの目録でどのように主題が記録されているか、および、②ゲーム研究文献に用いるべき語彙がそれらの目録の典拠ファイルにどれだけ登録されているか、についてサンプル調査を行った。結果として、次のことが明らかになった。
まず、全体的にゲーム研究に関わる主題・件名の数量が少なく、個々のゲーム研究文献の主題記録が非常に手薄なものになっている。これでは、文献資料への適切なアクセスが提供できているとは言えない。
次に、典拠ファイルでは、「人文学」や「社会科学」といった大分類の中に「哲学」や「美学」、「経営学」や「情報学」などのような幅広い個別分野が位置づけられており、学部や学科が設置されるような一般的な研究分野を指し示す語は十分に整理・組織化されている。しかし、「ゲーム研究」や「ゲームスタディーズ」を示す語がないなど、応用分野や新興分野については不十分である。
結論としては、既存の図書館主題目録の主題は部分的に利用可能ではあるものの、本事業の目的にとっては明らかに不十分である。そのため、新たに自前で典拠ファイルの作成を進める必要がある。
3.3.2. 主題設計の方法
この典拠ファイルの作成は次年度以降の課題になるが、見通しをつけるために、ゲーム研究文献目録に含めるべき主題および主題ファセットをどのように選び出すかについて検討を加えた。具体的な作業としては、数冊の文献をテストケースとして取り上げ、それぞれに適用すべき主題を列挙したうえで、それらの主題をファセットとして分類することを試みた。表2は、文献ごとの主題候補である(テストなので、正確な主題記録を期しているわけではない)。
文献 | 主題候補 |
尾鼻崇『映画音楽からゲームオーディオへ』 | ゲームオーディオ、ゲーム音楽、美学、ゲームスタディーズ、ゲーム史、スーパーマリオブラザーズ、時間論、物語論、表象 |
小山友介『日本デジタルゲーム産業史』 | 経済学、経営学、ゲーム史(産業史)、ファミリーコンピュータ、PCゲーム、アーケードゲーム、ソーシャルゲーム、アタリショック、風営法、プラットフォーム、オンラインゲーム、ゲーム研究 |
イェスパー・ユール『ハーフリアル』松永伸司訳 | ゲームスタディーズ、ゲームの定義、フィクション、物語、心理学、ゲーム理論、美学、ルール |
K. Salen & E. Zimmerman, Rules of Play | ゲームスタディーズ、ゲームの定義、ゲームデザイン、マジックサークル、意味ある遊び、ルール、物語 |
表2. ゲーム研究文献の主題記録のテスト
これらの主題のうち、たとえば「美学」、「経済学」、「ゲーム史」、「心理学」などは「研究分野」のようなファセットとしてまとめられるだろう。また、「ゲーム史」には「ゲーム産業史」などのように下位主題を考えることもできるかもしれない。それ以外の主題、たとえば「アーケードゲーム」や「ソーシャルゲーム」などを「ゲームジャンル」のようなファセットとしてまとめるかどうかについては、検討会議のメンバーの間で見解が分かれた。さしあたりは細かく分類するのではなく、ある程度運用してみてから必要があればファセットを再組織化するというのが現実的だと思われる。
このテスト作業を通して、主題の選別・設計をする際の基準がいくつか明確になった。第一に、主題は複数の資料に横断的に適用できるものにすべきである。たとえば、ひとつの主題がひとつの文献にしか適用されていないといった事態が頻繁に起きるようだと、目録としては意味がない。第二に、利用者の利用方法を具体的に念頭においたかたちで主題を設計すべきである。研究分野から文献を探す人もいるかもしれないし、なんらかの研究主題から文献を探す人もいるかもしれない。あるいは、自分が何について探すべきかをとくに自覚しないまま、目録にアクセスする人もいるかもしれない。こうした利用者の多様な利用方法に配慮し、それに対応できるようなパスファインダーを設計することが望ましい。
いずれにせよ、今回のテストを踏まえたうえで、次年度以降に本格的なサンプルレコードをいくつか作成し、具体的な運用に向けて主題を設計していく必要がある。そのためには、多様な分野からのゲーム研究者の協力を得ることが肝要である。それによって、適切かつ有効な主題を個々の資料に与えるとともに、的確かつ充実した典拠ファイルを用意することが可能になるだろう。
3.4. 利用者インターフェイスの設計
以上はゲーム研究文献目録のデータ設計をどうするかという課題だが、その目録をどのようなかたちで利用者が利用できるものにするかという課題もある。これも具体的には次年度以降の課題になるものの、利用者および利用目的の多様性を考えれば、ひとまずウェブサイトのインターフェイスとして以下の3つのパスを用意することが妥当であるという合意に達した。
- 研究分野の選択から文献を探す道筋
- 個別のキーワードの選択から文献を探す道筋
- 利用者がキーワードを入れて検索する道筋
aおよびbについては、3.3節で述べた主題がそのまま選択項目になる。cについては、自由検索窓と項目別検索窓(詳細検索)を持つ一般的なOPACのインターフェイスのイメージがそのままあてはまるだろう。
また、文章による研究史の概説(昨年度事業で作成した『ゲーム研究の手引き』やその更新版)へのリンクを併置することが望ましい。目録と文章形式の相互補完的な関係を提示することによって、どういう分野名やキーワードを探すべきかについてもわからないというユーザや、文献間の関係や歴史的な位置づけについて知りたいといった様々なユーザのニーズにも応えられると思われる。
4. 次年度以降の展望
次年度以降のメディア芸術マッピング(ゲーム領域)では、『手引き』の内容の部分的な修正・更新や他メディア芸術領域との各種連携業務を行いながら、上述したような目録作成に向けた仕様設計を中心に進めたい。具体的には、来年度は、すでにあるメディア芸術データベース(ゲーム領域)のシステムを使ってゲーム研究文献目録のサンプルレコードを実際に一定数作成し、その実作業をもとに典拠ファイルを設計・評価・修正する。サンプルの選択や主題の設計のレベルで複数の領域のゲーム研究者に協力を求める必要があるだろう。可能であれば来年度内に目録仕様と運用ルールを策定し、再来年度には実際に目録を記録できるかたちにする。
[1] 平成27年度メディア芸術連携促進事業連携共同事業 研究マッピング(ゲーム領域)実施報告書. http://mediag.jp/projects/project/2016_rep/h27_rep_mapping_games.pdf <accessed: 2018-02-27>
[2] 「日本目録規則(NCR)2018年版」(仮称). http://www.jla.or.jp/committees/mokuroku/tabid/643/Default.aspx <accessed: 2018-02-27>
[3] IFLA – IFLA Library Reference Model. https://www.ifla.org/publications/node/11412 <accessed: 2018-02-27>
[4] 報告書執筆者(3.1節と3.2節の執筆を担当)である福田は、メディア芸術データベース(ゲーム分野)のメタデータモデルの設計を担当している。