1996年から少女マンガ雑誌「なかよし」(講談社)で発表され、その後アニメ化もされた作品が、リメイクではなく完全続編として20年ぶりに連載再開され、支持を集めている。当時から作品を知っている人はもちろん、20年前は生まれていなかった読者たちの心をつかんでいる理由はどこにあるのか。『カードキャプターさくら』という作品が持つ魅力を考えたときに、その答えは数多く挙がるだろう。魔法のカードを集めるという魔法少女作品としての物語の魅力、あるいは登場人物たちやその服装の造形、優しい世界観。森アーツセンターギャラリーで開催された「カードキャプターさくら展 -魔法にかけられた美術館-」(東京、2018年10月26日~2019年1月3日、大阪会場はひらかたパークにて、2019年6月8日~9月15日)は、その答え一つひとつを丁寧に提示した展覧会だった。

会場入り口

現代に通じる「新しさ」

本展は、作品のあらすじや登場人物の紹介、導入映像を経て、参加型作品、インスタレーションと続き、それらにより作品の世界観へと導かれながら、CLAMPによる美麗な原画展示へとつながる。そして冒頭では「カードキャプターさくらが新しい理由」として、下記のように提示されていた。

心ときめくようなかわいい衣装や魔法が登場するのはもちろんですが、実はこの作品には、当時の日本の漫画表現には見受けられなかった新しい視点や仕組みがたくさん隠れています。やさしい表現で、実はとっても尖ったことをやっている。連載開始から20年以上経った今だからこそ見えてくる新しさが、さくらにはあるのです。

登場人物の相関図や解説を読むと、人間関係を表す言葉が多岐にわたることがわかる。例えば、さくらの親友でありよき理解者である知世からさくらへの「好き」は、「さくらと少し違う『好き』(Thinks of Sakura “more than friend”)」と紹介されるなど、登場人物一人ひとりの気持ちを大切に汲んでいることが伝わる解説だ。このような丁寧な演出が展覧会全体になされ、作品の持つ世界観を来場者に伝えている。

かわいらしい世界観を表現

展覧会会場を進んでいくと、「さくらが魔法をかけた」という設定のもと参加型インスタレーションの部屋に続く。CLAMPによる作品にも登場する花々の原画が展示されているホワイトキューブの空間に、用意されている原画と同じ花のステッカーを来場者が好きなところに貼ることで「魔法にかけられた美術館」を来場者たちがつくるという空間だ。


来場者は好きな花のステッカーをひとつ選び、好きなところに貼っていく

そしてカラフルな花々で彩られた空間を抜けると、四方が布やトルソー、さまざまな裁縫道具、そしてさくらが作中で着用する衣装が再現されたものが展示されている。ここがどこをイメージした展示なのか、読者はすぐに検討がつくだろう。そこは知世がさくらのために衣装をつくる部屋を模した展示。「魔法少女」は決まったコスチュームを身にまとうというそれまでの常識を覆し、毎回物語内容に沿ったかわいらしく趣向が凝らされた衣装を提案する本作は、20年前から変わらず読者たちの想像力を刺激してきた。本展に合わせて募集された「さくらの新しい衣装案」コンテストの盛り上がり、そこにさまざまな年齢層が応募していたことも、その証左だろう。

作中に登場するさくらの衣装が再現されている
左:コミックス第1巻の表紙、アニメ第1期のOP・EDなどでこのバトルコスチュームをまとったさくらが登場。『カードキャプターさくら』の代名詞といえる衣装
右:「カード全部取れておめでとう日」の特別なコスチューム。「なかよし」1998年7月号の扉絵でこれを着たさくらが描かれた

作品の持つ「優しさ」というテーマを浮き彫りに

この2つの展示室までは写真撮影もでき、来場者はまず『カードキャプターさくら』の「かわいらしい世界観」へと没入できる。しかし本展で見せるのは「かわいさ」だけではない。次のメイン展示室から始まる、CLAMPによる原画によって、同作が「ただかわいらしい少女マンガ」の域を越えていることがわかる。

多くの「原画展」では作品の発表順に展示されることが多いが、本展では登場人物同士の温かい人間関係、「人と人」を主軸にテーマごとに区切った展示がされている。それにより、『カードキャプターさくら』の「魔法少女」としてのストーリーそのものに主眼を置くのではなく、「自分の近くにいる存在を大切にする優しさ」を繰り返し描いている作品であることに重点を置く展覧会だとわかる。本展は作品の歴史や魅力そのものを紹介しながらも、物語の根底を支えるものを提示することを軸としている展覧会だ。

そのため、展示品も貴重な原画や古い資料に限らない。本展では原画だけではなく複製原画も一定数展示されていたが(そしてそれは高解像度で見応えがあるが)、作品の世界観を提示する展覧会において大切なのは実物か否かではなく、何を、どの場面を見せるのかが重要であることが伝わってくる。

『カードキャプターさくら』という作品の魅力を多角的に伝えることに成功している本展は、これからのマンガの展覧会の手法についても新たな視座を提示したと考えられるのではないだろうか。

さくらが集める「クロウカード」がもともと収められていた本。天井に届くほどの高さで再現されていた
「封印の獣」ケルベロスことケロちゃんのぬいぐるみは高さ3mほどの巨大サイズ。実際に触れたり、写真を撮ることもできる
写真撮影スポット

(information)
カードキャプターさくら展 -魔法にかけられた美術館-

【東京展】
会期:2018年10月26日(金)~2019年1月3日(木)
   前期:10月26日(金)~11月30日(金)/後期:12月1日(土)~1月3日(木)
   ※会期中無休
会場:森アーツセンターギャラリー
開館時間 10:00~20:00(最終入館は19:00まで)
入場料:一般・大学生1,900円、中学生・高校生1,500円、4歳~小学生1,000円
主催:カードキャプターさくら展製作委員会

【大阪巡回展】
会期:2019年6月8日(土)~9月15日(日)
   前期:6月8日(土)~7月31日(水)/後期:8月1日(木)~9月15日(日)
休館日:6/12、6/19、6/26、7/1~5、7/10、7/17、9/2~6、9/11
会場:ひらかたパーク イベントホールⅠ
開館時間:10:00~18:00(最終入館は17:00まで)
企画:カードキャプターさくら展製作委員会

http://ccsakura-official.com/ccsakuraten/

※URLは2019年2月13日にリンクを確認済み