「第22回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」が6月1日(土)から6月16日(日)にかけて、日本科学未来館、フジテレビ湾岸スタジオを中心に開催された。開催日前日の31日(金)には、受賞作家が多数駆けつけ、報道関係者に向けて内覧会が行われた。本稿では受賞作家のコメントを踏まえながら、日本科学未来館の会場の様子をレポートする。

日本科学未来館ではアート部門4作品、エンターテインメント部門3作品(フジテレビ湾岸スタジオでも同様の3作品が展示)、アニメーション部門7作品、マンガ部門3作品、功労賞、連携フェスティバルの展示が行われた
写真:中川周

平成9年度から続く「文化庁メディア芸術祭」はアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門に分けて世界中から作品を公募し、優秀作品を顕彰する、文化庁主催のメディア芸術総合フェスティバル。第22回では、4部門合わせて世界102カ国・地域から4,384作品の応募があった。
受賞作品の鑑賞機会を提供する「第22回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」の会期中は、大賞、優秀賞、新人賞を受賞した作品の展示のほか、各所で関連イベントが行われる。作品の展示会場は日本科学未来館7階とフジテレビ湾岸スタジオの2カ所。両施設はシンボルプロムナード公園を挟んで位置しており、来場者は2会場を自由に行き来することができる。

日本科学未来館会場入り口の様子。赤い円のマークが目印
写真:中川周

チコちゃんが大賞のエンターテインメント部門

日本科学未来館会場はいくつかのエリアに分かれているが、エスカレーターを上がって最初に目につくのは、エンターテインメント部門で大賞を受賞したテレビ番組『チコちゃんに叱られる!』の「チコちゃん」のパネルだろう。何でも知っている5歳の女の子チコちゃんが何気ない疑問を投げかける本番組は、最後には「フーン」と納得できるような番組の構造と『チコちゃんに叱られる!』制作チームによる卓越したCG技術が評価された。さらに、同じエンターテインメント部門で優秀賞を受賞した2つのアプリケーション、LINNÉ LENS制作チーム(代表:杉本謙一)による『LINNÉ LENS』、『TikTok』Japanチームによる『TikTok』も展示されている。『LINNÉ LENS』は、生き物にスマートフォンをかざすと瞬時に名前が表示され、解説を読むことができる。登録されている生き物は約10,000種にも及び、代表の杉本氏は「子どもに生き物の名前を聞かれたときなどに役立ててほしい」と話す。『TikTok』はBGMや音声に合わせて15秒の動画を撮影・編集し、共有できるビデオソーシャルプラットフォームであり、会場では実際に『TikTok』で制作された動画が流されている。なお、この3作品はフジテレビ湾岸スタジオでも展示されている。

会場に入り、最初に目に飛び込むのはエンターテインメント部門の作品群
写真:中川周

はつらつとした女性が登場する長編、さまざまな困難を表現する短編が目立つアニメーション部門

隣室では、アニメーション部門で優秀賞、新人賞を受賞した作品の原画や絵コンテ、設定画などが展示されている。また、受賞した短編アニメーション、長編アニメーションの一部抜粋は、タブレットで自由に閲覧でき、プロジェクターでも映されている。

中央の台にはタブレットが置かれ、来場者は映像を自由に鑑賞することができる
写真:中川周

優秀賞のひとつ、日本でも公開されたフランスの劇場アニメーション、セバスチャン・ローデンバック『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』は、キャラクターも背景もすべて一人で手がけた作品。ローデンバック氏は「スクリプトもストーリーボードもなく、即興でつくっていった」と普通のアニメ制作とはまったく違ったやり方であったことを明かした。

セバスチャン・ローデンバック『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』
映像に加えて、手描きの原画もタブレットで展示した
© Les Films Sauvage

同じく優秀賞に輝いたのは樋口真嗣による新人自衛官と戦闘機に擬態するドラゴンの交流を描いたテレビアニメーション『ひそねとまそたん』、森見登美彦の同名小説を映画化した石田祐康の劇場アニメーション『ペンギン・ハイウェイ』、令丈ヒロ子による同名の人気児童文学シリーズが原作の高坂希太郎の劇場アニメーション『若おかみは小学生!』だ。

高坂希太郎『若おかみは小学生!』
高坂氏は、アニメーション化の話を受けた時、「自分の気持ちをわかってもらいたいという心理とは真逆のお客さんの気持ちを理解するという視点がおもしろいと感じた」と話した
© Hiroko Reijo, Asami, KODANSHA / WAKAOKAMI Project

新人賞はいずれも短編アニメーションで、目が覚めると透明人間になっていた男を手描きで表現した山下明彦の『透明人間』、イランの現代絵本作家の詩集をもとにしたAmir Houshang MOEINの『Am I a Wolf?』、少女とその友達である象のやりとりを描いたAnastasia MAKHLINA『The Little Ship』が並ぶ。

Anastasia MAKHLINA『The Little Ship』
本作はMAKHLINA氏の卒業制作であり、初めてつくったストップモーションアニメ。撮影に用いたパペットの女の子と切り絵の象が展示された

光や音、有機物を用いたインスタレーションが並ぶアート部門

エンターテインメント部門、アニメーション部門作品の展示エリアから通路を抜けた奥の部屋には、アート部門優秀賞の菅野創によるメディアインスタレーション『Lasermice』が展示されている。ホタルなどの群生生物に着想を得た本作品は、60台の小型ロボットが自走し、光によってコミュニケーションをとりながらリズムを生成する。

菅野創『Lasermice』
小型ロボットが生成する予測不可能なリズムを、視覚的、聴覚的に体感できる
© 2018 So Kanno

さらに近くの部屋では、大賞に輝いた古舘健によるサウンドインスタレーション『Pulses/Grains/Phase/Moiré』が展示されている。青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸で発表された、300台を超えるスピーカーとLEDライトを使用した大規模なサウンドインスタレーションが、日本科学未来館の1室で再現された。真っ暗な空間の中、スピーカーが発するクリック音に合わせて、壁に無数に配されたLEDライトが発光する。

古舘健『Pulses/Grains/Phase/Moiré』
真っ暗な空間を、単調な音とそれに合わせて点滅するLEDライトの光が満たす

以上の展示エリアから少し離れた部屋には、同じくアート部門で優秀賞を受賞した岩崎秀雄のメディアインスタレーション、バイオアート『Culturing cut』と、新人賞の(euglena)によるメディアインスタレーション『watage』が展示されている。『Culturing cut』はバクテリアとバクテリアについて書かれた論文を組み合わせた作品。会場では、生きているバクテリアがゆっくりと描いた模様を鑑賞することができる。一方『watage』ではタンポポの綿毛が使用されている。展示室に人が入ることにより起こるわずかな風によって、綿毛が動くというシンプルな仕組みだ。

(euglena)『watage』
(euglena)氏は「センサーなどを使わないからこそ人の心を打てるのでは」と話す

それぞれにテーマを持った作品が選出されたマンガ部門新人賞

さらに隣室にはマンガ部門で新人賞を受賞した3作品のブースが並ぶ。独特の作風を持ち味とする黄島点心の「奇想ホラー」短編集『黄色い円盤』、アスペルガー症候群と診断された女性の自伝を原作にしたバンド・デシネ作品、マドモワゼル・カロリーヌ/原作:ジュリー・ダシェ/訳:原正人の『見えない違い──私はアスペルガー』、ボーイズラブ(BL)マンガをきっかけにした75歳の女性と17歳の女子高生の交流を描く鶴谷香央理『メタモルフォーゼの縁側』と、まったく異なる作品が選出された。会場ではこれらの作品の原画やイラストパネルなどが展示されたほか、受賞作品の単行本が置かれ、来場者は作品を実際に手にとることができる。

会場には新人賞を受賞した作品の単行本だけでなく、大賞の『ORIGIN』などの受賞作品すべてが置いてある
写真:中川周
マドモワゼル・カロリーヌ/原作:ジュリー・ダシェ/訳:原正人の『見えない違い──私はアスペルガー』
カロリーヌ氏(左)とダシェ氏(右)。ダシェ氏は「この本をきっかけに日本でもアスペルガー症候群の理解が進むとうれしい」と話した
© Éditions Delcourt / HARA Masato

各領域の発展に貢献した4名が功労賞に

さらに向かいの部屋には、功労賞と連携フェスティバルに関する展示が続く。功労賞は日本のメディア芸術界に大きく貢献した人物に贈呈される賞で、今回は、アニメーション監督/アニメーション研究者の池田宏、評論家の呉智英、クリエイティブディレクターの小池一子、筑波大学名誉教授の三田村畯右の4名に贈られた。
池田氏は、テレビアニメーションシリーズの『ハッスルパンチ』、劇場用長編『空飛ぶゆうれい船』などを手掛けた後、日本大学芸術学部などでアニメーション教育に従事したことが評価された。呉氏はマンガ評論に早い時期から取り組み、2001年には日本マンガ学会の設立にも携わるなど、マンガ研究の発展に大きく寄与。小池氏は、広告・ブランド・ファッション・ものづくりをはじめ、たくさんのデザイン・クリエイティブ分野を切り開いていったことが贈呈の理由となった。日本を代表するホログラフィー作家として国内外で活躍する三田村氏は、自身の作家活動のみならず教育にも力を入れ、多くのつくり手を輩出した。4名それぞれの活動を垣間見られる資料と、インタビュー動画が展示された。

功労賞の展示の様子。ケースには出版物などが並べられ、活動の軌跡を振り返ることができる
写真:中川周

(information)
第22回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展
会期:2019年6月1日(土)~6月16日(日)
   ※6月4日(火)・11日(火)を除く
開館時間:10:00〜17:00
会場:日本科学未来館、フジテレビ湾岸スタジオ、東京国際交流館、BMW GROUP Tokyo Bay、シンボルプロムナード公園ほか
入場料:無料
主催:第22回文化庁メディア芸術祭実行委員会
http://festival.j-mediaarts.jp
上記ウェブサイト内のページより、受賞作品、審査委員会推薦作品、功労賞などをすべて紹介した電子書籍「第22回文化庁メディア芸術祭 受賞作品集」がダウンロードできます。

※URLは2019年6月4日にリンクを確認済み

▶第22回文化庁メディア芸術祭受賞作品展レポート(2) フジテレビ湾岸スタジオ編