平成30年度メディア芸術連携促進事業 研究プロジェクト 活動報告シンポジウムが、2019年2月23日(土)に国立新美術館で開催された。シンポジウムでは、「アニメーター実態調査」調査報告・パネルディスカッション、「調査研究マッピング」各分野からの発表・パネルディスカッションが行われた。本稿では、これまでメディア芸術連携促進事業を進めてきたオブザーバーの吉村和真氏(京都精華大学)が、本シンポジウムを受け、「調査研究マッピング」についてあらためて報告する。なおシンポジウムの詳細は「平成30年度メディア芸術連携促進事業 研究プロジェクト 活動報告シンポジウムレポート(前編)「アニメーター実態調査」平成30年度メディア芸術連携促進事業 研究プロジェクト 活動報告シンポジウムレポート(後編)「調査研究マッピング」をご覧いただきたい。

「調査研究マッピング」各分野からの発表・パネルディスカッションではコーディネーターを務めた吉村氏

今回のシンポジウムでは、各分野における2018年度の活動実績とは別に、大きく2つのテーマについてそれぞれ意見交換することを目的とした。ひとつは「これまで蓄積したデータから見える当該分野の特徴」、もうひとつは「メディア芸術」全体のマッピング構築に向けた期待や課題」である。その意図は、メディア芸術連携促進事業そのものが来年度で5年目を迎えるにあたり、字義通り、各分野の連携を促進すべく、俯瞰的・横断的にそれぞれの研究状況を把握し、メディア芸術全体に資する研究マッピングのあり方について協議することにあった。
結果的に、この目的を達成すべく、シンポジウムでは、マンガ、アニメーション、ゲーム、メディアアートの4分野の代表者と私も含めた登壇者5名による具体的かつ活発な意見交換がなされた。以下、その主な意見を紹介する形で、当日のレポートとしたい。

○これまでのマンガ研究は、国内の研究者内だけでしか通じない言葉や概念で進んできた側面がある。しかし、国外での研究も活性化するなか、国際的に研究成果を発信する際、その言葉や概念をどのように翻訳すれば共通の理解に資するのか、チーム内でもよく議論をし、今年度はそのテーマで研究会も実施したが、今後さらに工夫すべき課題である。

○最近、佐分利奇士乃氏がアニメーション映画『この世界の片隅に』の光の変化や動きの表現について、生態心理学や自然科学の観点から分析した。これは国内のアニメーション研究がガラパゴス化しているからこそ生まれた独自の視点であり、海外に紹介すれば高い関心を持ってもらえるだろう。

○国外におけるメディアアート研究は、大きなひとつの文脈で全体を語るというよりは複数の文脈を併置させているイメージである。欧米の研究者が中心の国際学会でもアジア圏や旧社会主義国からの発表は非常に歓迎されており、国際的に見ても、日本独自の研究を深化させることの意義は大きい。

○従来、マンガやアニメーションは手作業が中心で、ゲームやメディアアートとは異なり、工学分野との結びつきは薄かったが、近年はCGや電子書籍など、アニメーションやマンガ分野にも先端テクノロジーやデジタルメディアが活用されるようになってきた。マンガ、アニメーション、ゲーム、メディアアートの4分野を工学というロジックで横断的に捉え直すと、新しい研究テーマも見いだせるのではないか。

○4分野それぞれに研究蓄積があり、まずはそれを出版物などにまとめることが大事だ。その作業を経ることで、そこに収まりきらない領域もはっきりする。例えば、原作者とは別の第三者が原作に登場するキャラクターを利用して2次的な作品を生み出している愛好家やマニアの活動は活発だが、研究対象としては国内では手つかずの状況である。彼らはマンガやアニメ好きというよりはキャラクターに愛着を感じている。海外ではファンの心理や行動様式に焦点を当てた研究も少しずつ出てきている。

○もしかすると4分野のファンは何か共通するリテラシーを持っており、各分野を自由に横断して作品を楽しんでいるのではないか。例えば、普通の高校生が異界に行って高い能力を獲得して活躍するといったゲームの設定をそのまま物語の定型に応用してライトノベルが執筆されているようなケースも多くある。リテラシーは表現手法やコンテンツの内容ではなく、それをどう読むかという受け手側の問題だが、そうした自在なリテラシーを介在して新しい創作が生まれるという、これまでにはない広がりも感じられる。

○民間企業や行政が宣伝広告や政策にメディア芸術を活用する際、情報提供をする窓口をつくったり、コーディネート役を担う人材を育てたりすることが産官学連携を促進するうえでも重要になろう。マンガ分野では早い時期からそういう意識を持って、人材を確保したり、研究者を紹介したりする取り組みも行ってきた。今回の調査研究マッピングの成果を生かすことで、4分野間の情報共有やアライアンス(協働)が進み、シナジー効果を上げることができるのではないか。

○そもそも調査研究マッピングは、初めて研究や論文執筆をする学生に役立つような研究動向や文献資料の見取り図を作るのが狙いだったが、これまでの成果をふまえ、4分野全体をカバーしたメディア芸術領域の専門家をどのように育成するか、そのためのマップ作りは今後の取り組むべき課題である。

○メディア芸術が置かれた文化的状況や社会的位置づけを考慮すると、大学での高等専門教育だけでなく、小中学校における図画工作や美術といった初等中等教育への研究成果の活用も、近い将来重要になってくるはずである。そのための準備としても、この「調査研究マッピング事業」の意義はますます深くなるだろう。

以上、代表的な意見に絞った形だが、当日の雰囲気を少しでも感知していただければ幸いである。
文末に、各分野が目指すべき方向が具体的に見えてきたこと、そしてこの先、一筋縄ではいかない難しさを実感しつつも、「メディア芸術」という括りでマッピングしていくことの意義と可能性について、登壇者全員が前向きに語っていたことを付言しておきたい。