『ヒカルの碁』『DEATH NOTE』『バクマン。』などを手がけたマンガ家小畑健の「画業30周年記念 小畑健展 NEVER COMPLETE」が、7月13日(土)から8月12日(月・祝)まで、アーツ千代田 3331(東京都千代田区)にて開催されている。先行して7月12日(金)には小畑氏も駆けつけ、報道関係者に向けての内覧会が行われた。その様子をもとに、本展の見どころをレポートする。
内覧会では小畑氏が作画を実演。アトリエをイメージしたスペースには、色とりどりのコピック(カラーマーカー)のほかに、マリア像、人体模型などが配されている
膨大な量のマンガ原稿から厳選された象徴的な場面
小畑健氏は、当時まだ高校1年生だった1985年に手塚賞入選、1989年に土方茂名義で『CYBORGじいちゃんG』(以下、連載期間:1989年)にてマンガ家デビューを飾った。その後は、マンガ原作者とタッグを組み、天才囲碁棋士の霊に取り憑かれた小学生が囲碁に取り組む『ヒカルの碁』(1999〜2003年)、名前が書かれるとその人物が死んでしまうノートをめぐる物語『DEATH NOTE』(2003〜2006年)、少年2人がそれぞれ作画・ストーリーを担当しマンガ家として奮闘する『バクマン。』(2008〜2012年)などのヒット作を次々と生み出してきた。
会場には、1万5,000枚を超えるアーカイブのなかから、厳選した約500枚に及ぶ原画や資料が、3つのゾーンに分けて展示されている。「ZONE1 Manga」では、代表作といえる『ヒカルの碁』『DEATH NOTE』『バクマン。』から、物語における象徴的な場面が抜粋して並べられた。また、「和」「顔」「造形」「機工」といった9つの視点から、デビュー以来の作品がピックアップされ、その技術のありようが紐解かれている。
会場入り口。本展開催にあたり描き下ろされた『ヒカルの碁』『DEATH NOTE』『プラチナエンド』のイラストパネルが来場者を出迎える
最初のゾーンではマンガ原稿が中心に展示されている
『ヒカルの碁』の展示コーナー。男子小学生を主人公としつつも、平安時代に存在した天才棋士である藤原佐為をはじめ、「和」を感じさせる表現がみられる
『ヒカルの碁』より。モノクロのマンガ原稿だけでなくカラー原画も。中央のカラーイラストは「週刊少年ジャンプ」2002年第9号掲載
『DEATH NOTE』の展示コーナー。頭脳戦が繰り広げられる緊張感のあるストーリーのなかで、登場人物の均整の取れた顔立ちが際立つ
作中に登場する死神リュークの姿が目を引く
原稿やカラー原画だけではなく、ラフも展示されている
『バクマン。』の展示コーナー。『ヒカルの碁』や『DEATH NOTE』とは異なるデフォルメされた画風が特徴的で、キャラクターの感情表現が激しい
『バクマン。』より。「週刊少年ジャンプ」2010年第24号掲載。作中に登場するマンガ家たちが描く作品はさまざまなタッチで表現されている
『バクマン。』第2巻(2009年)カバー用イラスト
9つの視点ではそれぞれ数作品がピックアップされている。そのうちのひとつ「感情」では、『バクマン。』『学糾法廷』が取り上げられた
コピックで描かれた色鮮やかなカラーイラスト
続く「ZONE2 Illustration」では、マンガ作品の扉ページ、単行本カバー、他作品とのコラボレーションイラストといった色鮮やかなカラーイラスト作品が展示される。先のゾーンとはうって変わって、アルコールインクのカラーマーカー「コピック」で表現される繊細な色の世界が広がる。その内容は、少年マンガらしいエネルギッシュなものから、ダークで怪しげな雰囲気をまとったものまで多様であり、小畑氏の表現力の幅広さを感じさせられる。
中央の台には、本展のために描き下ろされた『ヒカルの碁』『DEATH NOTE』『プラチナエンド』のカラーイラストが展示されている
『ヒカルの碁』より。コミックカレンダー2004(上)、第6巻(2000年)カバー用イラスト
連載作品にまつわるイラストだけでなく、各媒体で発表されたものも。「マンガ・エロティクス・エフ」VOL.33(2005年)掲載のイラスト(左)
PEACH-PITによるマンガ『ローゼンメイデン』のトリビュートイラスト。「週刊ヤングジャンプ」2013年第39号掲載
「完成しない何か」を目指す探究心
最後の「ZONE3 Never Complete」は、本展のテーマとも重なるゾーン。現在連載中の『プラチナエンド』のラフや原画のほか、2008年の特別編から約10年ぶりとなる『DEATH NOTE』の完全新作読み切りの一部などが展示されている。なお、この読み切り作品については、全編のネームがWebマンガ誌「少年ジャンプ+」にて、展覧会終了の8月12日(月)まで公開される。さらに会場には、会期中に筆を進め、次々と変化していく描き下ろしオリジナルテーマイラスト「NEVER COMPLETE」も。「自分に満足したことはほとんどない」と語り、「完成しない何か」を求めて筆を握り続ける小畑氏の思いが表れている。
『プラチナエンド』のラフと原画は壁一面に展示されている
アナログ原稿にデジタル着彩を行うという手法が取られている『プラチナエンド』。アナログ着彩後、デジタル着彩後のイラストを見比べることができる
『プラチナエンド』では、家族をなくし窮地に陥った主人公が、天使に助けられ、力を授けられる
『DEATH NOTE』の完全新作読み切りの冒頭10ページも展示されている。今後、新潟、大阪と巡回する際に新しいページが追加される予定
小畑氏が締め切りやマンガという制約を超えて挑むイラストレーション。複数にパーツが分割されており、今後、パーツ自体の描き換えや位置の組み換えが行われる
「ジャンプSQ.」の副編集長である吉田幸司氏(左)と小畑氏(右)。本展の開催にあたり、小畑氏は自身の経歴を振り返って「結果を出さなければいけない『週刊少年ジャンプ』で、長く続けることは想定していなかったので、自分が一番驚いている。いい原作に出会えたことが大きかった」と話した
小畑氏は展示内容について「原稿が完成するまでの過程も展示しているが、そのなかには描き損じなども多い。ジタバタしながら描いていたところは、見せたくない部分でもあるが、他の人から見たらおもしろいのかな」とコメント。
圧倒的な画力を誇り、ヒット作を数多く生み出してきた小畑氏。会場では、そんな彼のこれまでの原稿を間近に見られるだけでなく、各所で発表されたカラーイラスト、本展開催を機に制作された新作読み切り、さらにその時々で変わりゆく作品を堪能することができる。来場者は、華麗な経歴の裏には、何度も描き直しを重ね、自分の目指すものと向き合う真摯な姿勢があったことを感じさせられるだろう。これからも「完成形」を目指し続けていく小畑氏は、今後どのような作品を生み出していくのか、そんな期待を抱かせる展覧会だ。
(information)
画業30周年記念 小畑健展 NEVER COMPLETE
会期:2019年7月13日(土)~8月12日(月・祝)10:00~17:00
※毎週金・土曜日と7月14日(日)、8月11日(日)は20時まで延長
※最終入場は、閉場の30分前まで
会場:アーツ千代田3331
入場料:一般・学生1,500円、中学・高校生800円、小学生600円
主催:集英社、朝日新聞社
https://nevercomplete.jp
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※URLは2019年7月16日にリンクを確認済み