『ベルサイユのばら』をはじめとして、これまで宝塚歌劇団によって数々の少女マンガが舞台化されてきた。本シリーズでは、宝塚と少女マンガの融合によって生まれた独特の世界を探る。前編では、なぜ宝塚では少女マンガを原作とした作品が上演され続けているのか、カギとなる作品を取り上げながら考察する。

2019年花組公演『花より男子』キービジュアル

『花より男子』の成功

演者が女性のみで構成される宝塚歌劇団は、今年2019年に105周年を迎えた。その歴史と伝統ある宝塚の今年の公演ラインナップを見てみると、少女マンガを原作とした演目が2つある。1作目は、6月15日から7月2日にかけて上演された『花より男子』。神尾葉子の『花より男子』は1992年から2004年まで「マーガレット」(集英社)で連載された人気少女マンガで、名門高校を舞台にした学園もののラブストーリーだ。そして2作目は、10月12日から11月10日に公演が予定されている『はばたけ黄金の翼よ』。こちらは1980年に「週刊セブンティーン」(集英社)で連載された粕谷紀子のマンガ『風のゆくえ』を原作としたもので、中世のイタリアが舞台となっている。1985年にすでに宝塚によって舞台化されているが、今作は前作とは異なる演出家によってつくり直される。ちなみに2018年に舞台化された少女マンガは、「少女コミック」(小学館)で連載された篠原千絵の『天は赤い河のほとり』と、「別冊少女コミック」(小学館)で連載された萩尾望都の『ポーの一族』である。宝塚は、オリジナル作品のほかに、海外ミュージカル、古今東西の歴史物、文学作品や映画を舞台化したものなど、多種多様な演目を発表しているが、そのなかで継続的に少女マンガ原作の作品が上演されていることは特筆すべきであろう。

『花より男子』1巻(集英社、1992年)表紙(左)、『風のゆくえ』1巻(集英社、1981年)表紙(右)

さて、盛況のうちに幕を閉じた『花より男子』であるが、生身の人間である演者(宝塚では「生徒」と呼ぶ)たちによって、正義感が強いヒロインの牧野つくしや、道明寺司を筆頭とする男子グループ「F4」など、マンガのなかの登場人物が舞台上に息づいていた。道明寺役の柚香光(ゆずか・れい)や、つくし役の城妃美伶(しろき・みれい)は、キャラクターの再現性の高さから好評を得た。『花より男子』は宝塚での上演以前に、日本のみならず台湾や韓国などでテレビドラマ化され、舞台化もされているので、俳優がキャラクターを再現するのは決して目新しいことではない。しかし、女性が男性キャラを演じ、しかも特にその再現性の高さを賞賛されていることは注目に値しよう。このあたりに、宝塚歌劇団が少女マンガを舞台化し続ける理由や魅力が凝縮しているのではないか。今回は、宝塚歌劇と少女マンガの融合から生まれる独特の美的境地について一考したい。

『ベルサイユのばら』の衝撃

昨今、マンガやアニメやゲームなどのコンテンツを舞台化するいわゆる「2.5次元ミュージカル」が演劇文化のジャンルのひとつとして語られつつある。一例としてミュージカル『テニスの王子様』やミュージカル『刀剣乱舞』といった作品が挙げられる。これら2.5次元ミュージカルの始まりについて、鈴木国男は「2.5次元ミュージカルを論じる際に、一九七四年に宝塚歌劇団月組によって上演された『ベルサイユのばら』を原点とする考え方がある」としている(註1)。

『ベルサイユのばら』は、1972年から1973年に「週刊マーガレット」(集英社)で連載された池田理代子による少女マンガだ。18世紀のフランス革命を時代背景として、フランス最後の王妃マリー・アントワネット、王妃の恋人フェルゼンなど歴史上の人物に加え、王妃を護衛する男装の麗人オスカル、オスカルを慕う幼馴染のアンドレなど創作された魅力的なキャラクターが登場し、人間模様を織り混ぜながら激動の歴史ドラマを描いたフィクションである。少女マンガファンならずとも「ベルばら」の名を知る人は多いだろう。「ベルばら」はマンガの人気もさることながら、宝塚歌劇による舞台化でブームに拍車がかかった。1974年の初演から約2年にわたる再演の結果、観客数は140万人を数え、当時苦境にあった宝塚にとって、この大成功が起死回生の契機となり、いまだに「宝塚といえばベルばら」と言われるほど特別な演目となった。そして「ベルばら」以降、宝塚では少女マンガの舞台化が定着したのである。

宝塚と「ベルばら」の相性がこれほどまでに良かったのはなぜか。宝塚歌劇団は「男装の麗人オスカルは宝塚の男役を絵に描いたような存在であった。(昭和)49年秋の初演でオスカルを演じた榛名由梨(はるな・ゆり)は、まさにはまり役。『劇画から抜け出したように美しい』と評された。」と紹介している(註2)。また、マンガそっくりのキャラクターをつくり上げるために、二枚目スターとして名高い長谷川一夫が演出を担当し、生徒たちに演技指導が行われた。例えば、少女マンガに特徴的な表現である瞳の中に描かれた星を舞台上で表現するために、客席のどの辺りに目線を据えれば舞台照明の光を瞳でキャッチしてキラキラと輝いているように見えるか、という指導まであったことが、初演でオスカルを演じた元男役トップスターの榛名由梨によってしばしば語られている。現実の世界にはいない憧れの存在を具現化できたことが、おそらくヒットの核心であり、それこそが宝塚歌劇の本領なのである。

1974年月組公演『ベルサイユのばら』ポスター

一方で、原作にはない宝塚オリジナルの場面も重要である。例えば、アンドレとオスカルが戦死した後、天国で銀の馬車に乗ったアンドレがオスカルを迎えに来る演出は、ラストシーンでは主役のカップルが再び登場して幕が降りる、という宝塚ならではの型に則った見せ場であると同時に、二人の愛が天国で成就したという宝塚による解釈を示している。また、マリー・アントワネットがギロチン台へと向かう様子を、広い大階段を一人で決然と昇っていくことで表現する場面は秀逸で、これも宝塚らしい演出だろう。このような宝塚独自の味つけがなされた演出が、マンガの世界観を舞台上で凝縮して再現するうえで欠かせない要素となっているのである。

宝塚と少女マンガ、蜜月の歴史

次のリストは、これまでに宝塚が舞台化した少女マンガ原作作品である(註3)。『ベルサイユのばら』のように同時代の人気マンガを舞台化したものもあれば、『ポーの一族』のように数十年前に描かれた不朽の名作を蘇らせたものまで、さまざまである。

公演名* 公演年 原作名 原作者
ベルサイユのばら
註4
1974〜1980、1989〜1991、2001、2005、2006、2008、2009、2013〜2015 ベルサイユのばら 池田理代子
アンジェリク 1980 アンジェリク 木原敏江
青き薔薇の軍神(マルス) 1980〜1981 アンジェリク 木原敏江
オルフェウスの窓 1983 オルフェウスの窓 池田理代子
はばたけ黄金の翼よ 1985、2019(予定) 風のゆくえ 粕谷紀子
大江山花伝 1986、1988、2009 大江山花伝 木原敏江
紫子 1987、2010 とりかえばや異聞 木原敏江
虹のナターシャ 1996、1997 虹のナターシャ 林真理子作、大和和紀画
源氏物語 あさきゆめみし 2000、2001 あさきゆめみし 大和和紀
アメリカン・パイ 2003 アメリカン・パイ 萩尾望都
源氏物語 あさきゆめみしⅡ 2007 あさきゆめみし 大和和紀
エル・アルコン-鷹- 2007〜2008 エル・アルコン-鷹-、七つの海七つの空 青池保子
メイちゃんの執事 2011 メイちゃんの執事 宮城理子
伯爵令嬢 2014 伯爵令嬢 細川智栄子あんど芙〜みん
アルカサル 〜王城〜 2014 アルカサル-王城- 青池保子
はいからさんが通る 2017 はいからさんが通る 大和和紀
ポーの一族 2018 ポーの一族 萩尾望都
天は赤い河のほとり 2018 天は赤い河のほとり 篠原千絵
花より男子 2019 花より男子 神尾葉子
*公演名はメインタイトルのみ記した

上記より、著者が実際に観劇した公演のなかから、宝塚ならではの特性や演出が原作の少女マンガの世界観に見事に合致したと考えられる3作品について紹介したい。

『紫子』
平安文学の「とりかえばや物語」に想を得た木原敏江の『とりかえばや異聞』を原作とした作品で、戦乱の世を舞台に、領主である双子の兄の替え玉となる男装の麗人・紫子(ゆかりこ)と恋人の風吹(ふぶき)を中心として物語が展開する。着物姿で演じるいわゆる「和物」の作品ではあるが、まず男装の麗人という点で『ベルサイユのばら』と同じく、まさに宝塚の男役を連想させる。ただしオスカルも紫子も女性の役なので、実際には宝塚の男役があまり演じることのない役柄であることも確かである。通常は、男役と娘役(女役のこと)のトップコンビがカップルを演じるが、本作の場合、男役トップスターが紫子を演じ、恋人の風吹は男役二番手が演じるので、この2人がカップルとしてしっくり見えるかどうかが重要である。本作は1987年に星組で初演され、日舞の名手で歌唱力のある男役トップスター・峰さを理(みね・さをり)が凛々しく美しい紫子を演じ、長身の華やかなスターである二番手の日向薫(ひゅうが・かおる)が男気溢れる風吹を演じて大好評を博し、2010年に月組で再演された。
宝塚版で特筆すべきは、ラストシーンである。原作では焼け落ちる城内から紫子と風吹は間一髪で助かるが、宝塚版では燃え盛る炎のなかで紫子と風吹が壮絶な最期を遂げるという悲劇に書き直されたことにより、感情を激しく揺さぶられるクライマックスの場面となり、観客の心に深い印象を残した。

『源氏物語 あさきゆめみし』『源氏物語 あさきゆめみしⅡ』
宝塚では源氏物語を何度か舞台化しているが、そのなかに大和和紀の『あさきゆめみし』を原作としたものがある。古典中の古典である源氏物語を下敷きにした大長編マンガ『あさきゆめみし』を数時間の公演に凝縮するため、どの場面を選ぶか、誰を登場させるかといった部分にも自ずと特徴が表れる。宝塚版では原作にはない「刻の霊(ときのすだま)」という役が登場し、物語全体を一歩引いた目で俯瞰し、光源氏の物語の因果応報について観客に説く役割を果たす。『源氏物語 あさきゆめみし』で「刻の霊」を演じ、トップスター・愛華みれ(あいか・みれ)演じる光源氏の人生を冷徹に観察する役を見事に表現した春野寿美礼(はるの・すみれ)が、『源氏物語 あさきゆめみしⅡ』では円熟期のトップスターとして光源氏を演じたことは、配役の妙とも言うべきものであった。このような巡り合わせのなかに、源氏物語の世界を支配する因果や時の移り変わり、主役の交代といったテーマを感じ取る面白さも舞台化ならではの醍醐味である。

2007年花組公演『源氏物語 あさきゆめみしⅡ』ポスター

また宝塚版で特筆すべきこととして、黒髪のかつらではなく金髪や茶髪のかつらを使用した人物が登場したことが挙げられる。その結果として、光源氏の親友である頭の中将、政敵の娘でありながら恋人となる朧月夜、光源氏の妻と密通する柏木といった、重要な登場人物の物語上の役割や性格などが遠目に見ても判別でき、斬新な演出であった。古典を忠実に再現するというよりは、マンガを原作としたから可能であった演出かもしれないが、それだけでなく、大和和紀の原作の登場人物たちがまとう瑞々しさや現代的な感覚を再現するうえで、効果的な方法だったとも考えられる。
さらに、数多の女性と浮名を流す光源氏という男性を生身の人間が演じるとなると、一歩間違えれば嫌悪感をもよおすものになりかねないが、女性のみで演じる宝塚という特殊な世界のフィルターを通すことで、物語の幻想性が保たれていることも重要なポイントである。

『ポーの一族』
萩尾望都の代表作である『ポーの一族』は、吸血鬼(バンパネラ)として永遠の時を生きる少年エドガーを主人公とした美しく壮大なファンタジーだ。エドガーの最愛の妹メリーベル、エドガーとメリーベルの保護者であるポーツネル男爵とシーラ、エドガーに選ばれてバンパネラとなりエドガーと共に生きることになる少年アランといった登場人物が、さまざまな時代と土地を旅しながら物語を紡ぐ。彼らバンパネラの一族は人間の生き血(エナジー)を吸う恐ろしい一面を持つ一方で、正体を明かせば胸に杭を打ち込まれて消されてしまう不安に常に怯えながら、永遠の時を浮遊し続けなければならない孤独で悲しい存在として描かれる。エドガーの心情に寄り添って読み進めていくと、いつの間にか、彼らが迫害される少数派の弱者に見えてくるのである。
2018年に上演された宝塚版の『ポーの一族』は、演出家の小池修一郎が長年舞台化を望んでようやく実現したという。永遠の少年を宝塚の男役が演じることもハードルのひとつだったようだ。男役トップスターは基本的に大人の男性を演じるため、少年役を演じることは稀である。しかし主演を務めた明日海りお(あすみ・りお)は、小池が「美しさ・神秘性・純粋さ・魔性、天使と悪魔が共存した魅力の全てを兼ね備えている」と紹介するように、まさにうってつけの役者で、髪型から立ち姿までマンガに忠実につくり込み、人間離れした冷ややかさのなかにも焦がれるように愛を求める悲壮感を胸の内に秘めたエドガー像を体現した。原作者の萩尾望都も「そこにエドガーがいた。イメージを上回るイメージ。遠い時を越えて現実に抜け出てきたみたいなあなた。」と評している(註5)。『ベルサイユのばら』が、まず初演の榛名由梨のオスカルが成功してその後続いたように、『ポーの一族』も明日海りおがエドガーを演じたからこそ成り立った作品と言える。マンガの舞台化は、演出や演技はもちろん、「誰が演じるか」という点が成功の鍵を握っている。
全体の構成としては、原作を咀嚼したうえで創作した場面もいくつかある。例えば原作でアランがメリーベルに求婚し、逆に「わたしたちといっしょに遠くへいく?」と意味深に問われる場面は、宝塚版ではそのまま、アランを永遠の旅へと誘うエドガーとの緊張感に満ちた官能的とも言えるダンスシーンに突入し、三者の心情を踊りと音楽で表現した宝塚らしい場面になっている。

2018年花組公演『ポーの一族』ポスター

宝塚歌劇には少女マンガの世界観がぴたりとはまるようなさまざまな要素がある。それは女性のみで演じる点で宝塚自体が独特の美意識を持ったファンタジックな世界であること、少女マンガ的なすらりとした体型に加え、化粧や衣裳といったビジュアル面での非常に細かいつくり込みを追究すること、そしてこれまで振り返ってきたように、宝塚らしい解釈をした演出がマンガの世界観をより明確に観客に伝える場合があることなどである。これまで、宝塚と少女マンガの世界が融合することで数々の名作が生まれてきた。今後も楽しみにしたいジャンルである。後編では、少女マンガに限らず少年・青年マンガを原作とした宝塚による舞台化作品や、宝塚からインスピレーションを得て生まれた少女マンガなど、宝塚の多彩な魅力をさまざまな角度から探る。


(脚注)
*1
鈴木国男「第11章 2.5次元ミュージカル」『近代日本演劇の記憶と文化6 戦後ミュージカルの展開』(日比野啓編、森話社、2017年)p.370の「三 宝塚歌劇団」の冒頭の一文を引用。

*2
『宝塚歌劇90年史 すみれ花歳月を重ねて』(宝塚歌劇団、2004年)p.203「『ベルサイユのばら』爆発的ヒット」より引用。なお「(昭和)」は筆者が追記した。「ベルばら」ヒットの様子については、『宝塚歌劇 華麗なる100年』(朝日新聞出版、2014年)「朝日新聞で見る宝塚歌劇の100年」の「7 大ブームを起こした「ベルばら」」(p.82-91)に当時の新聞記事が紹介されており、その熱狂ぶりを知ることができる。

*3
各公演の情報はおもに、小林公一監修『宝塚歌劇100年史 虹の橋 渡りつづけて[舞台編]』(阪急コミュニケーションズ、2014年)を参照。

*4
『ベルサイユのばら』には、誰を主役とするかによってさまざまなバージョンが存在する。「オスカル編」「フェルゼン編」「アンドレとオスカル編」「オスカルとアンドレ編」「フェルゼンとマリー・アントワネット編」、さらに外伝として「アンドレ編」「ジェローデル編」「アラン編」「ベルナール編」がある。

*5
『ポーの一族』が舞台化に至った経緯やキャスティングについては、『ポーの一族』公演プログラムの小池修一郎による「神は封印を解かれた」、萩尾望都による「美しさに乾杯」などを参照。

後編▶