アヌシー国際アニメーション映画祭は、毎年フランス・アヌシー市で行われている世界最大のアニメーションの祭典。コンペティションや特集上映を行うフェスティバルと、マーケットのMIFAなどからなり、開催42回目にあたる2019年は6月10日(月)から15日(土)の6日間にわたって開催された。本稿では、本映画祭において、産官学が連携して、日本のアニメーション文化について紹介した企画の概要をお伝えする。

アヌシー国際アニメーション映画祭2019のメイン会場

「日本」が特集されたアヌシー国際アニメーション映画祭2019

アヌシー国際アニメーション映画祭2019では、92カ国から人々が集まり、市内の11の劇場で、205作品がコンペイン、432作品が上映され、12万枚のチケットの売り上げがあった。世界最大規模のアニメーションの祭典である。
アヌシーは毎年名誉国を決め、その国のアニメーションや制作者たちにフィーチャーした上映やイベントを行っている。今年の名誉国はまさに「日本」であり、実に20年ぶりに2度目の選出となった。1917年から1946年までの日本アニメーションの古典から最新の劇場アニメーションまで数多くの日本アニメーションが上映されたほか、小田部羊一氏が名誉ゲストとして招待された。
またコンペティション部門の審査員として、山村浩二氏(短編部門)、西村義明氏(長編部門)が選出された。
そのようななか、文化庁は、メディア芸術海外展開事業として参加。大規模な展示やイベントを行い、日本のアニメーション文化の発信を行った。筆者はそのディレクターとして、同事業の受託者である映像産業振興機構(VIPO)のスタッフとともに、その企画と運営に関わった。

企画テーマ「NEW MOTION -the Next of Japanese Animation-」

日本のアニメーションは、今、デジタル化とグローバル化のなか、転機を迎えている。またメディア状況も大きく変化し、アニメーションの新しい表現や楽しみ方が生まれている。今回の特集のコンセプト設定にあたり、そんなアニメーションの新しい動きを伝えるために「NEW MOTION -the Next of Japanese Animation-」というテーマを設けた。

アニメーションの表現のテーマである「動き」とかけて、日本のアニメーションの将来を切り開く新しい人や取り組み、新しい技術、そして新しい楽しみ方の3つの側面から、展示や上映、ワークショップなどを総合的に企画した。
メインビジュアルに、第6回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門奨励賞受賞者であり、文化庁新進芸術家海外研修制度ニューヨークに派遣されたこともある近藤聡乃氏の、どこか挑戦的な少女と桜のモチーフが魅力的なイラストを採用。パンフレットなどの印刷物や街中のバナー、車のラッピング、ブースなどを株式会社GK Graphicsが統一的にデザインし、期間中はアヌシーの街中にこのビジュアルがあふれていた。

街中のバナー
キービジュアル

アニメーション制作者を選出した「NEW MOTION Creator’s File 2019」

NEW MOTIONの最も大きな目的は、日本の優れたアニメーション制作者たちを世界に紹介し、世界とのネットワークを構築することである。そのために「NEW MOTION Creator’s File 2019」というリストを制作した。監督だけではなく、アニメーターや背景デザイナー、プロデユーサーなど次世代を担う日本のアニメーションの制作者たちを、アニメーション界をさまざまな視点から俯瞰できる7人の推薦人(註1)によって選出した。選ばれたのは全部で26名。若手を中心とした世界に誇るべき制作者たちが揃った。
「NEW MOTION Creator’s File 2019」は、パンフレットなどの印刷物で紹介、MIFA会場では、それぞれの作品が彼らのプロフィールとともにiPadで視聴できるようにした。また、そのなかから「NEW MOTION -Short Films-」「NEW MOTION 次世代のリーダーたち」という2つのプログラムを組んで上映した。いずれもチケットが完売する盛況ぶりであった。
選出された26名のうち、13人のクリエイターたちが実際にアヌシーを訪れ(註2)、上映時の舞台挨拶やMIFA会場でのアーティストトーク、ワークショップなどを行った。クリエイターたちは観客との交流を通じて、次回作への大きな手応えをつかんでいたようだ。
以前、手塚治虫先生はアヌシーを訪れ、観客の熱心な視聴と、来場者たちによって夜通しなされるアニメーション談義などを経験され、アヌシーはこの世の天国だ、と称された。
アヌシーにおいて、手塚先生が感じた“世界”を、日本のアニメーションの将来を担う彼らが身をもって感じ、出会いを通じてネットワークを広げ、日本のアニメーションの将来に何かしらの化学変化を起こしていくことを期待したい。その意味で、この事業での出展・派遣は今年度だけでなく、継続的に行われることが望まれる。

ステージ上でトークセッションを行う4人のクリエイターたち。写真左から順に、押山清高氏、大西景太氏、折笠良氏、ニヘイサリナ氏が登壇
「NEW MOTION Creator’s File 2019」一覧
クリエイター名 作品名 カテゴリー
近藤聡乃 てんとう虫のおとむらい 短編
牧野惇 戯言スピーカー(Sasanomaly) ミュージックビデオ
橋本麦 imai / Fly feat. 79(Kaho NAKAMURA) 短編
柴田大平 ガマンぎりぎりライン(NHK「デザインあ」) テレビ
ユーフラテス(石川将也)+阿部舜 Layers Act 短編
内海紘子 BANANA FISH テレビ
小林寛 ひそねとまそたん テレビ
大西景太 ロックン・ロール・マーチ / 大滝詠一 ミュージックビデオ
吉田健一 ガンダム Gのレコンギスタ テレビ
押山清高 スペース☆ダンディ「ビッグフィッシュはでっかいじゃんよ」 短編
佐藤広大 えんぎもん 短編
平岡政展 L’CEil du Cyclone 短編
新井伸浩 映画「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE(デッドアップル)」 長編
ひらのりょう パラダイス 短編
折笠良 われわれの部屋 短編
薄羽涼彌 見なれぬものたち 短編
坂本サク アラーニェの虫籠 長編
Sarina NIHEI Rabbit’s Blood 短編
冠木佐和子 えーん 短編
Tao TAJIMA Rayons ft. Predawn – Waxing Moon ミュージックビデオ
中武哲也 進撃の巨人 Season 3 Part.2 テレビ
矢萩利幸 ペルソナ5(PERSONA5) ゲーム内アニメーション
久野遥子 Airy Me 短編
水尻自子 短編
板津匡覧 みつあみの神様 短編
金子雄司* キルラキル テレビ
フェスティバルに参加したクリエイター
*『キルラキル』において美術監督を務めた

4本のフェスティバル公式上映

「NEW MOTION」では4本の公式上映を行った。

●NEW MOTION -Short Films-
現代日本の短編アニメーションを特集。物語性のあるものから、モーショングラフィックスなどまで、多様性と実験性に満ちた日本の短編アニメーションの自由さをアピールした。

●NEW MOTION 次世代のリーダーたち
主に商業アニメーションの若手ディレクターたちの作品。第22回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で優秀賞を受賞した『ひそねとまそたん』(2018)や、脚本、作画監督・原画、美術設定、キャラデザイン、絵コンテ・演出を一人で手がけた押山清高氏の『スペースダンディ シーズン2』第18話「ビッグフィッシュはでっかいじゃんよ」(2014)など、テレビシリーズでありながら野心的な試みを行っている作品が上映された。

●和田淳 特集
短編アニメーション作家和田淳氏の特集上映。ユニークなキャラクターと動きでオリジナルな世界に誘う作品の上映が行われた。終了後は世界のファンたちから質問攻めにあう光景も見られた。

●あにめたまご
文化庁が若手アニメーター育成プロジェクトとして行っているユニークな試み「あにめたまご」から3本の上映が行われた。『えんぎもん』(2018)の監督、佐藤広大氏は張子を使ったプレゼンテーションを行い、見る人の興味を引きつけた。
いずれのプログラムもチケットが早々にすべて売り切れ、観客の高い関心を呼んだ。

メイン会場の様子
「NEW MOTION -Short Films-」上映後、Q&Aセッションの様子。写真左から順に、大西景太氏、薄羽涼彌氏、阿部舜氏、折笠良氏

日本のアニメーターによる作画ワークショップ
「Animation Boot Camp in Annecy 2019」

商業アニメーションで活躍する第一線のアニメーターが、作画の奥義を教えるワークショップ「アニメーションブートキャンプ」。日本で毎年開催され、スタートから今年ですでに9年目の実績を持ち、これまで多くのプロのアニメーターを輩出してきた。
そのワークショップが、アヌシー市の郊外のLes Papeteries(ラ・パペトリーズ)で開催された。
ラ・パペトリーズは、アヌシー市、CITIA、アニメーション学校であるゴブラン校が共同で運営する施設。1年間のカリキュラムで高度な3DCGを学ぶ専門学校や、卒業後に滞在しビジネスを行うためのインキュベーション施設を保有する拠点である。
その施設において地元アヌシー市にある美術学校や、ラ・パペトリーズの学生や若手クリエイターたち25人を対象に、ワークショップを行った。
講師は、押山清高氏、りょーちも氏、板津匡覧氏の3人。いずれも日本を代表するアニメーターたちである。
学生たちは「椅子に座る」「物を持ち上げる」など基本的な動作を作画する内容に1日をかけてチャレンジした。体を実際に動かして、それを観察し、他人に伝わる方法で表現するというブートキャンプの教育は、フランスの学生たちに大きな刺激を与えたようで、アンケートによると参加者全員が「大変おもしろかった」と述べ、「ワークショップで学んだことは将来役に立つと思うか」という問いに対して、95%の学生が「大変役に立つ」「役に立つ」と答えていた。
この模様はNHKのニュースや国際放送でも繰り返し放送された。

ラ・パペトリーズ外観
アニメーションブートキャンプの様子

アヌシー城における上映

中世の面影残すアヌシー城で、クラシックの名曲と最新技術が融合した上映が行われた

●ヴィヴァルディ「四季」ライブアニメーションコンサート
アニメーションの新しい楽しみ方として、生演奏とともに楽しむ上映を行った。東京藝術大学のプロデュースで、クラシックの名曲「四季」を4人の国際的な映像作家によってアニメーション化、今回はそのフランスプレミアとなった。監督は下記の通り。
春:アンナ・ブダノヴァ(ロシア)、夏:プリート&オルガ・パルン(エストニア)、秋:和田淳(日本)、冬:テオドル・ウシェフ(カナダ)
会場となったのは、アヌシー城の大広間。開始数時間前から長蛇の列ができ、会場はすぐに満席となった。
演奏はCRR d’Annecy(フランス地域圏立音楽院アヌシー校)の先生たちによる弦楽4人とチェンバロのユニットで行われ、AIプログラムが生演奏に合わせて映像を送出。音楽と映像の見事なハーモニーが展開され、大きな感動を呼んでいた。

「四季」ライブアニメーションコンサートの様子

●『ルパン三世 カリオストロの城』野外上映
アヌシー城の前庭に設けられた野外スクリーンにて、『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)を上映した。折しも、今年は同映画がフランスで初めて劇場上映された年でもあり、大きな話題を呼んだ。
当日はあいにくの雨模様であったにも関わらず、熱心なファンたちが、実際のお城をバックに、宮崎駿氏の初映画監督作品である本作品を楽しんだ。

『ルパン三世 カリオストロの城』野外上映の様子

日本のトップクリエイターが講義を行う「MIFA CAMPUS」

MIFAでは毎年、フェスティバルの参加学生を対象に、一流のアニメーション制作者がワークショップやレクチャーを行う「MIFA CAMPUS」を開催しており、今回は、日本を代表するアニメーター・監督である押山清高氏が、作画に関するワークショップを行った。
押山氏は、インターネット上で広く一般の人々から作画を募り、添削するサイト「スタジオドリアン添削室」を運営している。今回はそれを基に、ビギナーが陥りがちな問題などを豊富な具体例とともに解説し、参加した海外の学生たちは食い入るように熱心に受講していた。また講義の最後に押山氏は、表現したいことのためには、自分で挑戦することが大事であることなど、クリエイターとしての心構えなどにも言及し、海外の学生たちに大いに刺激を与えた。押山氏は終了後も学生たちに囲まれ、質問攻めにあっていた。
日本のアニメーターたちに学びたい海外の若者たちはたくさんいる。今後もこのような機会を継続的に応えるような機会を持てれば、彼らのなかから将来、日本のアニメーション制作にスタッフとして関わる優秀な若者たちも出てくるのではないかと期待する。

「MIFA CAMPUS」での押山氏の講義の模様

映像作品のほか、ゲームに関するプロジェクトなども紹介した
「MIFAジャパンパビリオン」

MIFAのブース展示「ジャパン・パビリオン」ではNEW MOTIONのコンセプトが伝わるように、各コーナーを構成した。
まず、「NEW MOTION Creator’s File 2019」コーナーでは、セレクトされた全クリエイターのプロフィールと作品が壁に掛けられたiPadで見られるようなつくりとした。期間中、パビリオンにおいて、クリエイターによるトークイベントも行われた。
「『メディア芸術祭から世界へ羽ばたいた監督』紹介展示」のなかの「和田淳」コーナーでは、アニメーションの新しい形として、4面のモニターで楽しむアニメーション・インスタレーション『私の沼』(2017)を、また、湯浅政明監督の新作『きみと、波にのれたら』(2019)の原画や絵コンテ、新海誠監督作品が球面スクリーンに映されるAR三兄弟による『新海誠の世界から採取したデジタル標本、および再生システム』(2018)なども展示した。
さらに、新しいテクノロジーを駆使した展開として、「PROJECT A to G -アニメーションからゲームを作るプロジェクト-」が提示され、小光氏、谷耀介氏、薄羽涼彌氏などが展示を行った。凸版印刷株式会社はARとVRを連動させた新たなコンテンツを展示した。
その他、文化庁メディア芸術祭の説明や、プロダクション商談スペースなども設けられ、多くのバイヤーやビジネスパーソンなどが訪れていた。
MIFAジャパンパビリオンを通して、日本のアニメーションの新しい動きを感じ取ってもらえたとすれば幸いである。

アヌシー国際アニメーション映画祭の日本特集に合わせた「NEW MOTION」プロジェクト。今回は人、特に若手制作者にフォーカスを当てて、日本のアニメーション界の将来に資するというコンセプトで展示、上映、イベントなどを行った。これがどう実を結ぶのか、将来が楽しみである。日本のアニメーションがグローバルな発展を遂げるためには、単年度ではなく、継続的な取り組み。そして何よりも若手制作者に対して、国際的経験を積ませるような人材育成的プログラムが必要である。中長期にわたった戦略的かつ国際的な文化・産業振興が、今こそ求められている。

「MIFAジャパンパビリオン」のブース
ジャパンパビリオンで行われたアーティストトークの様子。写真右から2番目は「NEW MOTION Creator’s File 2019」の金子雄司氏

(脚注)
*1
NEW MOTIONの7人の推薦人は下記の通り。
石川光久(プロデューサー)、川村真司(クリエイティブ・ディレクター)、瀬谷新二(アニメーター)、土居伸彰(フェスティバル・ディレクター)、南雅彦(プロデューサー)、山村浩二(アニメーション監督)、岡本美津子(NEW MOTIONディレクター)

*2
アヌシーを訪れた13人のクリエイターは、一覧内に色つきで示した。


(information)
アヌシー国際アニメーション映画祭
会期:2019年6月10日(月)〜15日(土)
会場:フランス アヌシー市内の劇場など
アヌシー国際アニメーション映画祭サイト http://www.annecy.org/home
企画展特設サイト https://jmaf-promote.jp/1.html

※URLは2019年9月1日にリンクを確認済み