株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は2019年10月、次世代ゲーム機「PlayStation®5」(PS5)を2020年の年末商戦に発売するとあきらかにした。2013年11月に現世代機の「PlayStation®4」(PS4)が発売されて以来、7年ぶりのフルモデルチェンジになる。PS5はゲーム業界にどのような影響を及ぼすのか、現状の情報をもとに考察する。

東京ゲームショウ2019におけるSIEブースの様子

PS5はカジュアルなゲーミングPCである

2019年に入ってからSIEは次世代ゲーム機の情報を慎重に公開してきた。はじめて公式にアナウンスされたのは4月のことで、オンラインメディア「WIRED」の独占記事という形式を選択した。PS4でリードアーキテクトをつとめ、PS5でもその任にあたるマーク・サーニーが、基本的な仕様をあきらかにしたのだ。10月になると、4月に社長兼CEOに就任したジム・ライアンが、PS5を2020年の年末商戦に発売すると公式ブログで声明。これにあわせて「WIRED」でも続報が公開された。

もっとも、そこであきらかになった情報は限定的だ。CPUとGPUにAMD製のカスタムチップを搭載すること。CPUは「Ryzen」、GPUは「Navi」がベースであること。より現実に近い3DCGをつくり出すレイトレーシングをハードウェアレベルでサポートすること。ストレージをハードディスクからSSDに変更すること。4K対応のブルーレイプレーヤーを兼ねる光学ドライブを搭載すること……などだ。言い換えると、これらはPS5が「カジュアルなゲーミングPC」であることに、ほかならない。

実際、ライバル機とされるXboxの次世代ゲーム機とPS5は、アーキテクチャが良く似ており、姉妹機といえるほどだ。もっとも、こうした状況は現世代機のPS4とXbox Oneから受け継がれたものだ。PlayStation®3では独自設計された「CELL」がアーキテクチャの中核に据えられた。しかし、ゲーム開発のしにくさがあだとなり、PlayStation®2で築いた膨大なマーケットシェアを失った。PS4はその反省を生かして、PCベースの無難なアーキテクチャを採用した。PS5もその成功に準じるというわけだ。

SIEが公式ブログで表明した、PS5がもたらす2つのイノベーション……コントローラーにおけるハプティック(触覚)技術の採用と、アダプティブトリガーの搭載も同様だ。どちらもXbox Oneが、これに準じる技術を専用コントローラーで採用しているからだ。ハプティック技術は任天堂の現世代機、Nintendo Switchでも採用され、専用コントローラー「Joy-Con」の鍵を握る存在となっている。いわばSIEはPS5でようやく他機種に追いつくことになる。

もっともPS5の触覚対応は、専用バーチャルリアリティシステム「PlayStation®VR」との関係性も考えられる。SIEはPS VRの後継機をあきらかにしておらず、マーク・サーニーも前述の記事で「PS VRに対応する」と回答するだけに留めている。音声入力のサポートについても同様だ。もっとも、VRゲームでは従来以上に入力デバイスの革新が求められる。そのためPS5のコントローラーは、VRゲームでより真価を発揮するものとして姿を現すかもしれない。

SIEの組織改編に見るAAAとインディのバランス

閑話休題。もっとも、2013年にPS4が発売されて以来、ゲーム業界の主役は家庭用ゲーム機ではなく、モバイルゲームに移行した。調査会社newzooでは、2013年に704億ドル(7兆6千万円)だった世界のゲーム市場は(註1)、2019年に1521億ドル(16兆4千万円)に達し(註2)、なお年率9.6%で成長すると予測している。このあいだ、モバイルゲームのシェアは17.4%(タブレットゲームを含む)から45%に成長し、家庭用ゲームのシェアは43.4%(携帯ゲーム機を含む)から32%に低下している。

「Global Games Market Report」より

もっとも、金額ベースでは305億ドル(3兆2千万円)から479億ドル(5兆1千万円)に成長している。市場全体の成長によって、家庭用ゲームも恩恵を受けた形だ。その一方で次世代機では、Googleが主導するStadiaや、マイクロソフトのxCloudに代表されるゲームストリーミングサービスが本格的に始まり、端末スペックに依存しないゲーム体験が可能になるとされる。家庭用ゲームなみのクオリティのゲームが、ストリーミングでスマートフォンやタブレットでも可能になるのだ。

そこで改めて求められるのが、ゲームソフトの完成度となる。どれだけ良質なゲーム体験が提供できるかが企業の業績を決めるという、ゲームビジネスの基本が今一度重要視されるようになるのだ。そこでポイントとなるのが、AAA(大作)ゲームとインディ(独立系)ゲームという市場の二極化だ。特に現世代機で注目されるのが、インディゲームの急速な成長だ。今やAAAゲームとインディゲームはゲームビジネスの両輪であり、両者をバランス良く揃えることは不可欠だと言える(註3)。

実際、SIEはPS5の準備を進めるにあたり、大規模な組織改編を行った。注目すべきは、11月に発表されたSCEワールドワイド・スタジオの統括責任者に関する人事だ。それまでの吉田修平氏からハーマン・ハルスト氏に交替し、吉田氏は新たに外部のインディークリエイターの発掘・育成支援を担当することになった。吉田氏はPS VRの旗振り役も務めた人物で、インディゲームにも造詣が深い人物だ。このことからも、SIEがAAAとインディゲームをコンテンツの両輪と見なしていることが推察されるだろう。

もっとも、これまでと同じようにインディゲームがゲームビジネスで重要な要素を占める存在でありつづけるかは不明だ。むしろ、現状ではそうならない懸念がある。最大の理由は、インディゲームが注目されるようになったことで、作品の大作化と産業化が進み、独創性や挑戦心が薄れつつあるように感じられるからだ。今やインディゲームの主流はかつてのような、「個人や少人数のチームがガレージで制作し、ヒットを狙う」といったものではなく、企業がビジネスで創るものに変貌している。

商業主義化するインディゲームの今

ここで歴史を振り返ると、過去10年間でもっとも影響力を及ぼしたインディゲームといえば、箱庭系ゲーム『Minecraft』が挙げられるだろう。スウェーデンのインディゲーム開発者、マルクス・ペルソン氏の個人プロジェクトが発端で、2009年にPCゲームとしてリリース。2012年にマイクロソフトからXbox 360版が発売されると、ユーザー層の拡大にはずみがついた。2014年にはマイクロソフトに会社ごと買収され、『Minecraft』は同社の有力IPのひとつとして、現在もユーザー数を増やしつづけている。

『Minecraft』(公式サイトより)

もっとも『Minecraft』以前から、小集団でつくられたゲームが世界的なヒットを記録することはあった。1993年にPCゲームでリリースされた『DOOM』は好例で、FPS(一人称視点シューティング)の開祖となり、ゲームエンジンビジネスにも大きな影響を与えた。さらにいえば、PlayStation®(PS1)世代のゲームは現在からみれば、大半がインディゲームのような規模感で開発されていた。PS1自体もまた、1997年発売『ファイナルファンタジーVII』のような大作ゲームと、前衛的なゲーム群の二軸でヒットしたといえるだろう。

しかし、これらのゲームとインディゲームとでは、大きな違いがある。当時のゲームは会社が仕事でつくるものだった。しかし、「ゲームエンジンをはじめとした開発環境の整備」インターネットの進化で、クリックひとつで世界に配信できるようになった」「SNSの発達にゲーム実況などの文化が加わり、プロモーションのあり方が変化した」などの外的要因に伴い、個人やグループがゲームを作って収益を上げられるようになったのだ。今ではインディゲームを専門に扱うパブリッシャーやファンド、さらには国レベルでの支援も(海外では)進んでいる。

もっとも、だからこそインディゲームでも、高いレベルが求められるようになりつつある。インディゲームのパブリッシャーであるアクティブゲーミングメディアの水谷俊次氏もインタビュー記事で「危惧しているのはインディゲームもリッチじゃないと売れないとか、AAAゲームと変わらないクオリティが求められたりしてきています」「インディも宣伝活動が活発になってきてて、最終的にお金を持ってたほうが勝つという時代にも入ってきてるんですよ。そうなると最悪ですね」と現状を危惧している。

また、水谷氏は同じ記事で「海外では20人位の集まりまでインディと呼ばれる中、日本だと個人〜サークルレベルの集まりをインディと呼びます。ベンチャー企業並みの海外のデベロッパーと、日本のホビークリエイター達が戦っているわけですから、レベルの差は広がる一方なんです」とコメントしている。

ポイントは大人が20人ほど集まって、パブリッシャーからの支援や、ファンドや助成金などを受けつつゲームをつくる行為を、一般的には「業務」と呼ぶということだ。

業務には契約と責任が発生する。途中でプロジェクトを投げ出したり、遅延させたりすることは許されない。ある程度の売上見込みが立つ企画であることも重要だ。そのためには慣れ親しんだ開発手法で、ヒット作をまねるやり方が堅実だ。実際にインディゲームではドット絵を使用した2Dアクションゲームの数が増加している。ユーザーニーズが高いことと、開発負荷が低いことが主な理由だ。企画の保守化が進行中というわけだ。

多くの来場者でにぎわった東京ゲームショウ2019のインディコーナー

企画の保守化は売上の最大化を求めてのことでもある。売上を高める戦略として、PCだけでなく、PS4・Xbox One・Nintendo Switchと、さまざまなハードに移植することを考えると、機種ごとの差異化は少ない方が望ましい。コントローラーにおいても、標準的な仕様が望ましいというわけだ。実際、冒頭で示したXbox Oneの専用コントローラーや、Joy-Conの機能を生かしたインディゲームは、ほとんど見られないのが現状だ。

コントローラーが同じ、ゲーム機のアーキテクチャが同じ、ディスプレイやスピーカーも同じ(ニンテンドー3DSの「二画面」「立体視」に代表される差別化戦略は、もはや過去の遺物になりつつある)であれば、開発されるゲームも似てくるのは、当然の話だ。そのため今やインディゲームの多くは、ゲームデザインではなく、世界観やストーリーテリングなどで差別化を図ろうとしている。それもまた、ゲームのひとつの可能性ではある。しかし、ゲームの多様性は、縮小しつつあるように感じられる。

次世代ゲームビジネスの鍵を握るSTEM教育の流れ

もっとも、その一方でまったく新しいゲームについて、新たな可能性が生まれてきた。オリジナルのコントローラーを自作して、専用ゲームをつくる流れだ。サンフランシスコで例年3月に開催されるゲーム開発者会議「GDC」では、毎年さまざまな自作コントローラーと、専用ゲームが展示される。出展者の多くは、従来のインディゲームにあきたらなくなった開発者だ。いずれも一点モノのゲームばかりで、商業ベースには乗りにくい。しかし、ここから次世代のゲーム体験につながる芽が登場する可能性がある。ゲーム体験の差別化を図る上で、コントローラーの革新は重要な要素だからだ。

GDC2019で出展された音楽ゲーム『Guitar Wizards』

この追い風となっているのが、世界的に広がるSTEM(註4)教育だ。日本でもプログラミング教育が2020年度から全国の公立小学校で開始される。その結果、今後10年間でちょっとしたアプリケーションであれば、自分でつくれる人材があふれるようになることが期待される。実際、MITで開発された無償のビジュアルプログラミング言語「Scratch」を筆頭に、教育用ツールの普及がめざましい。これらのなかには外部インターフェースを介してデバイスを制御できるものもあり、自作コントローラーとの相性もいい。

STEM教育の流れはこれからのPS5世代と重なる。つまりPS5はプログラミング能力がコモディティ化していくなかで発売される、初めてのゲーム機になるのだ。コモディティ化で期待されるのは、週末に親子でちょっとしたプログラム遊びを楽しむ世界の到来だ。そこでつくられるのは、ゲームでもいいし、ロボット工作などでもいい。つまり今後10年間で、現状のAAAゲームとインディゲームに加えて、新たにホビー(趣味)ゲームというカテゴリーが生まれてくることが予見される。

東京ゲームショウ2019のキッズコーナーで開催されたプログラミング体験イベント

こうした考えに立脚すると、ゲーム機メーカーが取り得る戦略はあきらかだ。インディゲームを自社ハードに取り込んだたように、Scratchなどのビジュアルプログラミング言語や、Unity Playgroundといった初心者向けのゲーム開発環境を取り込み、自社ハードで動かせるようにすることだ。そのうえでPCではなく、自社のゲーム機上で自由にゲームをつくり、配信・共有を可能にする仕組みを整備して、コミュニティを育てていく。現行の『Minecraft』コミュニティは、その指針になるだろう。

もっとも、ここで気をつけたいのは、自社ハードに閉じた開発環境でコミュニティを囲い込もうとすると、失敗するということだ。実際にこうしたUGC(User Generated Contents)型のゲームは、これまで何本も発売されてきたが、いずれもヒットが限定的だった。『Minecraft』の現在に続く成功は、すでにPC上でコミュニティが存在しており、マイクロソフトがそれを継承し、育てた点が大きい。成功のためにはコミュニティをオープンすること同様に、開発環境もオープンにすることが重要となる。外部との連携が肝要となってくるだろう。

このようにホビーコミュニティを育成し、それをゲームビジネスにつなげる戦略は、従来の売り切り型のゲームとも、運営型のゲームとも異なる、まったく新しいスタイルになる。それだけに、短期のビジネスとしてみるのは難しい。しかし、遅かれ早かれPCをベースに、こうしたホビーゲームの文化が成長していくのはあきらかだ。こうした流れを、どのように捕まえられるかが、次世代ゲーム機では重要になる。話をPS5に戻せば、「One Sony」というキャッチフレーズのもと、どのようにグループを糾合できるかが鍵を握るだろう。


(脚注)
*1
newzoo, “Global Games Market Report Infographics | 2013,” July 15, 2013.
https://newzoo.com/insights/infographics/global-games-market-report-infographics-2013/

*2
newzoo, “Global Games Market Report,” 2019.
https://resources.newzoo.com/hubfs/2019_Free_Global_Game_Market_Report.pdf

*3
AAAゲームとインディゲームの定義は曖昧だ。一般的にAAAゲームは大手パブリッシャーから発売される、予算規模の大きい大作ゲーム。インディゲームは個人や小集団、中小企業などが開発し、発売する予算規模の小さいゲームとされるが、明確な基準はない。ただし、1タイトルあたりの開発予算が二極化していることは事実で、今後もこの傾向が続くと考えられる。

*4
「STEM」とは、「Science, Technology, Engineering and Mathematics」=科学・技術・工学・数学の教育分野を総称する略語で、2000年代に米国で始まった教育モデル。IT社会とグローバル社会が進展するなか、「自分で学び、自分で理解していく子ども」を育てるねらいがある。

※URLは2019年11月29日にリンクを確認済み