一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)は、2019年10月5日(土)、6日(日)につくば国際会議場にて、いきいき茨城ゆめ国体・いきいき茨城ゆめ大会実行委員会、公益財団法人日本サッカー協会とともに「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」を開催した。国民体育大会(以下、国体)の文化プログラムとして、初めてのeスポーツの大会で、『eFootball ウイニングイレブン 2020』『グランツーリスモSPORT』『ぷよぷよeスポーツ』の3タイトルにより実施された。全国の都道府県で代表決定戦が行われ、47都道府県から48チーム(開催県の茨城県のみ2チーム参加。『ぷよぷよeスポーツ』小学生の部のみブロック代表)が、上記のタイトルで競い合った。

都道府県総合優勝に輝いた茨城県チームの選手と茨城県知事の大井川和彦氏

国体の文化プログラムとして初めて開催

「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」は、2019年9月28日(土)から10月8日(火)にかけて開催された「いきいき茨城ゆめ国体(第74回国民体育大会)」、2019年10月12日(土)から14日(月)にかけて開催予定だった「いきいき茨城ゆめ大会(第19回全国障害者スポーツ大会)」(台風19号の影響で開催中止)の文化プログラムとして開催された。eスポーツが本プログラムに取り上げられるのは今回が初めて。

ゲームで対戦することを「eスポーツ」と総称されているが、基本的に普段ゲームをするプレイとeスポーツに大きな違いはない。ただ、eスポーツはゲームを使って技量を競い合うと言うもので、競技性のあるゲームで対戦することを示している。「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」では、『eFootball ウイニングイレブン 2020』『グランツーリスモSPORT』『ぷよぷよeスポーツ』の3タイトルを使い、それぞれ県の代表、もしくは地域の代表が対戦し、その勝敗を競い合う。ゲームメーカーやイベント運営会社が行うeスポーツイベントとの違いもほとんどない。ただ、賞金の有無やプロアマの規定などによるレギュレーションの違いがあるものの、これらは国体の種目とプロスポーツの違いと同様のものと考えて良いだろう。

それぞれのタイトルでは、年齢ごとに2部門が用意されており、『eFootball ウイニングイレブン 2020』は、少年の部とオープンの部、『グランツーリスモSPORT』は、少年の部と一般の部、『ぷよぷよeスポーツ』は、小学生の部と一般の部に分けられた。

5日は、全国から集まったそれぞれの部門ごとのチーム・選手により、6日に行われる決勝大会の予選が行われた。6日は、それぞれのタイトルの日本一を決める決勝大会を行い、6部門での金メダリストが出揃った。今回は、筆者の都合により6日の決勝大会しか足を運ぶことができなかったが、すべての部門の決勝戦は見ることができた。

どのタイトルでも見応えのある試合が展開

『eFootball ウイニングイレブン 2020』の少年の部の優勝は、青森県代表チーム(阿部壮琉選手、花田良臣選手、貴田英貢也選手、坂井空蒼選手、越田海斗選手)、オープンの部の優勝は茨城県第二代表チーム(山崎祥平選手、田口慎太郎選手、酒井聖太選手、相原翼選手)。

『eFootball ウイニングイレブン 2020』少年の部で優勝した青森県代表チーム
『eFootball ウイニングイレブン 2020』オープンの部で優勝した茨城県第二代表チーム

『グランツーリスモSPORT』の少年の部の優勝は、愛知県代表の水野航望選手、一般の部の優勝は、栃木県代表チーム(山中智瑛選手、高橋拓也選手)。

『グランツーリスモSPORT』少年の部で優勝した水野選手
『グランツーリスモSPORT』一般の部で優勝した栃木県チーム

『ぷよぷよeスポーツ』の小学生の部の優勝は、九州・沖縄県ブロック代表、長崎県のこいし♪選手、一般の部の優勝は大阪府代表のマッキー選手。『ぷよぷよeスポーツ』小学生の部に限り、県別代表ではなく、全国を8ブロックに分け、ブロック代表を選出する方式で行われた。決勝大会では、8ブロックの代表を東西の2ブロックに分けてリーグ戦を行い、東西のブロック1位の選手が、決勝戦へと進出した。

『ぷよぷよeスポーツ』小学生の部で優勝したこいし♪選手
『ぷよぷよeスポーツ』一般の部で優勝したマッキー選手

後半35分時点で3-0の大差を付けられながら、逆転勝利を収めた『eFootball ウイニングイレブン 2020』のオープンの部、茨城県第二代表チーム、数少ないチャンスを的確に捉えた『グランツーリスモSPORT』の一般の部、栃木県代表チームや圧倒的なプロの強さを見せつけた『ぷよぷよeスポーツ』の一般の部のマッキー選手。どの試合も見応えがあり、eスポーツを知らない人でも手に汗を握る展開だったのではないだろうか。

eスポーツ普及の足がかりとして

eスポーツを国体の文化プログラムで開催することは、日本スポーツ協会から正式種目とすることは認められず文化プログラムでの開催になったなど、賛否があったものの、実際に目の当たりにしてみると、これはやって良かったと声を大にして言えるだろう。eスポーツを運営する側、JeSUや大会に採用されたタイトルのメーカーがeスポーツの地位の向上としての価値を確信したことはもちろん、多くの参加者が今回の大会に出場したことを喜んでいた。

『グランツーリスモSPORT』一般の部の栃木県代表チーム

『グランツーリスモSPORT』の一般の部で優勝した栃木県や愛知県代表の選手は、すでに世界大会など、より大きな大会で優勝経験がある。『ぷよぷよeスポーツ』の一般の部のベスト4のマッキー選手、神奈川県代表ぴぽにあ選手、埼玉県代表live選手、岐阜県代表とりぱん選手はすべてプロライセンス保持者で、東京ゲームショウなどで数百人単位の観客の前でプレイをしている。『eFootball ウイニングイレブン 2020』で優勝した茨城県第二代表チームには2018年の第18回アジア競技大会のデモンストレーション競技で金メダルに輝いた相原選手がいる。

このように、国体よりも注目度が高く、より大きな大会に出場しているにもかかわらず、国体での優勝、好成績を残せたことを選手たちは本当に喜んでいるのだ。選手によっては、「国体での優勝が今までの大会の優勝のなかで、もっとも嬉しい」と答えている。ほかの大規模の大会()に出てもそれは、個人での出場、もしくはチームでの出場となり、県の代表として出る重みと喜びは、比べものにならないというわけだ。

『ぷよぷよeスポーツ』一般の部のベスト4に残った面々。4選手ともプロライセンス保持者で、数々の大会で好成績を残している

筆者の感覚としては、国体自体は、スポーツファンからの注目度は高くないが、やはりその権威の高さと歴史の深さに自然と敬意がわき、そこで活躍できたことが、誇らしく感じるのは理解できるところだ。それは参加する選手だけでなく、選手の家族、大会を見た人など、多くの人にも当てはまる。ゲームに対して偏見を持つ人たちも少なくはないが、国体で活躍したことにより、見る目が変わってきたのも肌で感じられる。

また、いくらオンライン対戦が気軽にできる環境となったとはいえ、実際に対戦する選手同士が顔を合わせることができたのは良い機会であった。これはリアルスポーツでもあり得ることだが、全国の猛者が一堂に会することで、選手同士の繋がりができ、信頼関係やライバル関係を築いていくことができる。こうしたことを経ることで、ゲームのコミュニティとしても強固になっていくだろう。

eスポーツはまだまだ多くの人に理解がされていないと言うのが現状だ。そのなかで、文化プログラムながら国体に出場し、そこで好成績を残したこと、メダリストになったことは、各選手にとって、eスポーツに理解を示していない人たちに、理解してもらうきっかけのひとつとなるだろう。

国体にとってeスポーツ合流の意義は

印象的だったのは、『ぷよぷよeスポーツ』の小学生の部では、自分の子どもの活躍を観客席から見ている親の姿。それはほかのリアルスポーツの試合やピアノの発表会などと何ら変わることがなく、純粋に感動し、応援していた。今回の大会がなければ、出場した何人かの少年たちは、親の前で誇らしげに自分の力を示すことなく、大人になってしまったかもしれない。そう考えると、国体でeスポーツを取り上げたことは多くの人にとって必要なものだったのだろう。

『eFootball ウイニングイレブン 2020』で優勝した茨城県第二代表チームの最年少は19歳の相原選手で、最年長は41歳の酒井選手。親子ほど年の離れたふたりの選手がひとつのチームでプレイし、そして優勝を勝ち取っていた。また、『ぷよぷよeスポーツ』の小学生の部に出場していた選手には小学3年生(9歳)の男の子もおり、見事ベスト8を決めていた。幅広い年齢層で大会が開けるのも、eスポーツならではと言えよう。今後は高齢者の参加も見込める可能性もある。そうなるとまさに国民のための大会になるのではないだろうか。

抱き合っているふたりは19歳と41歳のチームメイト。年齢差を超えて一緒にプレイできるのはeスポーツのひとつの魅力だ

また、少年の部と一般の部に分かれて戦っていたものの、その部門による実力差は、思った以上に少なく、少年の部で上位入賞した選手が、一般の部でも活躍できるだけの実力があるのは、プレイを見ればすぐにわかる。『ぷよぷよeスポーツ』は、落ちてくるぷよをうまく組み合わせることで、順々に消す、いわゆる連鎖をすることが、勝利の鍵であり、ゲームの面白さの根幹となっている。しかし、組み方については知識と瞬時の判断力が必要となり、やり込んでいないプレイヤーは、大きな連鎖をすることが難しい。参加した小学生は、大連鎖を起こすための「ぷよ」の組み方の定石をいくつも理解し、使いこなしており、決勝戦では最大13連鎖という大連鎖もやってのけている。このあたりをみても、年齢による部門分けすら必要なく感じるのは、リアルスポーツではあり得ないeスポーツ特有のものだと言える。

eスポーツは高額賞金や大会の規模に注目されがちだが、リアルスポーツと同様にプロだけでなくアマチュアも活躍できる。その最高峰のひとつとして国体があるのであれば、今後も国体の文化プログラムでeスポーツ選手権を開催する意味は大いにあると考える。

次回の国体は、鹿児島県で開催される「燃ゆる感動かごしま国体(第75回国民体育大会)」、「燃ゆる感動かごしま大会(第20回全国障害者スポーツ大会)」だ。先ほど紹介した9歳の少年の母親は、ベスト8となった子どもに「来年がんばろうね」と声をかけ、励ましていた。かごしま国体の文化プログラムでのeスポーツ選手権の開催については正式に発表されていないが、この親子をはじめとする多くの選手やその家族の期待に応えられるように、次回の国体でもeスポーツ選手権の開催を、もちろん正式種目としての参入を、切に願いたいところだ。


(information)
全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI
会期:2019年10月5日(土)、6日(日)
会場:つくば国際会議場
主催:一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)
いきいき茨城ゆめ国体・いきいき茨城ゆめ大会実行委員会
公益財団法人日本サッカー協会(*ウイニングイレブン部門のみ)
https://e-47-ibaraki.jp


(脚注)
『eFootball ウイニングイレブン 2020』『グランツーリスモSPORT』の2タイトルは、公式の世界大会が開催されている。『ぷよぷよeスポーツ』については世界大会の開催はないものの、全国大会のほか世界各地でのコミュニティー大会が開催されている。

※URLは2019年10月16日にリンクを確認済み