2019年度メディア芸術連携促進事業・連携共同事業の報告会が、2019年10月15日(火)に大日本印刷株式会社のDNP五反田ビルで開催された。メディア芸術連携促進事業は、メディア芸術分野における、各分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により新領域の創出や調査研究等を実施する事業だ。本事業の目的は、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用と展開を図ることにある。中間報告会では、本事業の一環として実施している連携共同事業7事業の取り組みの主旨や進捗状況が報告された。会場では、マンガ、アニメーション、ゲームとメディアアートと、4つの分野を3グループに分け、各グループで事業概要、進捗状況、課題、展望などが伝えられ、これらを踏まえて議論・助言が行われた。本稿では、3つの事業が進められているアニメーション分野についてレポートする。

アニメーションブートキャンプ2019

森ビル株式会社
報告会参加者:
布山タルト氏(東京藝術大学大学院 映像研究科 アニメーション専攻)*報告者
岩淵麻子氏(森ビル株式会社 都市開発本部 計画企画部 メディア企画部)
河合隆平氏(森ビル株式会社 都市開発本部 計画企画部 メディア企画部)

布山氏

【事業概要】
アニメーションブートキャンプは、アニメーションプロデューサーとアニメーション教育研究者の産学共同ディレクター体制のもと、ワークショップの実践を柱とした人材育成のプログラム開発を進め、産学の垣根を越えてアニメーションの知恵を共有するプラットフォームとなることを目指している。

【報告】
アヌシー国際アニメーション映画祭において、アニメーションブートキャンプを開催。講師として板津匡覧氏、押山清高氏、りょーちも氏、通訳兼講師としてセドリック・エロール氏を迎え、現地に住むこれからアニメーション制作に携わりたいとする人たち20名ほどを対象に行い、事後アンケートでほぼ100%の満足度を得た。国内では、7月に1dayワークショップを、40名ほどを対象に実施。10月には合宿型ワークショップを実施予定だったが台風の影響で中止。しかし、合宿前に行われた3DCG事前講習では、Blenderというフリーソフトを導入し、今後の手ごたえを感じた。さらに、これまで8年間実施してきたことを分かりやすくまとめた書籍化の検討など、一般の方々に活動を知ってもらう動きもスタートしている。
次年度に関しては、地方の参加希望者が経済的な理由で参加を断念するケースが見られることから、地方自治体と連携をはかり、持続的発展を目指していきたいと考え、本年度は福島県との協議を進めている。また、教員に向けて教育方法を指導するワークショップを開催することも検討している。さらに、プロの学び直しのニーズが高いこと、初等・中等教育における基礎表現教育としてのアニメーションブートキャンプの有効性が議論されていることから、教育対象の拡大も視野に入れている。最後に、海外に向けて国内のアニメーションに関する情報発信を行うべく、国際連携を推進していきたい。

【議論・助言】
山川道子氏(株式会社プロダクション・アイジー)からは、「プロからも業務外で勉強会を開催してほしいとの声があり、熱意ある人が集まれる正規の勉強会をお願いしたい」という制作現場の希望が伝えられた。布山氏は「学びたい人同士の横のつながり・縦のつながりが作られる、同志が出会う場としてブートキャンプを発展させたいと考えている。縦のつながりとしては、以前からOG・OBに講師を務めてもらう流れをつくりたいという話があり、今回台風で中止になった合宿型ワークショップでは、そういった初めての事例が生まれる予定もあった」と答えた。これに対して田中千義委員(株式会社スタジオジブリ)は、「経験者の参加により、学びたいという若い人たちがはじかれないよう、プロと人数的な配分を留意してほしい」と意見。布山氏は、「これまでは各グループ内にスキルレベルの異なる人を混在させて、教え合う状況を生むことでバランスをとってきた一方、アニメーションブートキャンプが提供する基礎重視の内容が、プロの参加者の期待と必ずしも一致しない場合もあり、それは今後の課題」と実情を伝えた。
内田健二委員(マンガ・アニメーション・ゲーム・メディアアート産学官民コンソーシアム)は、「アニメーションの根源的なおもしろさを実感してもらうことが、アニメーションブートキャンプのエッセンスだと思うが、今後どのように門戸を開いていくのか、また人員的にも可能なのか」との問いが挙がった。布山氏は、「参加した学校の先生たちが、学んだ内容を持ち帰って自発的に実施する、『のれん分け』のようなスキームも検討したい。ただし、ブートキャンプを名乗る以上、守ってもらいたい方法や内容を明確化して質を保証する必要がある。ゲーム分野で行われているハッカソンがモデルになると考えている」と今後のビジョンを語った。
このほか、地方との連携に関して、福島県のほか、将来的には他の地域へも相談の枠を広げていきたいこと、海外への情報発信については、文化庁の国際事業で継続的に実施されているタイでのワークショップが引き合いに出され、1dayワークショップの海外での実施がひとつの経路となっていくであろうことなどが論じられた。

アニメ特撮の中間制作物保存方法構築のための実践及び調査

特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)
報告会参加者:
辻壮一氏(特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構)*報告者
三好寛氏(特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構)
山川道子氏(株式会社プロダクション・アイジー)

辻氏

【事業概要】
アニメーションや特撮の制作において発生する中間制作物(原画やミニチュアなど映像制作過程で作られるもの全般)は、利活用価値の高い貴重な存在であるが、映像完成後に破棄されるのが通例で、例外的に残されたものも未整理で保存状態が良好とは言えない。中間制作物を文化財として保存し有意義に利活用するために、整理・保存の実践とその方法論構築に向けた調査研究事業を行う。

【報告】
ATACでは2015年から収集保管活動を始め、2017年に解散した有限会社アトリエブーカより受け取った美術資料や、2019年度からは株式会社カラー所有・管理の過去作品資料も整理。これ以外にも、アニメ制作関係者、アニメに関わった個人、遺族からの寄贈などを受け付けて、かなりの量の資料が集まっている。これらの整理は、株式会社プロダクション・アイジーをはじめとした制作会社や専門家らと情報交換をしながら進めているが、人員の問題、場所の問題、予算の問題が出てきている。
資料の管理には、在庫管理用のクラウド型ソフトZAICOを使用している。資料の写真も登録できるクラウド型ソフトで、登録件数に上限がなく有効。しかし、各制作会社がシステムを自作していることに倣い、将来的にはそのような独自システムの導入が必要と考えている。とは言いつつも、整理を進めていくなかで、ZAICOを活用することも含め、おおよそのデータの作成方法、情報共有の仕方についてのフォーマットはほぼ確立できると見込んでいる。
課題としては、資料寄贈・寄託者とのコミュニケーション拡大、資料選別ができるスタッフの育成、公開に向けた権利者との交渉、デジタル化などが挙げられる。現在は希薄である各社のアーカイブ担当者同士の情報交換も進めていきたい。

【議論・助言】
岩淵氏からは、膨大な量の資料の整理に対して「全体で何人の作業スタッフがいるのか」との質問が挙がった。辻氏は「常駐1名とアルバイト2名だが、株式会社カラー所有・管理の資料、段ボール約400箱分を整理するときは、関係各社に協力を仰いで約10名で作業を行い、大量受け入れ時の粗整理方法を試行することができた。約10名のうち、作品の内容を判別可能なのは3~4名のため、その人たちを軸としてチーム分けした」と説明。
田中委員は、「今年の夏に高畑勲展を行った際、制作会社に問い合わせても資料にたどり着けないことがあり、会社としての組織とアーカイブしている現場の乖離を感じた」と所感を述べた。これに対し辻氏は「膨大な資料を抱えている会社となると、アーカイブ担当者ですらすべて把握しているとは限らない。担当者の変更による資料の把握漏れはわれわれにも起こり得ることであり、資料管理の引き継ぎが課題」と答えた。
このほか、災害にも備えた、資料の種類ごとの長期にわたる保管方法の確立が必要であること、大量の紙・セル画資料は重く、身体的に負荷が大きいこと、ZAICOによる管理だと、目録化と共有が行いやすい、CSVでデータを出力できるため他ソフトへの移管も可能といった利点があることなどが話題となった。

アニメスタッフデータベースの持続的な構築・整備に向けての調査・検証

特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)
報告会参加者:
三好寛氏(特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構)*報告者
高橋望氏(特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構)

三好氏

【事業概要】
平成29年度の連携促進事業「アニメ制作従事者に関する記録の調査及び活用のための準備作業」でATACが調査を行った原口正宏氏(リスト制作委員会)によるクレジットデータベースは、一定の信頼性と継続性があり、アニメ界全体を見通せるデータベースとしてほぼ唯一の存在である。しかし、その構築と運用は個人的な献身と努力に支えられており、今後の継続性には様々な問題を抱えている。そこで本事業は、アニメのタイトル、スタッフに関する網羅的なデータベース構築を補強し発展させていくための方策の一環として、放映中の地上波TVアニメ番組の網羅的な録画と、クレジット記録の根拠となるデータ抽出を、システムにより自動化する試行を中心に研究を行う。

【報告】
これまでリスト制作委員会は、地上波で放映されている全アニメ作品を録画し、クレジットを記録・整理することを、30年以上にわたってすべて手作業で行ってきた。しかし、大量に放送されるアニメを記録するだけでも相当な仕事量であるため、ここ数年は、1年間に放送されたアニメのデータを整えることが精一杯で、マザーデータベースへの入力が追いついていない。そこで、マザーデータベースへの入力に注力できる時間を確保すべく、これまで人海戦術的に行われていたデータ収集を、システムにより自動で録画、クレジット画面を抽出、OCRでテキスト化することを目標とし、実験・実証を進めている。
また、劇場公開作品、OVAのようなソフトとして販売されている作品、配信でしか発表されていない作品のデータ収集は、今回は着手できておらず、今後の大きな課題となっている。

【議論・助言】
内田委員からは、「手法として完成、カバーできそうな見通しはあるのか」と自動化に向けての取り組みについて率直な意見が出された。三好氏は、「従来からは改善されているが、自動化にはまだ至らない作業も多く、ネット配信のみの作品には全く対応できていないといった課題も多い。理想としては、ある人名を入力すれば全フィルモグラフィーが網羅できるような利便性の高いデータベースを目指したい」と返答。
一方で田中委員は「古い作品のクレジットは名前やメンバーが実際と異なっていることがある」と制作現場の実情から指摘。三好氏は「その問題は認識済みだが、まずは一度放映された記録として残すことに意味があり、それを基に原口氏が本人や関係者へのインタビューなどを通じて補完をしている。われわれは、できる限り自動化を進め、原口氏が、そうした原口氏にしかできない作業に注力できる環境をつくることを目指している」と話した。続けて田中委員は「国立国会図書館のように、各会社や動画協会から自動的にスタッフデータを入手するルーティンは構築できないのか」と問いかけた。高橋氏は、「議論はしている。映画では、キネマ旬報の映画データベースが機能しているため、そのノウハウを学びたい。おそらく映連(日本映画製作者連盟)を通じて各映画会社から自動的に入手する方法を取っていると思われるため、同じことをアニメ業界でもできないものかと提言したいと考えている」と述べた。すると山川氏は、企業の立場から、「収益につながらなければ協力は難しいが、金額の多寡の問題ではなく、仕事として発注する形式を整えれば会社も動きやすい」と意見。
このほか、テレビ番組で放送された情報を数百人単位で記録し、広告スポンサーにそのデータを販売している会社を取材しようとしていること、エンドクレジットは本放送後、DVD化の段階で修正されているケースもあるため、DVDソフトが国立国会図書館に保管されているのが重要であることなどが話された。

アニメーション分野の議論の様子
マンガ分野▶
ゲーム分野、メディアアート分野▶