2019年度メディア芸術連携促進事業・連携共同事業の報告会が、2019年10月15日(火)に大日本印刷株式会社のDNP五反田ビルで開催された。メディア芸術連携促進事業は、メディア芸術分野における、各分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により新領域の創出や調査研究等を実施する事業だ。本事業の目的は、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用と展開を図ることにある。中間報告会では、本事業の一環として実施している連携共同事業7事業の取り組みの主旨や進捗状況が報告された。会場では、マンガ、アニメーション、ゲームとメディアアートと、4つの分野を3グループに分け、各グループで事業概要、進捗状況、課題、展望などが伝えられ、これらを踏まえて議論・助言が行われた。本稿では、それぞれ1つの事業が進められているゲーム分野、メディアアート分野についてレポートする。

ゲームアーカイブ所蔵館連携調査2019

立命館大学ゲーム研究センター(RCGS)
報告会参加者:
尾鼻崇氏(尾鼻崇事務所)*報告者
岡本慎也氏(立命館大学 衣笠リサーチオフィス)

尾鼻氏

【事業概要】
アーカイブ構築のための所蔵館連携事業、アーカイブの利活用を目指した調査事業の継続に加え、過去4年を含めた5カ年の省察を行う。また所蔵館連携・調査事業においては産業界との連携の強化を図る。

【報告】
本年度は、国内外の所蔵館の調査をもとに各館のネットワーク構築や目録作成等を進めた。所蔵館連携では、国際的な調整会議と国内セミナーにて、各館の活動状況の把握やデータ連携のための議論を行った。今年国内で開催された日本デジタルゲーム学会(DiGRA)を機にアリゾナ大学やエストニアの所蔵館とも情報交換ができた。アリゾナ大学、スタンフォード大学は2015年にも視察を行ったが、ゲーム分野の4年間での変化も踏まえ、更新された収蔵品やスタッフの変更などを調査する方針だ。そのほか、国内外の所蔵館を視察し、展覧会開催組織に対してもアーカイブの活用等についてヒアリングを行う。オンライン資源においては、中国大手オンラインゲーム会社のPerfect World社と連携し、アジア圏における調査、保存方法論等の調査を行う予定である。また一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)との連携では、コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス(CEDEC)の技術アーカイブ及びその保存・利活用に関するヒアリングを実施する。目録は、ゲーム資料900件、ゲーム関連資料500件程度を登録予定であり、アーカイブのための重点対象マップも更新する。今後は書誌ユーティリティ(Online Computer Library Center, Inc. 〈OCLC〉)への対応作業、利活用の試みも想定している。また、5カ年実施してきた本事業の省察および本年度以降の活動方針案を策定する予定だ。

メディアアート展示資料の調査研究事業

特定非営利活動法人 Community Design Council(CDC)
報告会参加者:
野間穣氏(特定非営利活動法人 Community Design Council)*報告者

野間氏

【事業概要】
アーカイブ構築の基礎情報となる、メディアアート年表を作成する。メディアアート分野において各団体が実施してきた事業内容を総覧(メディアアート年表の作成し、各データをそこに紐付け)することで、作品(日本国内の1950年代以降のテクノロジーを用いて表現、発表されたメディアアート)の所在情報および関連資料等の有無、デジタルアーカイブ化の対応状況等を明らかにし、今後の事業検討に繋げる。

【報告】
中間報告までの事業内容は、メディアアート年表、事業内容総覧の作成と、山口情報芸術センター[YCAM]と協働した作品データ、催事データの制作などである。メディアアート年表は、有識者の協力を受けながらベース段階のものはできた。今後はこれまでの事業成果総覧のマッピングを行う予定だ。具体的には、連携促進事業だけでなく、データベース事業、アーカイブ推進支援事業等における作品、催事情報等データも可能な限り含めた総覧作成を目指す。前年度に引き続き実施している資料のデータ化とその保存に関しては、メディア芸術データベースとの連携を見据えたデータの目録作成を行い、データ登録の運用体制や、各団体への連携促進となる活動の検討も行う予定だ。メディアアート分野自体の難しさに加えて、団体が変わりながら事業が進められてきた経緯があるため、本年度は関連事業の省察を重点的に進めている。今後は、メディアアート史調査に目処が付き次第、調査資料目録の作成および運用体制の検討を行う。また、作品データ、資料の調査・収集を引き続き行うとともに、昨年度の事業で拾いきれなかった意見などをインタビュー調査において収集する予定である。

2つの事業に対する議論・助言

本グループはゲーム分野、メディアアート分野が同じテーブルで議論を行った。ゲーム分野・メディアアート分野ともに焦点となったのは、アーカイブ対象の範囲設定である。
ゲーム分野報告者の尾鼻氏は、「アーケードも家庭用ゲームもオンライン上で常にアップデートされており、すでにオンライン資源はゲームと不可分」とし、オンライン資源の調査の必要性を提言した。細井浩一委員(立命館大学 衣笠総合研究機構 アート・リサーチセンター 映像学部)は「手続き論的には家庭用とアーケードに注力すべき」と意見。久保田晃弘委員(多摩美術大学 美術学部 アートアーカイヴセンター)はメディアアート分野の視点から、オンライン資源のアーカイブについて「ネットアートのアーカイブ手法が参考になるだろう」と助言した。加えてアーカイブ対象の選別については、「作品の優越ではなく使われた技術で線引きしなければ、恣意的なアーカイブとなってしまう。技術と歴史を基準にすることは、利活用の側面からも重要」と述べた。山地康之委員(コンピュータエンターテインメント協会)は「オンラインゲームの議論は今後避けて通れない」とするも「ビジネスモデルにも着眼しなくては整理が難しく、利活用も含めて産業界との一層の連携が必要」と意見した。
メディアアート分野報告者の野間氏は、メディアアートの定義について「商業施設やイベントでのプロジェクションマッピングなどもメディアアートと呼ばれることが増えており、議論する必要がある」と所感を述べた。久保田委員は、野間氏作成のメディアアート年表が1950〜2020年を範囲としていることを受け、「作品のアーカイブと年表制作は分けて考え、アーカイブ・調査の対象は、90年代の動きや作品に焦点を当てるべき」と意見した。また、関口敦仁委員(愛知県立芸術大学 美術学部 デザイン・工芸科)は「メディアアート関連事業の全体を網羅して表示することで、アプローチの変化や事業所の動きが明らかになり、アーカイブ手法や整え方が見えてきた」と年表を評価した。参加者からは年表の公開を望む声が上がり、久保田委員からも「不完全な状態だからこそ公開するべき。CCライセンス化し、各人が付記できたり、オルタナティブな年表がつくられたりする余地があることが望ましい」とした。
本グループでは、両部門ともにアーカイブ事業であり、技術の革新・発展が大きく作用する分野のため、分野横断的な意見交換もなされた。久保田委員は「ウェブができてからスマートフォンが登場するまでに起きたことを分析すれば、それ以前・以後の動きも整理できるだろう」と意見し、関口委員は「ゲームでも同じ時期にムーブメントがあると分かり、異分野と議論する重要性を感じた」と述べた。細井委員は、事業の進め方に関して「評価選別論の土俵に引き込まれず、限りあるリソースをどう投入して、何を世に問うていくのか。次のステップを見据えた議論を行い、他分野とも共有していきたい」と抱負を述べた。

ゲーム分野、メディアアート分野の議論の様子
調査を基に作成した日本のメディアアート年表
マンガ分野▶
アニメーション分野▶