2004年2月に放映を開始した『ふたりはプリキュア』以来、2019年2月より放送を開始した『スター☆トゥインクルプリキュア』で16作目となった「プリキュア」シリーズ。一貫して東映アニメーションが制作を手がけ、女児を主要ターゲットに毎年続いてきた本シリーズは、子どもたちにとって親しみ深いアニメのひとつである。東映アニメーションが培ってきたアニメの技術と演出を未来につなぐ作品として、「プリキュア」シリーズのこれまでとこれからを考えてみたい。

『映画 HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』ポスタービジュアル

地上波放送アニメの家庭における視聴形態は、ここ10年ほどで大きく変化した。大容量のハードディスクを搭載した録画機器が普及し、NetflixやAmazonプライムをはじめとするサブスクリプション型の動画配信サイトの利用が一般的になった現在、時間や場所を問わずに番組を視聴することが一般的となった。テレビで放送時間に合わせてアニメを視聴するという形態は、過去のものになりつつある。
それでも今なお、旧来の視聴形態を前提として制作されているアニメが、未就学児から小学校低学年を対象とした作品群と言える。これらのアニメの多くは玩具メーカーが番組スポンサーであり、作中のキャラクターが使用する武器や道具を模した玩具の販促を大きな目的としている。物語の進捗に合わせて新たな武器や道具が登場し、その活躍の描写や、挿入される玩具のコマーシャルによって子どもたちの購買意欲を促すというつくりだ。近年インターネットでの配信も行っているとはいえ、毎週決まった時間に30分の枠を視聴するという旧来の受容形態を未だに前提としており、リアルタイムで受容する層が多くを占める、最後のアニメジャンルと言えるのではないだろうか。
このような、子ども向けアニメの放送枠としては、朝日放送系列における日曜日の8時30分から9時までの時間帯がよく知られる。現在、この枠では主に3〜6歳の女児を中心とした子どもたちをターゲット(註1)とした「プリキュア」シリーズが放送されており、その後には同じく玩具メーカーがスポンサードする特撮の「仮面ライダー」シリーズと「スーパー戦隊」シリーズが連続放送される。
2004年に放送を開始した「プリキュア」シリーズは、2019年2月より始まった『スター☆トゥインクルプリキュア』で16年目に入った。毎年、タイトルと登場キャラクターは変更される(註2)が、少ない例外はあるものの、小学生から高校生までの女の子がプリキュアに変身し、敵と戦うという共通した変身ヒロインものとして「プリキュア」の名を冠している。これまでのシリーズでは各作品ごとに2〜6人のプリキュアが登場している。また、劇場版や一部作品では、異なるシリーズのプリキュア同士が協力するなど、「プリキュア」シリーズという大きな枠組みを生かした作品づくりが行われているのも特徴だ。
成長の早い子どもに合わせ、3年ほどで新規企画に切り替えていくことが多い女児向けのアニメにおいて、これだけ長期間、同じタイトルでシリーズが続いているのは異例のことである。日曜日の朝、多くの女児が視聴するアニメとして、ブランドを確立してきた「プリキュア」シリーズ。そうした状況のなかで本シリーズが、子どもたちにとって、最初期のアニメ視聴体験のひとつとなっていることは想像に難くない。そうしたことを加味しつつ、その映像と演出がいかに作品に寄与しているのかを、シリーズの歴史とともにひも解いていきたい。

東映アニメーションの伝統が息づくプリキュア

2004年に放送を開始した「プリキュア」シリーズの制作は、一貫して東映アニメーションが担当してきた。東映アニメーションは、1950年代において数少ないアニメ制作会社のひとつであった日動映画を、東映が買収して1956年に発足した、東映動画を前身としている。
東映動画は、女児を主要ターゲットとして制作された日本初のアニメとされる、横山光輝原作の『魔法使いサリー』(1966〜68)を制作している。その後も『ひみつのアッコちゃん』(1969〜70)、『魔女っ子メグちゃん』(1974〜75)、『花の子ルンルン』(1979〜80)など、魔法や変身をテーマとした東映魔女っ子シリーズと呼ばれる女児向けのアニメシリーズをつくり続ける。80年代には「週刊少年ジャンプ」の人気作品、『北斗の拳』(1984〜87)や『ドラゴンボール』(1986〜89)のアニメ化を担当、90年代に入ると、企画段階から出版、放送、玩具を横断するメディアミックス作品としてつくられた『美少女戦士セーラームーン』(1992〜93)を制作。同作は後にシリーズ化され、日本のみならず世界の市場で成功を収めている。そして1998年、東映動画は現在の東映アニメーションへと名称を変更した。
東映アニメーションは、現在「プリキュア」シリーズが放送される、朝日放送系列の日曜日8時30分からの枠のアニメ番組の制作を、1984年以来一貫して担当してきた。この枠では、1999年2月に「おジャ魔女どれみ」シリーズがスタート、2003〜2004年の『明日のナージャ』を経て、『ふたりはプリキュア』の放送開始につながっていく。
「プリキュア」シリーズが生まれる土台として、このような東映アニメーションの長年の蓄積は無視できない。少年・少女マンガ原作のアニメ化作品、玩具メーカーとのメディアミックス戦略、そして長編映画の制作ノウハウなど、総合的なアニメーション制作の経験を有する東映アニメーションだからこそ、「プリキュア」シリーズはここまでの訴求力を確立できたといえる。
例えば、シリーズ初代となる『ふたりはプリキュア』は、それまでの女児向けアニメシリーズにはなかった、変身後に激しい肉弾戦のアクションで戦うというヒロイン像を提示したことが、大きな特徴となっていた。『ふたりはプリキュア』のシリーズディレクター(註3)を務めた西尾大介は、『ドラゴンボール』『ドラゴンボールZ』(1989〜96)のシリーズディレクターや、『ONE PIECE』(1999〜)の演出、『エアマスター』(2003)のシリーズディレクターなど、少年・青年マンガを原作とする東映動画/東映アニメーション制作の戦闘アクションを多用するアニメに参加してきた。「プリキュア」シリーズが一貫して、肉弾戦での戦闘描写にこだわってきたその原点は、少年マンガ原作の演出ノウハウを持っていた西尾の存在が大きい。

【公式】ふたりはプリキュア 第1話「私たちが変身!? ありえない!」

また、東映アニメーションの長年の蓄積という意味では、『美少女戦士セーラームーン』で作画監督を担当した香川久が、6作目の『フレッシュプリキュア!』(2009〜10)のキャラクターデザインや各話の作画監督として、「おジャ魔女どれみ」シリーズのキャラクターコンセプトデザインを手がけた馬越嘉彦が、シリーズ7作目の『ハートキャッチプリキュア!』(2010〜11)のキャラクターデザインや各話作画監督・原画として参加しているのも見逃せない。作品ごとの異なるコンセプトを実現するために、東映アニメーション(旧東映動画)が制作した過去のヒット作のスタッフが参加し、それぞれの作品のコンセプトに合致したルックをつくり上げているのも東映アニメーションならではの強みだろう。
さらに、アニメーターの個性を生かした作画が見られるのも「プリキュア」シリーズの特徴だ。一例を挙げると、「変身バンク」と呼ばれる、毎回の放送で流用される変身シーンにも、アニメーターそれぞれの個性が強く出ており、志田直俊や板岡錦といった高いオリジナリティを持つ原画マンの仕事が注目されるきっかけともなっている。
また、「プリキュア」シリーズの作画を語るうえで、フィリピンのマニラに拠点を置く、TOEI ANIMATION PHILS., INC.(以下TAP)にも触れておきたい。1970年代から、人件費の安価なアジアの発展途上国にアニメ制作の一部委託を始めた日本のアニメ業界だが、TAPの前身となるITCAもアニメの仕上げを手がける下請けスタジオだった。1999年に東映アニメーションの100%子会社となったTAPは、「プリキュア」シリーズの制作に、スタート時より参加している。TAPには背景や色彩設定だけでなく、原画スタッフも数多く在籍しており、シリーズ中には原画スタッフがすべてTAPのスタッフということもある。作画全体を統括する作画監督も輩出しており、6作目の『フレッシュプリキュア!』ではポール・アンニョヌエボが、7作目の『ハートキャッチプリキュア!』ではフランシス・カネダがそれぞれ作画監督デビューをしている。フランシス・カネダは同じくTAPに所属するアリス・ナリオと2人で、共同作画監督として「プリキュア」シリーズで活躍することも多く、TAPチームがすでに日本の作画スタッフと遜色ない水準で、原画を統括できることを物語っている。

3DCGアニメーション技術の進化とともに

ここまで、手描きアニメーションとしての「プリキュア」シリーズの歴史を振り返ってきたが、一方で世界のアニメーションの主流となっている3DCGも、「プリキュア」シリーズは積極的に取り入れている。
「プリキュア」シリーズにおける3DCGは『フレッシュプリキュア!』が大きな転換点であり、本作で初めてエンディングがフル3DCGのダンス映像となった。手描きでダンスシーンを制作するとなると、膨大な労力が必要となるが、3DCGであればコストをある程度抑えながら、ダンスの振り付けを、アニメで忠実に再現することができる(註4)。セルルックと呼ばれる、手描き作画の質感を取り入れた3DCGの採用は、作中の手描き作画との連続性を失わずに、子どもたちに違和感なく受け入れてもらうための工夫でもある。東映アニメーション・デジタル映像部の野島淳志は、制作当時を「挑戦だったが、CGの技術が発展する中で、実用段階に入りつつあると考えていた」(註5)と振り返っている。

【公式】フレッシュプリキュア! 第1話「もぎたてフレッシュ! キュアピーチ誕生」

それまでの東映アニメーションの制作においては、3DCGを積極的に使用するという姿勢は薄かったために、ほとんど初めての挑戦と言ってもいい本作のエンディング映像だ。にもかかわらず、体とともに揺れる洋服や髪の毛の表現、踊っているキャラクターのまわりを周回するカメラワークの新鮮さなど、その完成度は驚きをもって迎えられた。このエンディング映像は、現在の水準で照らすと、横顔や洋服の立体感にモデリングの違和感があったり、正面からキャラクター3人のダンスを映す平面的な構図が続いてしまうなど、発展途上を感じる部分はあるが、その後のセルルック3DCGの日本独自の発展を鑑みれば、歴史的な映像と言えるだろう。『フレッシュプリキュア!』以降、「プリキュア」シリーズでは3DCGによるダンスエンディングが定番となった。『スマイルプリキュア!』(2012〜13)からは、カメラアングルが多彩に変化するようになり、苦手とされたキャラクターの横顔や下からの構図も積極的に採用される。
また、これらのエンディング映像で培った3DCGの技術は、劇場版における戦闘描写にも大きく貢献している。『映画 Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』(2015)では、3本立てのうちの「プリキュアとレフィのワンダーナイト!」と「キュアフローラといたずらかがみ」の2本がフル3DCGで制作されている。前者は登場人物の感情を表現する表情や動きを3DCGによって演出し、後者はキャラクターの頭身を低くしてコミカルに動かす演出がなされている。エンディングのダンス映像においてアップデートを繰り返してきた「プリキュア」シリーズの3DCGの映像技術は、劇場作品の多彩な演出においても大きく貢献するようになったのである。
シリーズ15周年を記念した『映画 HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』(2018)は手描きと3DCGを組み合わせた作品であるが、デジタル作画による手描きアニメーションと3DCGによるアニメーションの境目が、作画監督の修正や撮影処理によってほぼ違和感なく繋がるほどの水準に達している。さらに3DCGによる歴代の登場プリキュア55人が一同に介するなど、大容量のデータ処理を必要とする表現も、レンダリング時の情報を効率的に分配しつつ、手描きによる髪の毛の動きのプリセットも組み合わせて、実現させた(註6)。
このように、現在に至るまでに「プリキュア」シリーズでは、東映アニメーションが長く培ってきた手描きアニメーションと、3DCGが高いレベルで融合する映像が生み出されている。

アニメ視聴環境の変化と「プリキュア」シリーズ

ここまで「プリキュア」シリーズが、手描き、3DCGの双方向から挑戦的かつバリエーション豊かな表現に挑戦してきた歴史を紹介してきた。だが、「プリキュア」シリーズにおいて重要なのは、冒頭でも触れたように、これらの技術的・演出的な試みが施された映像が地上波で放送され、それを1週間に1度、子どもたちが視聴しているという点である。
00年代前半までは、平日休日問わず、夕方からゴールデン帯にかけて多くのアニメ作品が放送され、子どもたちの目に触れていた。昨今、劇場版アニメが高い人気を誇り、大人がアニメを視聴し、話題にすることは珍しいことではなくなった。だが、このような状況が生まれた土壌として、物心がついた頃よりアニメに触れており、アニメを視聴することが実写作品のそれと変わらず自然なものであるという受容者層の存在が無視できないのではないだろうか。
2020年現在、子ども向けアニメの放送枠は、土日の一部の枠に限られるようになっている。2019年10月、朝日放送系列で、金曜日の19時から20時の枠で放送されていた『ドラえもん』と『クレヨンしんちゃん』が、土曜日の17時台の放送枠へと移動した。これによって、長く続いてきた地上波放送のゴールデン帯枠の子ども向けアニメがついに消滅した。
視聴環境が多様化し、地上波放送枠が希少となった子ども向けアニメは、多々あるコンテンツのなかから能動的に選ばれるものとなった。同世代が同時に同じコンテンツを見るという現象が珍しくなった昨今、子どもは必ずアニメを見るもの、という常識は通用しなくなってきている。YouTubeやスマートフォンゲームなどに対して、テレビ放送されるアニメが特段の優位性を持っているとは言い難い。
プリキュアもまた、例外ではない。ほかの子ども向けアニメと同様に、その視聴率は低下を続けている。1作目の『ふたりはプリキュア』の平均視聴率が7.3%だったのに対し、2018年の『HUGっと!プリキュア』は前年より持ち直したと言えど3.5%に留まっている(註7)。だが『HUGっと!プリキュア』が放送された2018年、プリキュアシリーズのトイホビー売上は約101億円と、2012年以来の100億円台に乗った(註8)。「プリキュア」シリーズは、玩具の販促をひとつの目的としているが故に、視聴率とは違う評価軸を持つことができ、番組の継続にもつながっている。もちろん、今後の少子化の進行や、新たなメディアの浸透によって、テレビ放送が消滅してしまうことも考えられる。だが少なくとも、トイホビーの売上という軸があることによって、子どもたちに評価される作品をつくれば、今後の放送の継続につながっていくだろう。
「プリキュア」シリーズが少しでも長くテレビ放送を継続することは、東映アニメーションの培ってきた手描き作画や、3DCG技術のノウハウが投じられた、高い水準の映像が、毎週子どもたちの目に触れる機会が維持されるということでもある。これだけの長期にわたる作品シリーズを新規に立ち上げ、継続することの難しさを考慮に入れると、10年後、20年後の未来のアニメ視聴層を形成するうえでも、「プリキュア」シリーズは長く持続すべき作品であると言える。

アニメの未来を子どもたちに託して

「プリキュア」シリーズの15周年記念作品と銘打たれた『HUGっと!プリキュア』(2018〜19)は、「子育て」をテーマにしながらも、「なりたい自分」を思い悩みながらも探っていく少女像を提示した。かつて受けたいじめに負けず、転校先で新しい自分になろうとする主人公・野乃はなを始め、登場人物たちはそれぞれの「なりたい自分」を追い求めた結果、プリキュアに変身していく。ジェンダーや階層、年齢を越えて展開されたそれは、これからの時代に求められる新たな価値観や考え方の多様性を提示していたといえる。「プリキュア」シリーズは、子どもたちだけでなく、かつて『ふたりはプリキュア』を見ていた世代にとって、自らの子どもに見せる価値があると判断されるよう、工夫を重ねている。
玩具の販促という商業的な側面と、子ども世代と親世代という異なる視聴者層のあいだで、複雑な折衝を重ねながらも、映像作品としてのアップデートを続けてきた「プリキュア」シリーズ。日本のアニメの視聴形態が大きく変化している現在において、将来のアニメの受容者になり得る子どもたちにとっての貴重なインフラとして、プリキュアというコンテンツを捉える時期に来ているのではないだろうか。

【公式】HUGっと!プリキュア 第1話「フレフレみんな!元気のプリキュア、キュアエール誕生!」」


(脚注)
*1
ターゲット年代については下記を参考にした。
Drama&Movie by ORICON NEWS「プリキュア生みの親が語るヒットの背景、時代と共に女児の自立を応援し15年」
https://www.oricon.co.jp/confidence/special/52074/

*2
1作目の『ふたりはプリキュア』(2004〜05)と2作目の『ふたりはプリキュア Max Heart』(2005〜06)および、4作目の『Yes!プリキュア5』(2007〜08)と5作目の『Yes!プリキュア5GoGo!』(2008〜09)のみ主役級のキャラクターの継続があったが、以降は毎年変更されている。

*3
東映アニメーションの作品における監督職は、伝統的にシリーズディレクターと呼ばれる。

*4
プリキュアシリーズのエンディングのダンスは、前田健、振付稼業air:man、MIKIKOといったプロの振付師による振り付けを、3DCGのアニメーションにしている。

*5
MANTANWEB(まんたんウェブ)「プリキュア:3DCGでアニメ業界に衝撃 進化の軌跡を探る」
https://mantan-web.jp/article/20151017dog00m200014000c.html

*6
CG WORLD編集部『アニメCGの現場2019』(ボーンデジタル、2018年)、「映画 HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ」、pp. 50-51

*7
kasumi『平成のプリキュア史 2004〜2019 〜その製作者の想いと、商業的視点からの考察〜』(私家版、2019年)、p. 14

*8
kasumi『平成のプリキュア史 2004〜2019 〜その製作者の想いと、商業的視点からの考察〜』(私家版、2019年)p. 15

※URLは2020年1月9日にリンクを確認済み