2045年に到達するとされるシンギュラリティまで25年。テクノロジーの進化は今後、私たちにどのような変化をもたらすのだろうか? 森美術館で2019年11月19日(火)から2020年3月29日(日)にかけて開催されている「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」は、その問いの答えにつながるさまざまな事例や試みを、「都市」「建築」「ライフスタイル」「身体」「社会」の5つの観点で分類、展示する。メディアアート作品のみならず、建築やプロダクトデザイン、バイオアート、映画やマンガなど多様な作品やプロジェクトが並ぶ、多分野横断型の展覧会である。なお、展覧会タイトルはIBMが開発したAI(人工知能)「IBM Watson」によって生成された15,000を超える候補から選ばれている。

「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」メインビジュアル

光合成する都市、海上の高層マンション

展覧会は、近未来の都市構想や建築を紹介するセクションから始まる。砂漠や海上、空中など、これまで人が住める場所ではなかったエリアに及ぶさまざまな都市計画を、模型や3DCGで描かれたパネル、映像展示などで紹介する。建物全体が光合成をするタワーを内包する都市《2050 パリ・スマートシティ》(2014〜2015年、ヴァンサン・カレボー・アルシテクチュール)や、海に浮かぶユニット型の高層都市《ポッド・オフグリッド》(2016年、ポメロイ・スタジオ)など、1960年代のメタボリズムを思わせるその計画の多くは、絵空事のようでもある。しかし、それらが不思議と現実味を帯びて受け入れられることで、鑑賞者はテクノロジーの進化を実感する。

《ポッド・オフグリッド》(2016年、ポメロイ・スタジオ)

呼吸する住居、食べられるゴキブリ

続くセクションでは、ライフスタイルの変化やデザイン分野への影響を取り上げる。3Dプリンターなどのデジタルファブリケーション技術を用いてつくられた衣服《2016-17秋冬 クチュールコレクション『UNKNOWN』》ほか(2016年、中里唯馬)や、住居にさまざまなセンサーを組み込み、周囲の環境や住人の状況で内部の照明が刻々と変化する《Archiphilia−建築に生命が宿る−》(2019年、Archiphiliaプロジェクト・チーム〈竹中工務店〉)など、すでに現実となっている身近なものの変化が提示される。また、食べられるゴキブリをつくるためのDIY合成生物学キットの架空広告《ポップ・ローチ》(2015年、長谷川愛)は、バイオアーティストによる食糧不足を解決するためのアイディアである。過酷な環境下でも生きられるゴキブリの食料資源としての大きな可能性を提示することで、逆説的に、「それを食べることができるのか?」と、鑑賞者に疑問を投げかける。

《ポップ・ローチ》(2015年、長谷川愛)

乙武さんの脚、ゴッホの耳

展覧会の後半は「身体」に焦点をあてる。《OTOTAKE PROJECT》(2018年〜、遠藤謙)は、ソニーコンピュータサイエンス研究所研究員チームによる、先天性四肢欠損の乙武洋匡氏が二足歩行することを支援する義足開発のプロジェクトだ。このように、テクノロジーによって身体機能の拡張を可能にするプロジェクトが紹介される一方で、バイオテクノロジーによって再現されたのは、子孫のDNAを用いてつくられたという、フィンセント・ファン・ゴッホが切り落とした左耳《シュガーベイブ》(2014年〜、ディムート・シュトレーベ)である。
本展覧会において、バイオテクノロジーを用いた作品は多数あるが、そのうちの《シュガーベイブ》を含めた数点は、会場内に設けられた実験室「バイオ・アトリエ」に集められている。暗い空間に青白い照明で浮かび上がる作品群は、さながらマッドサイエンティストの手による禁忌を犯す実験のように、怪しい雰囲気に包まれている。

《シュガーベイブ》(2014年〜、ディムート・シュトレーベ)
実験室「バイオ・アトリエ」の様子

3人の親を持つ子ども、ロボットに看取られて死ぬ未来

最後のセクションでは、「変容する社会と人間」と題し、3人以上の親の遺伝子を引き継ぐ子どもを産むことが技術的、法律的に可能になった場合()に起こる、家族の定義や子育てのあり方の変化を検証した思考実験《シェアード・ベイビー》(2011、2019年、長谷川愛)や、孤独な末期患者が息をひきとるまで患者の腕を優しくさすり続けるアームロボット《末期医療ロボット》(2018年、ダン・K・チェン)を展示。複雑化した現代社会において、技術革新がもたらす可能性の裏に、拭えない不安や妄想がつきまとうことを暗示する。
《スーパーデットハンターボットの裁判》(2016年、ヘレン・ノウルズ)もまた、起こり得ることに対する不安が可視化された作品だ。近い将来、自己学習を重ねたアルゴリズムが死者を出すような重大な過失をおかした場合、その責任の所在はどこにあり、どのように立証できるのか。陪審員裁判の様子を描いた映像を通して、鑑賞者に考えさせる。

《シェアード・ベイビー》(2011、2019年、長谷川愛)さまざまな未来の類縁を示すマップ
《シェアード・ベイビー》思考実験として、擬似的に3人以上の親役、その子ども役になりきり、各々の考えを話しコミュニケーションをとる様子
《末期医療ロボット》(2018年、ダン・K・チェン)

テクノロジーの革新がもたらす可能性、その陰に潜む不安を共有する想像力

未来の都市構想における、テクノロジーの可能性がポジティブに示唆された前半のセクションから、会場を進み、「ライフスタイル」、「身体」など、より身近で直接的な事柄に関連する後半のセクションに近づくにつれ、増えていくのはその可能性への希望ではなく、不安や妄想だ。法の整備や倫理的課題の検討が追いつかないなか、技術は容赦なく発達していく。一見行き過ぎた妄想の賜物のようにも見える作品群は、広がり続ける可能性に対し、「たら」「れば」と想像力豊かに妄想すること、そしてそれを共有し議論することの重要性を訴える。


(脚注)
治療においてはすでにイギリスなどで認められている。


(information)
未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか
会期:2019年11月19日(火)〜2020年3月29日(日)
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
入場料:一般1800円/学生(高校・大学生)1200円/子供(4歳〜中学生)600円/シニア(65歳以上)1500円
主催:森美術館、NHK
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/future_art/index.html

※URLは2020年2月19日にリンクを確認済み