新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、世界的に文化施設も閉鎖を余儀なくされている昨今。メディアアートの分野においてもその影響は無論大きく、筆者自身も、3月以降、展示空間をまるごと味わうようなインスタレーション作品や、参加型のインタラクティブアートなどにはすっかりご無沙汰となってしまっている。そんななか、世界各国の機関が協同し企画され、インターネット上で開催された展覧会がある。「We=Link: Ten Easy Pieces」(中国語では「We=Link: 十个小品」)と題された本展は、そもそもインターネット上にのみ存在するインターネットアート作品を集めた展覧会である。

「We=Link: Ten Easy Pieces」展覧会トップページ

各国の専門機関により共同開催された展覧会

本展は、メディアアートを専門とする上海の非営利芸術団体Chronus Art Centerが主催し、ほか各国の同様のインターネットアートを含むメディアアートを専門とする計12機関による共同開催のかたちをとる。まさに、昨今の新型コロナウイルスの流行を受け企画されており、公募を経て選出された10組の作家による作品が、インターネット接続が可能であれば、鑑賞者各々の環境下でダイレクトに体験可能だ。

主催のChronus Art Centerは、2013年に中国国内で初めて設立された、メディアアートを専門とする機関である。その活動は展覧会、レジデンス、レクチャー、ワークショップなどのイベント開催から、アーカイブ、出版事業など多岐にわたる。2015年にはヴェネツィア・ビエンナーレの中国パビリオンにおけるオンラインプロジェクトを手がけたほか、これまでも、各国の専門機関との共同開催というかたちで、メディアアートに関するさまざまな展覧会、トーク、レクチャー、セミナーなどを開催している。

また、共同開催のRhizome(2003年よりThe New Museumに所属)やe-flux、Leonardo/ISASTはアメリカにおいて、メディアアートの定義や普及に重要な役割を果たしてきた面々であり、そのような実績の高い機関から、主催をはじめとする近年新たに設立された機関まで、多様な顔ぶれによる協力体制のもと行われた展覧会であることも興味深い。

展覧会の入り口へのリンクは、主催団体のウェブサイトをはじめ、共同開催団体・施設のウェブサイトなど、さまざまなウェブページに貼られている。美術館などでの展覧会さながら、企画概要やあいさつ文が掲載されたトップページを経て、各作品の解説、作品ページへのリンクと続く。インターネットという環境下では当然のように受容してしまうことだが、各作品ページは展覧会トップページと同URLの下層に位置するわけではなく、作家のウェブサイトや作品単独の特設ページなどに飛ぶことになっている。作家各々が準備したページを、リンクというかたちでネットワークでつなぐことで、あたかもひとところに作品が集まったかのように見せられる合理性には改めて感心してしまう。

共同開催の各機関のウェブサイト上に設けられた展覧会への入り口。上からArts at CERN(スイス)、Rhizome of The New Museum(アメリカ)、V2_Lab for the Unstable Media(オランダ)

ロックダウンの日から毎日続けられた作品の更新

いくつかの作品を取りあげてみたい。ラファエル・バスティード(Raphaël Bastide)は《evasive.tech(禁避. 技术)》と題し、展覧会期間中も作家によって更新される、日記のようなルーティンワークを展開した。日付に紐づいた作品の一つひとつは、わずかな要素によって構成された夢の一場面のようである。また、シュルレアリスムを思わせるその場面を補足する詩的なテキストも添えられている(ただし、テキストはメニューウィンドウのチェックボックスからチェックを外すことで、非表示にすることも可能)。今の世界、また作家自身が置かれた先の見えない状況をそのままアウトプットしたような不安感漂う本作は、その更新を2020年3月17日からスタートし、以後毎日更新されていた。3月17日は、作家の住むフランス全土でロックダウン(都市封鎖)が開始された日である。

ラファエル・バスティード《evasive.tech》の導入部。3月17日から毎日更新されていたことがわかる

リ・ウェイイ(李维伊)による《The Ongoing Moment(此刻)》は、ここ数カ月の間に急速に一般化したオンラインビデオ通話でも活用されている「フィルター」をモチーフにした作品だ。回答選択型のいくつかの質問に答えると、その組み合わせにより鑑賞者自身の「その時の気分」が選定され、それに見合ったフィルターがカメラに映った鑑賞者の顔周辺に施されるインタラクティブな作品だ。短いスパンで刻々と変化するインターネット上の流行をテーマにした本作。選択式の問いを経て、あらかじめ用意された答えのなかから適したものが選ばれ提示されるスタイルは、SNS上で瞬間的に流行っては消えていく性格診断や占いも想起させる。

リ・ウェイイ《The Ongoing Moment》。質問に答えることでフィルターが得られるが、そのイメージは謎めいている

作品越しに、さまざまな人々の今に想いを馳せる

ヘルムート・シュミット(Helmut Smits)の《Screen Time(屏幕时间)》は、見知らぬ鑑賞者たちでつくりあげる作品だ。サイトには時間(分数)ごとに、スマートフォンのロック画面のスクリーンショットが並ぶ。鑑賞者は、自身の同様の画面をアップロードすることでその時計制作に瞬時に参加することができ、作品は鑑賞者の介入により随時更新されていく。

今回の感染症対策として世界中に響くことになった「ロックダウン」というワードとも共鳴する本作。ロック画面は、その本来の機能としては個人情報を守るためのガード役だが、1日に何度も見るその画面には、所有者にとって愛着のあるものや人物、癒される情景など、親しみを感じられる画像が配置されていることが多いのではないだろうか。1分ごとに切り替わるロック画面に、見知らぬ誰かにとっての親密な存在を感じ、想いを馳せる。

ヘルムート・シュミット《Screen Time》。鑑賞者は時間と分数をセレクトし、自身のスマートフォンのロック画面を登録できる

コロナ禍を経て変化する作品鑑賞のスタイル

インターネットアートを含む、メディアアートを専門とする各国の機関によって企画された本展は、専門機関による連携ということもあり、コロナ禍にあえぐ世界の状況を鑑みたうえで、非常に迅速に実施されたプロジェクトである。10点の作品はいずれも、そのどこかしらにウイルスと対峙し続ける今の世界を感じさせながらも、より普遍的な問題提起や小さな楽しみも含まれている。

多様な芸術作品が存在するなかでも、そもそも作品の存在自体がインターネットというネットワーク上にしかないインターネットアートは、世界中で人々が外出を制限することを余儀なくされている今、自宅にいながらにして作品そのものを見ることのできる数少ない表現のひとつであろう。本展がこの時期に合わせ開催された理由は紛れもなくそこにあり、複数の国の機関が設けた入り口からさまざまな国の人々が展覧会を楽しむことができるというあり方は、この状況下で模索された意義ある試みと言えよう。

引き続き、世界各国の文化施設の創意工夫により、オンラインでの作品鑑賞はさまざまに模索されており、そこにメディア・テクノロジーが関与しているのは言うまでもない。コロナ禍を経て、作品鑑賞のスタイルはどのように拡張されていくだろうか。動向を見守りたい。


(information)
We=Link: Ten Easy Pieces
会期:2020年3月30日(月)〜4月30日(木)※会期終了後も展覧会ページは存続
会場:http://we-link.chronusartcenter.org
参加作家:Raphaël Bastide、Tega Brain & Sam Lavigne、JODI、LI Weiyi、Evan Roth、Slime Engine、Helmut Smits、XU Wenkai (aka aaajiao)、Yangachi and YE Funa
主催:Chronus Art Center(中国)
共同開催:Art Center Nabi(韓国)、Rhizome of The New Museum(アメリカ)、Arts at CERN(スイス)、e-flux(アメリカ)、HeK(House of Electronic Arts Base、スイス)、iMAL(Interactive Media Art Laboratory、ベルギー)、LABORATORIA Art & Science Foundation(ロシア)、Leonardo/ISAST(Leonardo/The International Society for the Arts, Sciences and Technology、アメリカ)、MU Hybrid Art House(オランダ)、SETI AIR/SETI Institute(SETI Institute Artist in Residence/SETI Institute、アメリカ)、V2_Lab for the Unstable Media(オランダ)
入場料:無料

※URLは2020年6月27日にリンクを確認済み