9月23日(木)から10月3日(日)にかけて「第24回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」が開催され、会期中にはトークセッションなどの関連イベントが行われた。9月23日(木・祝)、10月9日(土)には、京都府京都文化博物館学芸員の植田憲司氏が行うワークショップ「文化庁メディア芸術祭受賞作品展をキュレーションしてみよう」が開催。本稿ではこのワークショップの様子をレポートする。

参加者オリジナルのメディア芸術祭をキュレーションし、ウェブ上に「みどころキューブ」としてアウトプットする

仮想空間に配置した要素の関係性を
さまざまに可視化する「みどころキューブ」

参加者が展覧会を構築するために用いたシステム「みどころキューブ」は、文化財・芸術作品などさまざまなコレクションに関する画像や文字情報を、仮想空間上のキューブ(立方体)状のインタフェースに配置し、全体のテーマ設定や分類、個々の関係性など、鑑賞における観点となる多様な観点を設定・可視化できるインタラクティブな鑑賞システムである。ひとつのテーマのなかに、さらに細分化した小テーマを設け作品を分類することで、鑑賞者が作品に対して興味・関心を抱く入り口となるほか、個々の作品同士に共通のワードでリンクを貼ることなどもできる。鑑賞者はキューブを回転したり、キューブの内側に入って見回したり、個々の作品をクローズアップして表示したりと、多様な視点で鑑賞可能だ。これまで利用者は、あらかじめつくられたキューブを鑑賞するのみだったが、今回のワークショップで初めて、参加者がつくり手側に回ることとなった。

第1回:受賞作品展をめぐりながら、キュレーターの思考回路を知る

2回にわたり実施された本ワークショップ。受賞作品展会期中に行われた1回目では、まずは講師の植田憲司氏のナビゲートのもと、第24回メディア芸術祭受賞作品展をツアー。実際の出展作品を例に、各作品が持つテーマやコンセプト、時代背景など、作品ひとつをとっても実にさまざまなキーワードが引き出せることや、引き出したキーワードから作品同士に共通点を見つけていくコツについて、植田氏独自の観点で、豊富な具体案が例示され、熱心にメモを取る参加者の姿が見られた。自由時間を挟みワークショップ会場に戻った後は、引き続き、作品から引き出したキーワードを基に、展覧会のテーマをさらに深めていく方法について、植田氏が以前担当した文化庁メディア芸術祭京都展「科学者の見つけた詩-世界を見つめる目-」を例に紹介。キュレーションの醍醐味とも言える部分を追体験するような興味深いレクチャーは、それだけでも参加の価値があったのではないだろうか。

まずは受賞作品展をツアー。作品からキーワードを引き出すコツを知る
撮影:櫛引典久
ツアーをしながら、熱心にメモを取る参加者
撮影:櫛引典久

こうして、多様な具体例を基にキュレーションの思考やプロセスを知った参加者は、いよいよ、自身の展覧会をキュレーションし、「みどころキューブ」に構築する作業に入る。1回目の後半で「みどころキューブ」を構築するための情報入力の方法について、キューブの開発者であるDNPの担当者から解説を受け、実作業は持ち帰り、自主ワークとして取り組むこととなった。

DNP担当者から、「みどころキューブ」のつくり方についてレクチャーを受け、1回目のワークショップは終了
撮影:櫛引典久

自主ワーク:キュレーションの意図を「みどころキューブ」で可視化する

1回目の植田氏によるレクチャーを受け、参加者はそれぞれ、第21回から第24回までの受賞作品から30作品をセレクトし、独自のテーマ設定のもと、「みどころキューブ」上で展覧会をキュレーション。とはいえ、自主ワーク中は、参加者自身が「みどころキューブ」を見ながら作業ができるわけではない。作品のセレクトはもとより、それらをどのようにキューブ内に配置するか、配置した作品をどういったテーマで分類するのかなど、全て情報入力用のフォームにテキスト入力し、メールで提出すると、それが「みどころキューブ」化され、ブラウザ上で鑑賞可能となる仕組みだ。自分がテキストとして入力した情報が、どのようにキューブとして可視化されるか、見てみてはじめてわかることや気づくこともある。そのため、参加者には提出のタイミングが2度設けられた。

第2回:仮想空間に立ち上がった展覧会の見どころをプレゼンテーション

オンラインで実施された2回目では、参加者が制作した「みどころキューブ」の鑑賞とプレゼンテーション、植田氏による講評が行われた。まずは参加者各々が、自分自身のキューブをチェックしたり、他の参加者のキューブを鑑賞したり(各キューブにはそれぞれURLが割り当てられ、各々で自由に鑑賞可能)して準備を整え、いよいよプレゼンテーション。キュレーションの意図や見どころについて各自10分程度で解説した。ある参加者は、ユニークなタイトルで鑑賞者を引き込み、各作品に大ボリュームの解説を執筆。そのほか、視覚的に美しく作品を配置し、ITをテーマに技術面で作品を分類したり、受賞時の作家の年齢やその分布を可視化し、同世代の作家同士を繋いだりと、同じ受賞作品展を基にしながらも、みごとに全員が異なる視点・手法で「みどころキューブ」を構築した。本来であれば何かしらの値を入力するためにある縦軸を用いて、詩を紡いだ参加者もおり、その想定外の仕上がりには、植田氏や、DNPの担当者からも驚きの声が上がった。

2回目はオンラインで開催。キューブを見ながらプレゼンテーションと講評会が行われた
参加者それぞれ、オリジナリティあふれるキューブが完成した

(information)
第24回文化庁メディア芸術祭 ワークショップ
文化庁メディア芸術祭受賞作品展をキュレーションしてみよう
日時:2021年9月23日(木・祝)、10月9日(土)13:30~16:00 
会場:日本科学未来館7F コンファレンスルーム土星(9月23日)、オンライン(10月9日)
講師:植田憲司(京都府京都文化博物館学芸員)
定員:10名
対象:展覧会のキュレーションや組み立てに興味がある方(目安:15歳以上)
主催:第24回文化庁メディア芸術祭実行委員会
https://j-mediaarts.jp/

※URLは2021年10月27日にリンクを確認済み