boris.jpg

 ドイツの美術批評家ボリス・グロイス(Boris Groys, 1947- )の来日記念講演イベント「アートに力(パワー)は内在するか」が、2017年1月、東京と大阪にておこなわれる。グロイスは、旧東ドイツ出身の美術批評家で、「冷戦時代のソビエト連邦で学び、70年代後半にモスクワ・コンセプチュアリズムに関する論考で批評家としての活動を開始。戦後ロシア・東欧の前衛芸術をはじめ、コンテンポラリー・アートの動向を哲学的な視点から論じ、その世界に大きな影響を与えている」(公式ホームページより)。2011年ヴェネチア・ビエンナーレにてロシア館キュレーター、2012年上海ビエンナーレにて共同キュレーターを務めるなど、著述に限らず展示・制作の現場においても活躍している。現在はアメリカのニューヨーク大学ロシア・スラヴ学グローバル特別教授、ドイツのカールスルーエ造形大学特別研究員である。主な著書に、Ilya Kabakov: The Man Who Flew into Space from His Apartment (2006, The MIT Press)、Art Power (2008, The MIT Press)がある。邦訳されているものとして、『全体芸術様式スターリン』(亀山郁夫、古賀義顕訳、現代企画室、2000年)がある他、数本の論文が訳されている。

 来日記念講演シリーズとして、それぞれに性格の異なる三つのイベントが予定されている。ひとつ目は2017年1月15日に国立国際美術館(大阪府)にておこなわれる、パネルトーク「アートと共同性」である。ART iT編集長アンドリュー・マークルを司会に、現代美術家の田中功起、モダニズムとファシズム政権下の芸術を研究する石田圭子がゲストとして参加する。アートと市場との関係性を考察してきたグロイスとともに、日本における現代美術の可能性が問われるイベントとなる。

 ふたつ目は、1月20日に東京大学駒場キャンパス(東京都)にておこなわれる、学術シンポジウム「アート・パワーについて」である。このイベントでは、グロイスの基調講演を受け、それに対して日本の研究者がそれぞれの領野から応答する。応答者は、日米の近現代美術史を専門とする加治屋健司、ロシアの哲学・文学を専門とする乗松亨平、崇高論をはじめとする美学を専門とする星野太の三名である。『アート・パワー』を中心とするグロイスの思想が、日本の現代美術の状況と接続され、検証されることとなる。

 三つ目は、1月21日に東京国立近代美術館(東京都)にておこなわれる、浅田彰との対談「ポスト・ミュージアム時代?――メディアの変容はアート界をどのように変えるのか」である。ニュー・アカデミズムの旗手としていまなお強い影響力をもつ浅田彰。グロイスと浅田には、80年代以降の文化・社会状況のなかでともに仕事をおこなってきたという共通点がある。この対談では、メディア環境や美術作品の媒体の変化がわたしたちにどのような影響をおよぼすのかが語られる。なお、すでに三つのイベントの観覧は募集を締め切っており、現在はキャンセル待ちの予約のみとなっている。

 また、「ボリス・グロイスの特別授業」と題して、あわせて若手アーティスト、キュレーターへのレクチャーも開催される。今回のグロイス日本招聘プロジェクトは、2008年の論集『アート・パワー』の邦訳刊行にあわせておこなわれるものである。『アート・パワー』(石田圭子、齋木克裕、三本松倫代、角尾宣信訳)は2017年1月、現代企画室より発売予定。

(敬称略)