他の産業がそうであるように、ゲーム産業もまた産学連携ですれ違いが続いている。中でも基礎技術の研究開発における乖離は深刻で、理工系学部における数少ない研究事例も、産業側からニーズが乏しいと袖にされる例が多い。一方でゲーム開発技術の高度化と共に、もはや個々の会社が独自に研究開発を行えるレベルではなくなってきた。その結果、ゲームエンジンやミドルウェアなどをはじめ、アプリケーション開発以外の技術は、多くが外国産というのが現状だ。

もっとも、この背景には長く産業側が学術側に対して、しっかりとしたニーズを打ち出せていなかったことも大きい。こうした問題意識から誕生したのが、業界団体のCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)が提示するゲーム開発技術ロードマップだ。これはゲーム開発にかかわる様々な技術の最新動向と、近い将来に活用される可能性のある内容を紹介するもの。ゲーム開発者・関連する業界関係者・研究者は活動指針を参照することで、よりニーズに即した研究活動が行えるようになる。

ロードマップはCESA技術委員会とCEDEC(コンピューターエンターテイメントデベロッパーズカンファレンス)アドバイザリーボードが協議して作成するもので、2009年に初めて公開され、以後毎年1回改訂が行われている。エンジニアリング、ビジュアルアーツ、ゲームデザイン、サウンド、ネットワーク分野に分かれており、特に2013年度はエンジニアリング分野で「先端技術実用化」「プログラミング教育」「ゲーム開発者教育」領域が加わった。

先端技術実用化領域では3Dプリンタをはじめ、入出力のデバイスが広がり、ゲーム体験が多様化している現状を踏まえて、数年後にはネットワーク上で相互接続され、コンピュータエンターテインメントが爆発的な多様化を迎えると予測。デバイスの小型軽量化、メガネとモーションセンサーやスキャナー類の統合など、多様な統廃合が新たな用途を生み出すとも補足している。

プログラミング教育では2013年6月に「世界最先端IT国家創造宣言」が閣議決定され、平成24年度の中学校の新学習指導要領でプログラミングが必修となった一方で、様々なビジュアルプログラミング言語とコンテンツが各プラットフォーム上で分断化されている現状を指摘。これが数年後にはキーボードに接続可能なタブレットデバイスと開発ソフトウェアが義務教育段階の各児童に配布され、プログラミング教育の統一的な環境が整備されると予測しつつも、指導教員不足に陥る懸念を指摘した。

ゲーム開発者教育では専門学校の職業訓練機関としての成果を記した一方で、大学や研究機関における学問としてのゲーム研究の遅れや認知を指摘。ただし数年後にはプログラミング人口の増加やイベント・コミュニティ活動の活性化と共に、新しい世代が産業の垣根を越えて活躍し、コンピュータエンターテインメントがボーダレスになるという見解を盛り込んだ。

これ以外にもロードマップには最先端のゲーム開発者が議論して整理された、様々な指針が盛り込まれており、企業の研究開発部門や学術機関では一読の価値があるだろう。もっとも指針は確固たる裏付けに基づいたものではなく、いわば産業界側から学術界などへの「技術のラブコール」という性格が強い。特に教育分野などについては、産官学をあげた取り組みが必要になるのは明らかだろう。いわば議論の呼び水としての指針公開なのだ。

そのため官学の側にも、こうした指針が産業側から提示されている事実に、まずは着目する姿勢が必要だ。また本ロードマップが開発者に周知徹底されているとは言いがたいのも事実。産業側には継続的な啓蒙活動と、ロードマップに即したセミナーやイベントなどの開催を期待したい。

CESAゲーム開発技術ロードマップ2013

http://cedec.cesa.or.jp/2013/roadmap/