昨年末に開館10周年を迎えた京都国際マンガミュージアムが、新たな10年の開幕に向けて意欲的な試みを行っている。「現在のマンガ展の中身に目を向けると、その多くが『マンガファンのためのマンガ展覧会』になっていることも否定できません」と、マンガミュージアムみずからが問題提起した「誰のためのマンガ展?」である。旧来のマンガ展の在り方を問いかけ、「マンガに対して無関心な人やこれまでマンガに触れていなかった人、あるいはマンガを文化として見ていなかった人が、マンガの楽しみを知るよう」な展覧会を模索したこの企画展を、その対象外であるはずのマンガファンや、マンガ研究者にとっても見るべき価値のあるものとして紹介したい。
会場はギャラリー・スペース一つ分の広さに過ぎないものの、「学習マンガ」、「諷刺マンガ」、「萌え美少女イラスト」の三つに分けられたコーナーはそれぞれ工夫が凝らされ、「正しく読む」と題されたパネル展示を中心に要領よくアプローチがまとめられている。
まず「学習マンガ」のコーナーでは、「情報やメッセージをわかりやすく伝えるための教育のツール」という視点からマンガというメディアが捉え直され、近年のマンガに顕著な「擬人化」の技法と学習マンガとの深い関わりを指摘。そこから「空気」と「二酸化炭素」と「メタン」をイケメンに擬人化したオリジナルキャラクター掲載のプリントが配布され、来場者がそこに三人の関係性を思い思いに描き込めるという、創意に満ちた展示へと導かれる。このコーナーではそうして描き込まれたプリントが貼りだされたパネルも併設され、「諷刺マンガ」のコーナーでも100年前の諷刺画を来場者自身が再現するコスプレのスペースが用意されているなど、参加し、体験することでマンガを楽しんでもらおうという主催者の熱意がこれらの仕掛けにあふれている。
また視覚障害者のために「学習マンガを触覚で読む」仕掛けの数々が展示されていたり、「萌え美少女イラスト」のコーナーでは、町おこし・村おこしのために美少女キャラをあしらった特産物が菓子からお酒に至るまで並べられていたりと、マンガというメディアの意外なまでの裾野の広がりに目を奪われてしまう。ほかにも「萌え美少女イラストを『正しく』読む」と題されたパネルでは、オタクの趣味として一般からは敬遠されがちな「美少女」と「ミリタリー」を知的遊戯と解説してみせるなど、マンガ研究の拠点であるミュージアムだからこそ企画できる"開かれたマンガ展"の雛形が会場いっぱいに提示されている。
その内容の濃さは「学習マンガ」、「諷刺マンガ」、「萌え美少女イラスト」のどのコーナーをとっても、それぞれ別個の企画展を組めるほどの潜在性を秘めているといってもいいほどで、コンパクトでありながらユニークなコンテンツによって、大規模な企画展に匹敵する内容を堪能することができるだろう。2月7日まで開催されているので「マンガに対して無関心な人」ばかりでなく、マンガに深い関心を持つ人にもぜひ足を運んでほしい好企画である。