●実施報告
本事業は、国内外のゲーム研究の状況を整理し、それを通じて今後の国内のゲーム研究の活性化を目指すことを目的としてスタートしました。
ゲーム研究(game studies)は、ビデオゲームを中心としたゲームやそれをプレイする経験、およびそれを取り巻く文化や産業を対象とする学際的な研究分野です。国際的に見れば、ゲーム研究は、北欧と北米の研究者を中心として2000年前後に制度・実質ともに明確なかたちで成立し、その後も発展を続けています。国内においては、1990年代からビデオゲームのプレイ経験やビデオゲーム産業などを対象にした学術研究が断片的にあったものの、現状では海外と比べていまだ後進的であり、いくつかの課題を抱えています。
第一に、ゲーム研究内の分野間・アプローチ間のつながり・相互理解が必ずしも十分ではないという点です。日本のゲーム研究は、もともと異なる分野において異なるアプローチのもとで研究されていながら対象がゲームであるという共通点でまとまったという側面があり、実践指向のゲームデザインと記述や分析を主とする経験的研究は、それぞれ動機の点で異なる面がありました。第二に、国内のゲーム研究は、国外の研究動向から相対的に分離しており、個々の研究で海外の研究が参照されることはあるものの、サーベイや翻訳といったかたちで最新の国外研究のまとまった紹介が十分になされてきませんでした。そして、第三に、その帰結として、少なくとも国内の文献を読むだけではゲーム研究への入門が困難であるという状況が生まれています。ゲーム研究にはどういった論点やアプローチがあるのか、なにを読めばそれがわかるのか、といったことについての十分な情報があるとは言えないのが現状です。
本事業の目的は、国内外のゲーム研究の動向をおおよそ把握するための見取り図を作ることで、ゲームに関するなんらかの研究を進めようとする人々にわかりやすい指針を示すことにあります。国内外のゲーム研究の重要文献をピックアップした文献リストを作成したうえで、それらをいくつかの観点から分類・タグづけし、ゲーム研究の現状を体系的に整理することを目指しました。この見取り図によって、分野間の相互理解が生まれるとともに、国外研究へのアクセスがしやすくなり、結果として他分野の研究者や初学者がゲーム研究に参入しやすくなることを意図しています。
文献の選定にあたっては、対象範囲として(a)国際性および(b)学際性に配慮しながら、文献の重要度の指標としては、(c)古典性と(d)発展性という観点を採用しました。その結果、初年度の成果として選出されたマッピングのコンテンツは以下の174文献となりました。
書籍 | 80 |
---|---|
論文 | 6 |
博士論文 | 1 |
ウェブ文献 | 2 |
合計 | 89 |
書籍 | 70 |
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博士論文 | 14 |
ウェブ文献 | 1 |
合計 | 85 |
この研究成果については、学会等の発表において貴重なフィードバックを得ることができましたので、現時点においても検討すべきいくつかの課題が明らかになっています。例えば、文献リストだけでは個々の文献の内容や位置づけ、文献間のつながり、どのような研究の動向・領域があるのか、といったことがほとんどわからないので不十分ではないか、また、十分な「地図」として機能するためには、たんなるリストだけでなく、文章による記述や、分類・タグなどのメタデータで情報を補足したり関連づけたりする必要があるのではないか、という点です。
さらに、①実証的研究は書籍よりも論文レベルで議論が進むことが一般的なので、書籍中心のリストでは不十分ではないかという点、②古典性と発展性を選定基準に据えると、いまのところ参照元にも参照先にもなっていない文献が見過ごされるのではないか、③現時点での海外文献のリストが明らかに人文社会学系に偏っており、学際的とは言えないのではないか、などもあわせて検討する必要があると考えています。
今年度は、以上のような検討すべきポイントの考察とあわせて、ピックアップした文献を体系的に整理するための枠組み、例えば分類項目やタグの定義を進めていくこと、現段階でゲーム研究の主要な発表媒体になっているジャーナルのリストを作成すること、そしてマッピングされる選定基準と選定過程の一層の明確化などを進めていくことなどを今後の展望として整理しました。
平成27年度の報告書は以下のリンクよりご覧いただけます。
実施体制 ※肩書きは平成28年3月時点のものです。
- 監修
- 細井 浩一(立命館大学ゲーム研究センター 教授)
- 調査(リスト作成)
- 松永 伸司(立命館大学ゲーム研究センター 客員研究員)
井上 明人(立命館大学ゲーム研究センター 客員研究員)
福田 一史(立命館グローバル・イノベーション研究機構 専門研究員)