●「メディア芸術千夜一夜」
日本アニメーター・演出協会(JAniCA)
日本アニメーター・演出協会(JAniCA)が広く関わるクリエイターと関連団体の協力により、アニメ・マンガ・ゲームの熱心なファンだけでなく、"広義の意味でのファン"に向けてジャンルを跨いだイベントや上映会を行うことを目的とする。表層的には"楽しいイベント"を出発点としながら、アニメ・マンガ・ゲームの隣接ジャンルの楽しみ方や、プロフェッショナルの真髄(職業倫理や技術的要求の高さ)を身近に感じてもらう機会を提供する事業であり、イベントや上映会を通して、エンターテインメント分野のクリエイターや研究職に対する興味・関心を促したいとのこと。
●中間報告会レポート
この事業について報告するにあたり、一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA)事務局長の大坪英之氏は、「メディア芸術千夜一夜」は今までの実績を元に、"広義の意味でのファン"に向けて開くアニメ・マンガ・ゲームのイベントであるという。8月のトークショーは「京都精華大学、日本動画協会、アニメミライの各位の御協力で開催しましたが、メディアを横断する形で特定の作品や作家さんに依拠せずに実施しましたので、対象となる来場者や視聴者の層が非常に不明瞭であることがやってみてわかりました。それから使用できる映像素材等に関しても、やはり大規模なところで実施したので、各種の手続きに非常に手間が掛かりました」とのことだったが、作画監督として有名な黄瀬和哉氏や、日本を代表する作品を多く手がけている渡辺歩監督などが登壇し、来場者の満足度は高かった。さらに「実施場所の調達、登壇するゲストのスケジュール調整が非常に難しかった」という問題点を残しつつも、日本アニメーター・演出協会はハードルを乗り越えたことになる。
それ以前にも2011年〜2014年に「アニメミライ」と併催したトークショーにおいては、若手ながら海外での名声が高い吉浦康裕監督などを始めとするアニメのスタッフやプロデューサーをゲストとして招き、日本アニメーター・演出協会はイベント開催の経験を重ねてきたという。
そしてこれらの実績を踏まえ、次のスケジュールとして2016年1月に「メディア芸術千夜一夜」を実施する予定とのことで、現在その準備を進めているという。
報告を終えた後に企画委員との間で、以下のような質疑応答が交された。
1) こういう一般に向けたイベントをやる場合は、中身はともかくとしてプロモーションとか、人を集めるための作業が壁になる。そのあたりについてどういう工夫をしているのか?
A:日本アニメーター・演出協会はファンの方も含めて1200名程度の会員がいるので、そちらに媒体を使ってイベントの案内を行う。会員にはアニメのファンの中でも動ける方、仕事をしている方が多いので、そういう方に協力をお願いできるところが大きい。
2) 東京だけで行われるイベントは地方なり世界の方々に楽しんでもらえないので、ネットによるライブ配信のようなことは考えないのか?
A:記録映像を撮影することになっており、ネット配信も可能であると思われるので、何か検討したいと考えている。
●最終報告会レポート
報告者 一般社団法人日本アニメーター・演出協会 大坪英之氏
本事業の概要として、2016年8月に国立新美術館で開催の「日本のマンガ・アニメ・ゲーム展」開催に合わせて来館する方々を対象として、8月1日、2日、7日、9日、14日、21日に、マンガ・アニメのプロフェッショナルなクリエイターや研究者などに登壇して頂きトークイベントや上映会を行うことで、プロフェッショナルの真髄(職業倫理観の高さや、技術的要求度)などを身近に感じて貰う機会を提供するとともに、クリエイター・エンターテインメント分野の研究についても興味・関心を促すイベントを開催したことが報告された。
事業については来場者の満足度は高かったものの、準備期間の短さから十分な告知ができなかった点、複合分野にまたがる実施のために来場者の方向性を絞りきれなかった点、使用する映像等素材の権利関係の手続きが煩雑な点などの課題が浮き彫りとなったという。
そのため最終的には当初予定していた1月開催ができないなどで万全な結果は得られなかったが、前述の課題を明確化でき、次年度に複合領域での採択がある場合には「可能な限り早期着手」「分野別の専門家による企画運営チーム編成」「各種権利者間との迅速な権利処理」「実施についての柔軟性の向上」が不可欠と考える。このように実験的試みにチャレンジできたことは非常に有意義だったと考えると述べられた。
この事業の目的はJAniCA自身が持つ豊富クリエイターのネットワークと関連団体の協力により、国立新美術館に来場するようなアカデミック分野のファン、夏休み期間中に訪れる低年齢層のファンとその保護者など「広義の意味での『ファン』」に向けて、プロフェッショナルなクリエイターや研究者などが、アニメ・マンガ・ゲームなどの分野をまたいだトークイベントや上映会を行うことで、隣接分野の楽しみ方や、プロフェッショナルの真髄(職業倫理観の高さや、技術的要求度)を身近に感じて貰い、クリエイター・エンターテインメント分野の研究についても興味・関心を促す事。
実施体制では運営は一般社団法人日本アニメーター・演出協会が行い、京都精華大学、一般社団法人日本動画協会、一般社団法人アニメミライに協力して頂いた。
開催スケジュールは8月1日、2日、7日、9日、14日、21日に、上映会とトークショウ・講演を開催した。「昭和30年代のTVCMとアニメーション」ループ上映では、京都精華大学所蔵のTCJの作品を使わせて頂いた。テレビ黎明期に放映された創世記アニメーションとして、後に続く監督らが係わっている。「アニメミライ2011」では業界ではスーパーアニメーターとして知られる黄瀬和哉さん、脚本家の谷村大四郎さんに、「アニメミライ2012」では脚本家の村川康敏さん、谷村さん、プロデユーサーの稲垣亮祐さんに登壇して頂き、「アニメミライ2014」ではドラえもんの渡辺歩監督や若手の吉浦康裕監督らに登壇して頂いた。また「昭和30年代のTVCMとアニメーション」について茨城大学の髙野光平准教授に講演して頂き、「サブカル*オタクのpre1989」では漫画家のすがやみつるさん、石ノ森ファンクラブの青柳誠さんにサブカルの誕生について講演して頂いたと報告された。
アンケート結果では「一歩踏み込んだ見方ができるようになりました」「作る側の視点が良く判りました」など好評であったという。
そして問題点として、8月1日から開始したため、準備期間の猶予が全くなく、スケジュール面では質・量ともに十分な告知ができず、内容の検討不足、運営の準備不足。また1月の開催ができなかったことについては複合分野という特質性も理由にあった。来場者・視聴者の対象層が不明瞭、使用できる映像等素材の権利関係の手続きが煩雑で、実施場所と登壇者のスケジュール調整が難しいことが1月の開催ができなかった理由として挙げられた。
そのため次年度に複合領域での採択がある場合には、1.可能な限り早期着手すること 2.分野別の専門家による企画運営チームを編成 3.各種権利者間との迅速な権利処理を行うこと 4.実施についての柔軟性を向上すること 以上の4点が必要と考えると述べられた。