2012年11月29日、ニューヨーク近代美術館(The Museum of Modern Art, New York、略称MoMA)のブログ「INSIDE / OUT」で同館建築・デザイン部門がビデオ・ゲームのコレクションに着手したことを発表した。
MoMAはコレクションの第一段階として選定した約40タイトルを数年間かけて収集していくと表明し、まずはそのうちの14タイトルが所蔵された。コレクション予定の作品タイトルは、1960年初期から近年までに発表されたアーケード・ゲーム、コンソール・ゲーム、PCゲーム、オンライン・ゲームなどで、時代もプラットホームも多岐にわたる。
ブログによれば、これらのゲームはアートとも考えられると言及しつつ、「インタラクション・デザインにおける傑出した事例」として選定したという。重視する表現形質として、まず、シナリオ、ルール、動機づけ、物語性などによって個人/社会から引き出される動作や振る舞い(感情の動き、教育的側面も含まれる)に関する「ビヘイビア(Behavior)」。次に、美術館に所蔵されるうえでビジュアル的な「美しさ(Aesthetics)」は重要とし、制作当時の技術的限界を乗り越える革新的なビジュアル・デザインに注目する。さらに、ゲームの「空間(Space)」やゲームを体験する「時間(Time)」のデザインも含まれる。このように、選定基準ではビジュアル的品質から、技術的背景、インタラクション・デザインまで様々な側面に及ぶため、必ずしもヒットしたゲームがコレクションされるわけではないようだ。
また、これらのタイトルは約1年半かけて研究者、歴史家を始め、法律やデジタル技術の保護などの専門家らからもアドバイスを受けながら検討された。今後、ビデオ・ゲームの収集と平行して、効果的な展示手法の検討や、同館のデジタル技術保存の専門家チームと恊働でゲーム保存に取り組むようだ。
ビデオ・ゲームのコレクションにあたり、ビデオ・ゲームのソフト(カートリッジやディスクなど)とハードウェアに加えて、プログラムのソース・コードも収集する方針だ。さらに、将来的に想定されるゲームのエミュレーションや研究目的のため、デザイナーやプログラマーへのインタビュー、技術文書やプログラム・コードに関する資料の収集を行う。今回コレクションされたタイトルの一つ「塊魂(英語表記:Katamari Damacy)」(2004年、発売元:ナムコ *現バンダイナムコゲームス、コンソール:プレイステーション2)のゲームデザイナーである高橋慶太氏(1975年−、元バンダイナムコゲームス、現uvula代表)に問い合わせたところ、開発初期のイメージ・スケッチ、企画書、実際に開発で使っていた仕様書などの資料(オリジナルを含む)を提供したという。「一般的には信じられないことかもしれないけど、退職後も僕が塊の開発資料をそのまま持っていて、実家に預かってもらっていました。そういう意味で、MoMAに提供したほうがきちんと保存してくれそうだし、コードを勝手に使って何かするとも思えないので、むしろ資料の収集はよいことだと個人的には考えている」と好意的だ。美術館がビデオ・ゲームを所蔵することによって、産業の立場とは異なる新たな再評価につながる可能性は十分に考えられる。また、ビデオ・ゲームに付随する、ゲーム音楽やキャラクターに関する研究も重要ではないかと考える。
メディアアートが抱える保存の問題(エレクトロニクス機器やデジタルテクノロジーのメンテナンスや変換、オンライン・コンテンツの問題、インタラクションの問題など)は、ビデオ・ゲームのそれと共通する部分が多い。また、メディア・アーティストやCGアーティストがゲーム開発を手がけた事例もある。MoMAは、2003年からTate(英国)、SFMOMA(米国)、Art Trust(米国)らと共同で、メディアアートの収集/保存に関するリサーチ・プロジェクト「Matters in Media Art 」を実施し、ガイドラインをウェブサイトで公開している。メディアアートとゲームの保存に関する研究が相乗効果的に進むことを期待したい。

Video Games: 14 in the collection, for Starters
http://www.moma.org/explore/inside_out/2012/11/29/video-games-14-in-the-collection-for-starters