「サイボーグの想像力は、機械、アイデンティティ、 カテゴリー、関係性、宇宙の物語りといったものの構築と破壊の両方を意味する。スパイラル・ダンスには、女神もサイボーグも加わっているものの、私は女神でなくサイボーグとなりたい。」
It (Cyborg imagery) means both building and destroying machines, identities, categories, relationships, space stories. Though both are bound in the spiral dance, I would rather be a cyborg than a goddess.
──ダナ・ハラウェイ(Donna Haraway)著『猿と女とサイボーグ―自然の再発明(Simians, Cyborgs, and Women: The Reinvention of Nature, Free Assn Books,
1991)』
日本の女性3人のテクノポップグループ、Perfumeのワールド・ツアーがケルン/ロンドン/パリで、それぞれ2013年7月3日/5日/7日に開催された。全会場ともに盛況だったようだが、幸い筆者はケルン公演を見ることができた。また、この1カ月前にフランスで開催された広告賞「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)」で、彼女たちの国際デビューに向けたプロジェクト「Global Site Project」のプレゼンテーションの一環としても公演を行った。
「Global Site Project」のウェブサイトではオリジナル楽曲とMIKIKO先生による振付のモーションキャプチャーのデータを公開するオープンソース・プロジェクトが展開された。加えて、ソーシャル・コーディング・サービス「GitHub(ギットハブ)」上でそれらのデータを活用するためのプラグインやサンプルコードを用意し、一般ユーザーによる二次創作を促した。また、Twitterと連動して3万件のツイートによって3人のポリンゴン・モデルが形成される(1ツイート=1ポリゴン)プロジェクトなども展開され、第17回メディア芸術祭のエンターテイメント部門の大賞を授賞した。本公演では、「Global Site Project」を手がけた真鍋大度氏と石橋素氏がテクニカルを担当し、再帰性反射材を使った衣装にリアルタイムで映像を投影する演出がなされた。
これらのプロジェクトの面白さを理解する上で、バーチャル・アイドル「初音ミク」を媒介したCGM(Consumer Generated Media)の動向を無視できない。初音ミクを開発したクリプトン・フューチャー・メディア社は、初音ミクを「アンドロイド」と説明するが、Perfumeも単なるアイドルやテクノ・ポップシンガーだけでは片付けられない異質な存在になっているのではないか。
映像メディアの変遷とともにアイドルを考察した展覧会「メディア/アイドルミュージアム」(SKIPシティ映像ミュージアム、2012–2013)では、「アイドルこそが時代の先端を写しだす鏡」としたように、Perfumeという他者あるいは異物的な存在が現代に求められる背景を考察する上で、冒頭に引用したダナ・ハラウェイ氏(1944–、米国)による『猿と女とサイボーグ―自然の再発明』の出版以降に展開されている「サイバー・フェミニズム」という学問が有効なのではないか、と考える。
1985年にハラウェイ氏が発表した『サイボーグ宣言』によれば、「サイボーグは、サイバネティックなオーガニズム(有機体)で、機械と生体の複合体(ハイブリッド)であり、社会のリアリティと同時にサイエンス・フィクションを生き抜く生き物である」とし、サイボーグはポストジェンダー社会の生き物であると説明する。ここでの「生き物」は他でもない我々のことである。例えば、ラップトップを開けた瞬間にその人はサイボーグとなる。iPS 細胞やソフトバンク社の白戸家も本学問の研究対象になりうる。Perfumeはそのような「生き物」の突出した現在形、あるいは新しい関係性や物語を創出する演者として現れたのではないだろうか。今後、Perfumeがどのようにサバイブしていくのか楽しみだ。
Perfume World Tour 2nd