plaplaxの展覧会が3箇所で開催されている。plaplaxは、近森基氏、久納鏡子氏、筧康明氏、小原藍氏の4名からなるアート/デザインのプロフェッショナルグループで、インタラクティブアート分野における作品制作を手がけるだけでなく、公共空間、商業スペースやイベント等での空間演出や展示造形、技術開発など、幅広い分野で活躍している。
ポーラ ミュージアム アネックスで開催中の「ハナハナのハナ ‐香りのカタチ‐」(2013年)では、香りをテーマにした8点の作品が展示されている。《hanahanahana 〈typeX〉》(2013年)は、蕾を模した匂いセンサーに香水を吹きかけた紙を近づけると、香りの種類と強さに応じて様々な色と形のアニメーションの花が咲くという作品。香りが広がるにつれ、蝶や鳥も近づいてくる。壁面のスクリーンは半透明で円筒状をしており、空間の内と外から視覚的に香りの拡がりを観ることができる。《kikiki》(2013年)では、壺のような容器の口に香りをかざすと、香りに反応して不思議な音が奏でられる。この展覧会では、嗅覚で体験するだけでなく、香りを視覚(色、形、動き)、聴覚、記憶、情動と結びつけている。複数の感覚を使って、香りや匂いを「カタチ」にしてみようという試みだ。古来日本には香道があり、西欧にも香水の文化が存在するが、香りを扱ったアート作品は数少ない。その理由をここですぐに示すことはできないが、個人個人で香りのイメージは異なること、また、耐久性に乏しいことなどが関係しているだろう。ともかく、芸術はこれまで絵画や彫刻を代表とする視覚芸術を中心に形作られてきたことは事実である。それに対して、インタラクティブアートの先駆者であるplaplaxが香りに関心を持ったという点は興味深い。
SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアムで開催中の「イマジネイチャー 〜石ころの記憶〜」(2013年)では「石ころ」をテーマにした9点の作品が展示されている。タイトルのイマジネイチャーは、image とnatureを組み合わせた造語で、そこには、自然の中の素材を、単に科学的に見るだけでなく、心や記憶に現れるイメージ(心象)を通じて捉えようという意図が込められているという。誰もが子供のころ、石を使って遊んだ記憶があるだろう。川面に投げたり、組み合わせて石組みを作ったり、好きなものを集めてコレクションしたり…。実際、石は人類が手にした初めての道具であるばかりでなく、それを巡る様々な神話や伝説、民話や伝承が世界各地に残されてきた。この展覧会は、そうした想像の世界をさらに一歩拡張してみせる。《イシムシの標本〈リク/ウミ/ソラ〉》(2013年)は、足元に積まれた石の中から好きなものをひとつ選んで引き出しに入れると、その石にユーモラスな名前がつき、虫のような羽根や脚が生えて動き出すというインタラクティブな映像作品。ひとつひとつの石を虫だと思って標本化してみると、ごく普通の石にも愛着が湧いてくる。《メメント石》(2013年)は、山から川を経て海に至る石の旅の様子を、石から聴こえる音として表現した作品。石が丸いのは川の流れによって削られた結果であるが、そのようなゆったりした長い時間を日常生活において感じることは少ないのではないだろうか。《隠れたファンタズム》(2013年)も普段忘れている感覚を思い起こさせてくれる作品だ。床にある石をどかすと、隠れていた生き物たちがサッと現れる。そして、また消えていく。驚きと好奇心、恐怖と畏怖が混ざり合った、不思議な感覚がよみがえる。この展覧会もまた、作者と観客が一緒になって空想の世界を拡げていくための、実験的な遊び場のような印象を受ける。
NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]で開催中の「オープン・スペース2013」(2013年)に展示されている《心象自然研究所》(2013年)は、作品というより、なにかアトリエや書斎、研究室を覗きこんだような感じのする空間である。上記二つの展覧会の背景となった、絵本、標本、植物などが、美しい木製の棚の上に飾られ、それぞれに短いコメントが添えられている。そして、それらの中に混じるようにして、plaplaxの小品が置かれている。現在の「ハナ」と「イシ」の展示は8月21日までで、そのあとは、「シシ」「ムシ」(9月1日から11月30日)、「トリ」「ソラ」(12月1日から2月27日)の展示が予定されている。いずれもファンタスティックな拡がりの感じられるテーマである。
メディアアートだけではなく、現代のアートは総じて難解であると言われる。それは、単に作品や作家の数が増えているだけでなく、それらを読み解くための文脈が多様化、複雑化していることと無関係ではない。現代のアートには、美術史だけでなく、広く社会文化、あるいは政治経済や科学技術の文脈が導入されている。そうして、アートを取り囲む状況が多層化し、複雑になるにつれ、アートを観るという体験は、作品の「解釈」の部分に引きつけられていく。それに対して、plaplaxの作品は、子供から大人まで誰もが楽しむことのできる単純明快さを備えている。しかし、それは単なる「素朴への回帰」ではない。テーマの分かりやすさやインタラクションの明快さは、結果であって、原因ではない。重要なのは、作家、作品、観客の関係の変化である。その意味で、今回の3つの展示では、単に作品の可動性や反応性といった狭義のインタラクティビティを追求するだけでなく、今まで以上に、観客の想像力と創造力を刺激するための〈場〉の構築が目指されているように感じた。
plaplax 3つの展覧会