アニメーションが大きく社会的な認知度を上げ、大学教育においても存在感をある程度獲得するようになるなか、アニメーション研究・教育における基本的な日本語文献の数は現状あまり多いとはいえず、分野もまた偏っている。その点において、タイトルが示すように、アニメーションについて基礎的な情報や見方を包括的に取り上げた本書『アニメーションの事典』(朝倉書店、2012年)が果たす役割は大きい。

本書は三部構成になっている。第一章の解説・展望編はアニメーションの定義や歴史といった基礎的なトピックに加え、産業、教育や心理学といった切り口からもアプローチすることで、アニメーションについて包括的に取り上げている。第二部の研究編は、第一部とはアプローチを変え、セルゲイ・エイゼンシュテインのアニメーション論やアニミズムとヒューマニズムの関係性といった特定のトピックに関して掘り下げた論考が展開される。第三部の資料編はアニメーションを考えるにあたって重要と思われる用語や人名がまとめられている。

文化としてのアニメーションの大きな部分を支えてきた映画祭についての言及がほぼ欠けていること、もしくは、第三部の人名解説について、近年の動向が反映されていない一方、実写映画関係の項目が不自然に多いといった選定面でのムラが目立つといった点を指摘することもできようが、アニメーションに関して日本語でアクセス可能な文献が、現状、主に日本の商業作品を扱い、それ以外の国の話であっても歴史的な視座からのみアプローチするものであることを考えると、地域や時代、トピックに関して広範に取り上げることを試みるこの本は、これまで「穴」となっていた領域を埋めることで、アニメーション研究や教育におけるリファレンスとして、今後、充分に機能しうるものとなっているという点で貴重なものである。

アニメーションに対する基礎的な知識・考え方のみならず、研究にあたっての方法論も示す『アニメーションの事典』は、今後依拠されていくべきひとつの重要な文献となるだろう。

横田正夫・小出正志・池田宏編『アニメーションの事典』(朝倉書店、2012年)

http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-68021-8/