2012年8月9日、ジュンク堂池袋店にて、『ニコニコ学会βを研究してみた』(河出書房新社、2012年)の刊行記念トークが実施された。

パネラーには、ニコニコ学会β委員長の江渡浩一郎氏(産業技術総合研究所)に、それぞれ近年単著を上梓した、田中浩也氏(慶応義塾大学准教授)とドミニク・チェン氏(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事)が加わった。

イベントは、前半はパネラーが互いの著作に感想を述べ、後半はフリーディスカッションとなった。議論は多岐にわたったが、ニコニコ学会β、パーソナル・ファブリケーション、クリエイティブ・コモンズという3つの運動が、異なる出自と内容を持ちながらも、現状認識、目指すべき社会像、そこに至る方法論など、多くの共通点を持つことが明らかになった。

情報通信革命によって、作り手の裾野が拡がり、かつてなかった規模で、参加者(ユーザー)が互いの創作物を共有・改変することが可能になった現在、「創造の連鎖」をいかに加速できるか。そのような問題意識のもと、『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』(フィルムアート社、2012年)の著者ドミニク・チェン氏は、「著作権」や「学会」といった既存の枠組みに対し、二項対立的に敵対するのではなく、過去をリスペクトしながら、現在を改変していくことが重要だと述べた。その上で、ニコニコ学会βが持っている「祭り感」は、創造性をブーストさせるカギになると指摘した。

江渡氏は、ニコニコ学会βの「ユーザー参加型研究」というコンセプトについて説明し、ニコニコ学会βには、ニコニコ動画まわりのユーザーだけでなく、大学や研究所のプロの研究者が数多く参加しており、「研究」で大切なのは、再現性だけでなく、得られた知見が新規性や有用性を持つかどうかであると述べた。それに対して、『FabLife――デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」』(オーライリー・ジャパン、2012年)の著者田中氏は、「クックパッド」を例に挙げ、既存の研究に足りないのは「再現したくなる性」ではないかと指摘した。

江渡氏は、パーソナル・ファブリケーションには、自分で自分の身の周りの生活環境をつくることを提唱し、そのための情報を 掲載した雑誌「ホールアースカタログ」 (1968年)のスピリットがあり、共感できるとした。

本イベントは、社会、生活、暮らしについて、近未来の具体的で活き活きとした展望を与えてくれる、またとない機会となった。

ニコニコ学会β
http://niconicogakkai.jp/

クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(CCJP)
http://creativecommons.jp/

ファブラボ・ジャパン
http://fablabjapan.org/

『ニコニコ学会βを研究してみた』刊行記念トーク
http://www.nicovideo.jp/watch/1347949287