ゲーム業界はサラリーマン・クリエーターの集まりで、ここがマンガ・アニメ・メディアアートとの大きな違いだ。その中核を担うのが中小の開発スタジオである。本書『社長業のオキテ〜ゲームクリエーターが遭遇した会社経営の現実と対策〜』は、そうした中小企業の経営者という視点から、ゲーム業界を切り取った希有な例である。

著書は「ザ・タワー」「シーマン〜禁断のペット〜」「大玉」(第9回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門推薦作品)などの生みの親、ビバリウム代表取締役の斎藤由多加氏だ。リクルートに入社後、起業してゲームクリエーターとなり、大企業のサラリーマンと中小企業の経営者の双方を経験。多数の著作でも知られている。

内容は大きく「独立編」「創業編」「商品作り編」「社員管理編」「安定編」という5章構成。いずれも豊富な実体験に裏打ちされており、著者らしいユーモア溢れる語り口も加わって、軽快に読み進められるだろう。ゲーム開発に関するエピソードも多く、元ネタとなるゲームを知っていれば、より深く楽しめる。

中でも興味深いのはクリエーターの世代論だ。著者は若手社員に対し「ボンゴレを作るのにアサリを頼んだらハマグリを買ってきた」と嘆く。しかし、著者自身が1962年生まれで、かつて「新人類」と呼ばれた世代なのである。このズレに翻弄されつつ、一方で客観的に観察する視線が、本書を奥深くユニークなものにしている。

今年はファミコン30周年。それだけの期間、サラリーマン・クリエーターが中心になって支えてきたコンテンツ産業は他に例をみない。一方で創業期を支えたトップランナーも、そろそろ引退時期に入りつつあり、業界もグローバリゼーションとフリーミアムの激震で大きく変わろうとしている。30年後にもう一度、読み返してみたい内容だ。

『社長業のオキテ〜ゲームクリエーターが遭遇した会社経営の現実と対策〜』

著者:斎藤由多加、出版社:幻冬舎

出版社サイト

http://www.gentosha.co.jp/book/b6049.html