NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] にて開催中の展覧会「アノニマス・ライフ 名を明かさない生命」(2012—2013年)の関連イベントとして、アーティストの齋藤達也氏、ロボット開発者の石黒浩氏(大阪大学大学院教授、ロボット工学)によるアーティスト・トークが、2013年1月19日、同センター4階特設会場にて行われた。ゲストには、内田まほろ氏(日本科学未来館)と水口哲也氏(クリエイター)が参加した。石黒氏は、これまで、自身の風貌に酷似した遠隔操作型ロボットのジェミノイドなど、多数のロボットを開発したことで知られる。
石黒・齋藤両氏のコラボレーションによる《模像と鏡像 — 美容師篇》は、女性型のアンドロイド「リプリーQ2」が美容師と会話しながら髪を切ってもらうパフォーマンス(2012年12月15日同会場にて実施)の記録映像と、髪を切った後の「リプリーQ2」本体によって構成される作品である。パフォーマンスは、出張のカットを頼まれて会場に来た美容師が、アンドロイドと対面するところから始まる。はじめは「彼女」が喋れるものとは知らず、困惑する美容師だったが、髪を切るという状況設定の中で、次第に、ある種のボケとつっこみのような会話(らしきもの)が成立していく。その過程はパフォーマンス会場の観客にも共有されていく。実のところ、アンドロイドの話す言葉は、あらかじめ用意された23個のパターンしかない。遠隔地で会場の様子をモニタリングしている齋藤氏が、タイミングを見計らってその中から発話を選択しているのである。齋藤氏は、美容師が鏡越しにアンドロイドと会話をし始めた瞬間、これでいけるという確証を得たという。お客さんとして接しているという感じが伝わったからだ。
しかし、(まがりなりにも)機械と会話が成り立つ(ように見える)ということは何を意味するのだろうか。機械と日常会話ができるというこということは、見方を変えれば、人間同士の日常会話にも機械的な部分があるということになる。たしかに、接客業のマニュアル的なやりとりや会話には機械的なところがある。しかし、私たちはそのことにことさら不自然さを感じてはいない。この作品は、その「不自然と感じていないことの不自然さ」を浮かび上がらせている。自然/不自然の境界にあるアンドロイドという存在を通じて、私たちは自分自身の自然さ、不自然さを自覚させられるのである。
「アノニマス・ライフ 名を明かさない生命」
http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2012/AnonymousLife/index_j.html