「昭和館」は、戦中・戦後の歴史的資料を収拾、保存、展示する国立の施設で、1999年に東京都千代田区に設置された。戦中・戦後時代における国民生活上の労苦を後世代に伝えることを目的としており、厚生労働省から委託を受けて、財団法人日本遺族会が運営にあたっている。
本書は、この「昭和館」に所蔵されている紙芝居関連資料が解説つきでまとめられたものだ。「完全保存版」と銘打っているだけあり、総ページ数はそれほど多くないもののほぼ全ページがカラー。重要な作品は裏書き(演者が語るストーリーを記したもの)と共に、一枚ずつ掲載されている。
紙芝居はもともと立絵と呼ばれ、切り抜いた絵に竹串を刺した人形で演じられた芝居が元であったとされる。それが発展し、昭和の初めごろに平絵、つまり画板に描かれた絵を用いた街頭紙芝居が成立した。TVの普及によって1960年頃から紙芝居はすたれていくことになるが、「絵物語」と呼ばれるマンガの一種へとその流れは直接つながっていく。また、白土三平氏、水木しげる氏、故・小島剛夕氏など、のちに劇画家と呼ばれる重要な作家の何人もがこの業界から出発していることもあって、この表現形式は現在のマンガを考える上で欠かせないものといえるだろう。
TV登場以前に子どもたちに与えた影響は絶大で、それを利用した教育紙芝居や戦時中の国策紙芝居が多数作られ、GHQ占領下では検閲対象ともなった。しかしながら、子どものみならず大人もまた、紙芝居による教育の対象であったことは、注意しておくべきだろう。
本書では、以上のような歴史や紙芝居作家、演者、制作会社、あるいは生産・配給システムなどについても簡潔にして要を得た解説がなされており、年表や所蔵品目録一覧も含め、便利な図録となっている。
近年のコンテンツ・アーカイブにおいては、資料自体の収集・保存に加え、そのコンテンツを再生するプレイヤーの所蔵・保守が重要な問題となっているが、紙芝居もまた、紙芝居師という演者(プレイヤー)が欠かせない(そしてネタと呼ばれるお菓子も)。その意味で、所蔵する500巻の紙芝居を活用した定期的な上演会の開催は注目すべき活動だろう。
所蔵資料はホームページ上のOPACによって検索可能で、館内に設置された映像・音響室および図書室で閲覧ができるようになっている。紙芝居レコード92点もここで視聴可能だ。
また、「昭和館」では常設展示の他に様々な企画展示も行っており、過去には「昭和の紙芝居〜戦中・戦後の娯楽と教育〜展」や「手塚治虫の漫画の原点〜戦争体験と描かれた戦争〜展」が開催されている。
2013年3月16日から5月12日にかけては、「生誕100周年・没後30周年記念 中原淳一の生きた戦中・戦後〜少女像にこめた夢と憧れ〜展」(仮称)が予定されている。
『紙芝居の世界』
監修:昭和館、出版社:メディアパル
出版社サイト
http://www.mediapal.co.jp/book/124/index.html