2013年6月6日、カナダ国立映画製作庁(National Film Board of Canada、通称NFB)は、iPad専用アプリMcLaren’s Workshop(マクラレンズ・ワークショップ)をリリースした。
McLaren’s Workshopはその名が示す通り、実験アニメーション界の巨匠でありNFBのアニメーション部門の設立者、故ノーマン・マクラレン(1914-1987)を大々的にフィーチャーする無料のアプリで、マクラレンが監督・制作したアニメーション作品51作品とマクラレンについてのドキュメンタリー11本が視聴できる。また、マクラレンの遺作『ナルシス』(1983)の制作に携わり、マクラレンについてのドキュメンタリー『クリエイティブ・プロセス(Creative Process)』(1990)を監督したドキュメンタリー作家のドン・マクウィリアムズ氏によるエッセイやバイオグラフィーを読むことができる。
このアプリのさらなる注目点は、マクラレンが用いた代表的な手法をアプリ上で実際に体験できるというところだ。切り絵、スクラッチ・オン・フィルム(フィルム上に直接傷を付けて描画する方法)、シンセティック・サウンド(フィルムのサウンドトラックに直接描画して音を付ける方法)の3つの手法が、それぞれ当該の手法を使ったマクラレン作品(それぞれ『つぐみ 小鳥のファンタジー』(1958)、『線と色の即興詩』(1955)、『シンクロミー』(1971))の鑑賞と、それに対するオマージュとして作られたクリップを手本として自分で実際に試してみることができる(スクラッチ・オン・フィルムおよびシンセティック・サウンドについては、有料での追加購入が必要)。
McLaren’s Workshopの話題性を高めるもうひとつの要因として、このアプリのリリースにあわせて、国内外の著名なアニメーション作家がこのアプリを使って作ったアニメーションが公開されたことが挙げられる。山村浩二氏、パトリック・ドヨン氏、レジーナ・ペソア氏、ルノー・アレー氏といった、すでにNFBで作品制作したことのある作家に加え、ドン・ハーツフェルト氏、デイヴィッド・オライリー氏といった今回NFB と初めてコラボレーションを行う作家がメンツに加わることにより、このアプリを通じて新たなつながりと広がりを獲得しようとするNFBの意図が見て取れる。
McLaren’s Workshopで制作したアニメーションは、マクラレンの実際の作品でも用いられた音楽を付けて書き出すことが可能で(自分のオリジナル音源を使うこともできる)、すでにアニメーション作家の水江未来氏が『うずら』というタイトルの5分超の作品を自身のvimeoページにアップするなど、実際の反響もある。
NFBは、新技術に対して継続的にアプローチを行っている。CGアニメーションの黎明期にはいち早く作品制作への応用を試み、近年では、抽象アニメーションへの応用など3D映画の新たな可能性の探求や、2011年度(第15回)メディア芸術祭アート部門で優秀賞を受賞した『BLA BLA』(ヴァンサン・モリセー監督)をはじめとしたウェブ上でのインタラクティブな作品制作などを行ってきた。アプリ制作についても、2000本以上のNFB作品が無料で視聴できるNFB Filmsなどをこれまでリリースしている。今回のアプリのリリースは、NFBのそういった試みの一環であり、また、ひとつの記念碑的達成として考えることができるだろう。
カナダ国立映画製作庁公式ホームページ