任天堂のファミリーコンピュータが1983年に発売されて、今年で30周年を迎える。その節目となる年に、「ファミコン史」を紐解く上で決定版となる書籍が出版された。それが『ファミコンとその時代 テレビゲームの誕生』(NTT出版、2013年)である。
本書は二部構成となっており、前段「テレビゲームの誕生」ではファミコンの開発思想や発売に至るまでの経緯が詳細に記されている。また後段「ファミコンの展開」ではファミコンの産業的な広がりと、文化的・社会的広がりが、それぞれ学術面から考察されている。
特に前段を書き下ろした立命館大学客員教授の上村雅之氏は、かつて任天堂でファミコン・スーパーファミコンの開発陣頭指揮をとった人物である。そのため、本書が後年「正史」として扱われる可能性が極めて高い。発売に至るまでの逡巡など、当事者でしか知り得ない内容が満載されている。
また後段では立命館大学教授の中村彰憲氏が経済学的アプローチ、同じく立命館大学教授の細井浩一氏が文化的アプローチで、ファミコンが社会に与えた影響を分析し、前段の内容に奥行きと広がりをもたらしている。過去の「ゲーム産業史本」で食い足りなかった点であり、一読の価値があるだろう。
また本書は日本のデジタルゲーム研究における一つの成果点としても位置づけられる。本書の構想が生まれたのは1990年代後半で、そこから産学公連携でゲームの保存と活用を目的とする「ゲームアーカイブ・プロジェクト」や日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)などが始まり、ゲームを巡る研究や言説が次第に蓄積されて きた。本書にもこれらの知見が数多く引用されている。
もっとも、本書を一読した後でも疑問は尽きない。特にファミコンを作り出した任天堂の社風、そして同社を生み出した京都という土地柄や、歴史的・文化的背景との関係性についてだ。グローバリゼーションの進展と表裏一体で、地域文化とコンテンツの関係性が見直される中、そのモデルとしての京都と任天堂の関係は、ひときわ際立っているのではないだろうか。
『ファミコンとその時代 テレビゲームの誕生』
著:上村雅之、細井浩一、中村彰憲、出版社:NTT出版
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