スマートフォンやタブレットの普及で、アナログ・ボードゲームに新しい光がさしている。「カタンの開拓者たち」などの名作ゲームがアプリとなり、次々に移植されているのだ。アナログ版と異なり盤面が小さく遊びにくい、多人数プレーに向きにくいなどの欠点はあるが、いつでもどこでも一人で遊べる、保管場所に困らない、備品をなくさずにすむなどのメリットは捨てがたい。何よりオリジナル版より安価なゲームが多いのが嬉しい。
しかしボードゲーム大国のドイツをはじめ、アプリ版ゲームの多くは海外産で、多くは日本語化されていない。テレビゲームと異なり、チュートリアルが存在しないゲームも多いので、ルールの理解にはある程度の語学力も必要だ。大量のアプリの中でどれを選んだらいいか、迷ってしまう初心者も多いだろう。こうした中で出版された『アプリでボドゲ』(書苑新社、2013年)は、入門書として最適の一冊だ。
本書で紹介されているゲームは45作で、「どうぶつしょうぎ」など国産ゲームも4作収録されているが、他は海外産だ。「カードゲーム」「すごろく」「競り」「陣取り」「街作り」「デッキ構築」「ウォーゲーム」「その他」に分類されており、ルネサンス時代の地中海貿易を題材とした名作「メディチ」をはじめ、人気タイトルが一通りそろっている。ルール紹介だけでなく、遊ぶ上での勘所なども盛り込まれているため、本書を片手にプレーすれば迷うことは少ないだろう。
なお、各ゲームには難易度と言語依存性(プレーに必要な語学力)が記されているので、初心者は低難易度・低言語依存のゲームを選べば、まず外れはない。もっともジャンルによって向き不向きもあるので、いろんなゲームをまんべんなく遊ぶのがお勧めだ。
本書を一読してあらためて感じるのは、アナログ・ボードゲームの多彩さと、制約された中から生まれる革新性だ。アナログ・ボードゲームはテレビゲームと異なり、扱えるデータやルールが著しく制限されており、プレー時間も短い。そうした制限が逆にアイディアを生み出す梃子となり、様々なゲームが登場してきたことがわかる。
本書の主な読者層はアナログ・ボードゲームの初心者だが、個人的にはテレビゲームのゲームデザイナーにお勧めしたい。昨今、テレビゲーム業界でもアナログ・ボードゲームの愛好家が増えており、本業のゲーム開発に活かそうとする動きもある。そのためには世界の名作ゲームを浴びるほど遊んで、ゲームデザインのツボを理解することが肝心だ。本書はそのための良き羅針盤となるだろう。
『アプリでボドゲ』
著者:徳岡正肇
出版社:青苑新社
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