東京・自由が丘のギャラリー「Au Praxinoscope(オー・プラクシノスコープ)」で、2014年6月7日より、イーゴリ・コヴァリョフ展が開催中だ。

イーゴリ・コヴァリョフ氏はウクライナ出身のアニメーション作家で、ロシア、アメリカと複数の国を渡り歩きながら、作家性の強い短編作品と商業作品の両方にわたって活躍している。

1954年生まれのコヴァリョフ氏は、キエフのアニメーション・スタジオで働いたのち、モスクワに拠点を移し、ソ連時代末期の1988年、故アレクサンドル・タタルスキー氏らとともに、ソ連初の私営スタジオ「ピロット」を設立。タタルスキー氏との共同監督によるカートゥーン色の強い作品を発表する一方、独自の美学をもった短編作品を発表、それによって現代のアニメーションシーンを代表する作家のひとりとして、国際的に高く評価されることとなった。

1990年代半ばにハリウッドからの誘いを受けアメリカに移住した後は、クラスキー=クスポ・スタジオの代表的なシリーズ「ラグラッツ」などを手がけつつ(1998年の『ラグラッツ・ムービー』では監督を担当している)、スタジオの支援を受けて短編作品制作を継続、目下のところの最新作『ミルク』(2005年)は、広島やオタワといった主要なアニメーション映画祭でグランプリを獲得している。近年は再度モスクワに拠点を移し、商業作品と個人プロジェクトの制作を並行して行っている。

コヴァリョフ氏は、2012年の広島国際アニメーションフェスティバルに国際審査員として来日し、特集上映を行った。氏の作品はそれぞれに印象の強い断片的な映像が積み重なるようにしてできあがっており、物語の全貌がはっきりとは語られないことが多い。特集上映時のトークでは、そのような独自の作品のあり方は、まず脚本の段階で整合性のある物語を綿密に作ってから、アニメーションにする段階で意図的にエピソードを引いていくという独特の制作方法によってできあがることが明かされた。「引き算」によってできあがるその作品世界は、物語を明確に語ることよりも作品全体がもつリズムを重視した、有機的な世界観を作り上げるためのものであり、学生時代に一時期師事した故アンドレイ・タルコフスキー監督の影響も感じられる。

Au Praxinoscopeでの今回の展示では、彼の版画作品が紹介される。そのなかには代表作『ミルク』と関連の深い版画が2点あるが(キャラクターの表情のスケッチと、作品内で使われた絵画作品)、その他のものは既存のアニメーションとは関連しないオリジナルのものである。ただし、そのグラフィックのスタイルは一目で氏によるものと分かる。氏のアニメーション作品は個々のシーンの映像的な強度が高く、その断片としての強さが、物語の文脈とはまた別の次元で観客に強烈な印象を残すが、ジークレー版画技法を用いた今回の展覧会の展示作品は色彩的にも非常に豊かで、氏の未発表のアニメーション作品を観るかのような感覚を味わうことができる。

Au Praxinoscopeはアニメーション作家の山村浩二氏が自身のスタジオ「ヤマムラアニメーション」の地下に併設しているショップ兼ギャラリーで、2013年にオープンした。ギャラリー部分では、過去、エストニアのアニメーション作家プリート・パルン氏の展覧会を開催しており、今回の展示はそれに続くものとなっている。

イーゴリ・コヴァリョフ展は9月27日まで開催。毎週土曜日と第一日曜日のみ営業している。

Au Praxinoscope公式サイト
http://www.praxinoscope.jp/