株式会社SBクリエイティブはブックファースト新宿店で2014年10月10日、「日本のゲーム開発者に必要な本とは」をテーマに公開座談会を行った。議論は最近の出版傾向から分野別の人気度、登壇者が推薦する書籍、日本のゲーム業界で本当に求められている情報まで多岐にわたり、1時間半の議論が物足りなく感じられるほどだった。
登壇者は渡辺雅央氏(2Dファンタジスタ)、湊和久氏(バンダイナムコスタジオ)、橋本善久氏(リブゼント・イノベーションズ)、簗瀬洋平氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン、慶應大学大学院メディアデザイン研究科付属KMD研究所)の4名。これに加えて同社でゲーム開発者向け書籍の編集を務める品田洋介氏も参加した。
座談会は「ゲームエンジンのUnityに関する解説書の出版点数が非常に多く、バブル的な傾向も見られるが、こうした傾向をどのように捉えているか」という質問からスタートした。これに対して渡辺氏は「市場のニーズを反映した結果ではないか。オンラインゲームやゲームデザインなど、Unityを核としつつも多彩な切り口の書籍が出版されており、クオリティも高い」と回答した。
橋本氏も「書籍が多すぎて困ることはない。C++やPHPの解説書なども大量に出版されており、Unityが市民権を得たということでは」と分析した。また湊氏は「過去にも専門技術の解説本やシーグラフの論文で、オープンソースのゲームエンジンが活用されてきた。今はそれがUnityに置き換わってきたのだろう」と指摘。一方で品田氏は「Unity本が市場で飽和状態にあるのは事実で、最近ではCocos2D-xやUnreal Engineなど、他のゲームエンジン解説書も増えてきている」とコメントした。また簗瀬氏も「複数のゲームエンジンを使って同じゲームを作る解説本があれば、読者が企画に応じて最適なゲームエンジンを選択するのに役立つ」と補足した。
ジャンルについては、プログラマ向けの書籍に比べてゲームデザインやシナリオ関係の書籍の人気が乏しいという問題提起がなされた。これに対して橋本氏は「ゲーム業界ではアーティストの就業人口が一番多く、二番目がプログラマで、ゲームデザイナーは一番少ない。またゲームデザイナーは『今までにないゲームを作りたい』という意識の人が多く、解説書を読む意義が乏しいと感じているのかもしれない」と分析した。
簗瀬氏も「ゲームデザイナーの絶対数が少ないため、『プログラマにも役立つゲームデザイン』『ゲームデザインから学ぶUI/UX』などと、他の職種を巻き込む企画が望ましいのでは」とコメントした。その上で「『3Dゲームをおもしろくする技術』(カレントコンテンツ内関連記事)はゲームを作る人すべてに向けられた書籍で、内容的に古びることもなく、長く売れるのでは」と絶賛。渡辺氏も「この本で日本のゲーム開発者向け書籍のレベルを一段上がった。ただし厚いため、必要に応じて逆引き的に読むとよいのでは」と補足した。
登壇者が勧める書籍では、橋本氏が『ゲーム・映像制作パイプライン構築マニュアル』、渡辺氏が『3Dゲームをおもしろくする技術』、湊氏が『オンラインゲームのしくみ』を挙げた。一方で簗瀬氏は「直接的なゲームの開発技術だけでなく、人間の生態学的な知見にも目を向けるべき」と前置きし、『生態学的視覚論』『バーチャルリアリティ学』を推薦。また近刊書として『すべては体験に収束する。-デザインはどこにあるのか?』を挙げ、ゲームを離れて基礎的な書籍を読むと、長く役に立つ知見が得られると述べた。
最後に日本のゲーム業界で本当に求められている書籍では、渡辺氏から「世の中にもっとゲームを増やすためのきっかけになるような本が読みたいし、自分でも書きたい。プログラムができないゲームデザイナーでも、簡単にゲームが作れるようなもの」と抱負を語った。湊氏は「生態学的な知見に関する書籍という指摘は目から鱗だったので、そうした本を簗瀬氏にぜひ書いてほしい」とコメントした。
湊氏から話をふられた形の簗瀬氏は「ゲーム作りはものすごく大変なので、ゲーム開発者であれば他の産業やサービスに関することなら、たいていのものは作れる」と指摘し、ゲーム開発者が異業種で活躍する上で参考になるような書籍や、事例集などが欲しいと語った。最後に橋本氏は「IT系ではアジャイルやスクラムをはじめ、組織管理の書籍がよく読まれているが、個人の仕事をどうやって管理するかの書籍は意外と出ていない。個人のタスク管理やリーダーシップ論なども、より求められるのでは」と指摘した。
「日本のゲーム開発者に必要な本とは」座談会
http://www.sbcr.jp/support/12065.html