2014年9月27日より、東京都現代美術館にて「ミシェル・ゴンドリーの世界一周」展が開催されている。この展覧会は、ミュージシャンのビョーク氏などとのコラボレーションによるミュージック・ビデオの監督として1990年代から多大なる影響力を持ち、2000年代以降は長編映画監督としても成功を収めているミシェル・ゴンドリー氏を大きくフィーチャーする、日本では初めての大規模な展示である。氏のミュージック・ビデオはアニメーションを含む様々な映像手法を採用したもので、今回の展覧会では、アニメーションの作り手としてのゴンドリー氏も大きくフィーチャーされたものとなっている。

同展は、大きく分けて2部で構成されている。

第1部の「ホームムービー・ファクトリー」は、来場者自身が映画制作を行うためのスタジオのような場所になっている。ゴンドリー氏の2008年の長編映画『僕らのミライへ逆回転』は、所蔵するすべてのVHSテープがダメになってしまったレンタルビデオ屋の店員とその友人が、『ゴーストバスターズ』や『ロボコップ』などをはじめとするハリウッド映画の名作を自らリメイクして貸し出すという内容の映画である。ゴンドリー氏は、その自作の内容にインスパイアされ、映画作りは誰にでもできるというコンセプトのもと、3時間で脚本執筆から撮影まで、映画制作のすべてを行えるプロジェクトを考案。「ホームムービー・ファクトリー」と名付けられた同プロジェクトは、2008年のニューヨークからスタートして、パリ、ロッテルダムやヨハネスブルクなど世界各地を巡回しており、現在、パリ郊外には常設されている。日本での開催は、今回の展覧会が初めてとなる。ワークショップは毎週水、土、日、祝日に午前午後の2回開催されるが、それ以外の時間帯でも、日本用にアレンジされたギミック溢れる映画撮影用セットのなかを自由に見て回ったり、撮影を行うことができる。また、会場内に設置されたレンタルビデオ屋では、ワークショップで作られた作品がパッケージ化されて並んでおり、実際に鑑賞することができる。

第2部の「Around the World in 19 videos」は、ゴンドリー氏がこれまで手がけたミュージック・ビデオのうち19本が、ゴンドリー氏のアイデアによる特殊な会場構成で上映される、同展オリジナルのインスタレーションとなっている。このインスタレーションでは、来場者は入場時にワイヤレスのヘッドホンを渡される。ヘッドホンをつけて19のスクリーンのどれかの前に立つと、目の前で流れるミュージック・ビデオの音を聴くことができる。しかし目の前の映像は数秒ごとに隣のスクリーンに移動するので、同じミュージック・ビデオを見続けるためには鑑賞者も同時に映像を追って動かなければならない。氏が監督したダフト・パンクのビデオ「Around the World(世界一周)」のタイトルにインスパイアされたこのインスタレーションでは、鑑賞者もまた、ゴンドリーの映像世界のなかをぐるぐる回ることになる。インスタレーション内で展示されるミュージック・ビデオのなかには、レゴブロックを用いたコマ撮りアニメーションで作られたホワイト・ストライプスの「Fell in Love with A Girl」なども含まれている。

この展覧会では、他にも、現在のところの氏の最新長編であるアニメーション映画『Is the Man Who Is Tall Happy(背の高い男は幸せ?)』(2013年)の原画の展示がある。言語学者のノーム・チョムスキーのインタビューをアニメーション化した同作は、ゴンドリー氏がプライベートなプロジェクトとして長年にわたって手がけてきたもので、アニメーションの原画はすべてゴンドリー氏が担当している。同室では、20ドルを支払った人全員の似顔絵をゴンドリー氏が描く「1000 portraits」というプロジェクトの絵も飾られており、氏のドローイング作家としての魅力を発見させるものとなっている。

また、別室では、ボリス・ヴィアン原作の長編映画『ムード・インディゴ:うたかたの日々』(2013年)で大々的に用いられたコマ撮りアニメーションのセットや小道具なども展示されている。

近年、ヨーロッパを中心に、バンドデシネ作家などアニメーション・プロパーではない作り手によるアニメーション長編の制作や、ドキュメンタリー・アニメーションのジャンルの隆盛といった新たな動向が見られるが、この展覧会は、そのどちらにも当てはまるゴンドリー氏の先駆的なこれまでの活動を考えるための示唆を与えてくれるという意味で、アニメーションという観点からも興味深いものとなっている。

なお、11月初頭には、ゴンドリー氏が来日し。映画監督の井口奈己氏らとトークセッションや、『背の高い男は幸せ?』のQ&Aつき上映、アーティスト・トークなどが行われる。詳細については東京都現代美術館のホームページを参照のこと。

「ミシェル・ゴンドリーの世界一周」展は、2015年1月4日までの開催。

「ミシェル・ゴンドリーの世界一周」展公式ホームページ
http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/michelgondry.html