画期的な本が出た。

竹内オサム氏の監修による『マンガ・アニメ文献目録』(日外アソシエーツ、2004年)である。1945年から2013年までの、日本国内で発表された単行図書3.691点、図書掲載論文854点、雑誌記事16.613点におよぶ資料を集め、いくつかの項目別に分類した本書は、これまでマンガ関連資料を精力的に整理・発表してきた竹内オサム氏の情報と、日外アソシエーツ社の保有するデータを合わせた、現時点における最良の文献目録だ。

総ページ数688という分量に一見してひるんでしまう人もいるかもしれない。そんな初学者のために、巻頭には竹内氏による「これから研究を志す人へ」と題された一文も収められている。本書全体の約半分ほどが作家・作品についての文献データで占められており、25ページがマンガ・アニメ一般について、180ページがマンガについて、そして79ページがアニメ関連のデータとなっている。また、本書の特徴のひとつとして、複数の著者によって書かれた単行本や、雑誌の特集号については、単行本や雑誌のレベルではなく、1本ずつの論文/記事レベルで採録されている。また、分類項目より下の階層が「図書」と「雑誌」に分けられている他に、「書誌」と「書評」という項目が別途用意されているのも、本書の大きな特徴のひとつと言えるだろう。

近年ではネット上で公開されるデータベースが整備され、CiNiiや国立国会図書館サーチで検索すれば、大量のマンガ関連資料がいとも簡単に検索できるようになった。その一方で、どの資料からアプローチすればいいのか、とまどってしまう人もいることだろう。本書のもうひとつの特徴は、そんな大量の資料へのアクセスを容易にするその独自の分類法だ。もちろんこのような分類に終わりはなく、時代によって変遷し、またそれぞれの研究者の視点によって異なってくることも確かだ。しかしながら、これまでも『本流!マンガ学』などで文献の整理をおこなってきた竹内氏の経験と知識によって裏打ちされた分類は、本書においてきわめて有効に機能していると言えるだろう。

もちろん研究者によってはその分類に異論がある人はいるだろうし、本書に掲載されていない資料を2、3挙げることはいくらでも可能だろう。しかしながら、関心のある項目を見ていけば、忘れていたもの、あるいは見逃していた資料が、きっと発見できるはずだ。その意味で、本書は読んで楽しい事典にもなっている。なお、複数の項目に関連し、分類しがたい資料に関しては、何度も繰り返し掲載されている。

この分類の読み方自体がわからない人は、竹内氏が夏目房之介氏と共に編んだ、『マンガ学入門』を手元に置くといいかもしれない。こちらは各論的にはよくまとめられたものであったものの、紙面スペースの都合で文献探索としてはややこころもとない感があったので、ぜひこの2冊を合わせて読んでもらいたい。

国外に目を転じれば、同じようなマンガ関連資料の書誌として、アメリカのジョン・A・レント氏による世界各国の資料を集めた「国際マンガ学書誌シリーズ」(例えば、Comic Art in Africa, Asia, Australia, and Latin America Through 2000: An International Bibliography. Praeger, 2004.など)や、フランスのアリー・モルガン氏とマニュエル・イルツ氏が仏語と英語の文献を集め詳しい解説を付した『マンガ関連文献解題書誌』(Le petit critique illustré : Guide des ouvrages de langue française consacrés à la bande dessinée, P.L.G, 2005.)などがあった。国際的な観点からマンガを研究するためには、これらの資料も合わせて参照されるべきだろう。

また、web上でも、紙資料だけでなく、ネット上の情報やマンガ関連のメーリングリストや各国のアーカイブ施設のリスト、あるいはweb上で公開されているオープン・ジャーナルまでも扱った、ジーン・カネンバーグJr.氏の運営する「ComicsResearch.org」や、秋田孝宏氏によって公開されている日本のマンガ関連書籍や雑誌が検索可能な「漫画関連書籍検索」が存在する。「漫画関連書籍検索」には詳細な目次情報が含まれているので、『マンガ・アニメ文献目録』と補完しあうことができるだろう。あるいは、先述のモルガン氏とイルツ氏による『マンガ関連文献解題書誌』も、刊行以降に発刊された資料の解説付きリストを編者のサイト上で公開しており、紙媒体による書誌データをアップデートするひとつの方法として興味深い。

なお、『マンガ・アニメ文献目録』には、巻末に「事項名索引」と「著者名索引」が付けられており、目次とは別の検索ができるようになっている。また、マンガやアニメといったアカデミズム外部での知見がきわめて重要な分野においては、その資料収集の範囲がつねに問題となるが、本書が対象とした雑誌名は「収録誌名一覧」として巻末に付記されている。

『マンガ・アニメ文献目録』
著:竹内オサム、出版社:日外アソシエーツ
出版社サイト
http://www.nichigai.co.jp/cgi-bin/nga_search.cgi?KIND=BOOK1&ID=A2486