ブリュッセル=リュクサンブール駅からベルギー国鉄(SNCB)161番線に乗り込み、森が豊富に残るブリュッセル近郊の景色を眺めながら列車に1時間ほど揺られると、ルーヴァン・ラ・ヌーヴ大学駅に到着する。駅の階段を上り、完成したばかりのテーマパークのような街並みを抜け、その先にある細長い橋の上を歩いてゆくと、大きな直方体を2つ空中に浮かべたような建物が近づいてくる。左の直方体には港から海を眺めるタンタンの後ろ姿が、右の直方体には「Hergé」という大きなサインが描かれており、その建物がベルギーを代表するマンガ家に捧げられたものであることがはっきりと伝わってくる。
このミュージアムはフランス建築界の巨匠クリスチャン・ド・ポルザンパルク氏(Christian de Portzamparc)によって設計された。ミュージアムの床面積(SHON)は3600㎡、建設費用は約1500万ユーロと伝えられ、スタジオ・エルジェ(Studios Hergé、以下「財団」と表記)が出資したものである。
館内は8室の常設展示室と1室の特別展示室で構成され、グッズショップとレストランも内部に併設されている。常設展では、代表作『タンタンの冒険』をはじめとするマンガ作品の制作過程をはじめ、生い立ちや交友関係、影響を受けた映像作品など、エルジェの生涯全体を見渡すことのできる展示が構成されている。
展示内容からもうかがえるように、このミュージアムはエルジェの仕事と功績を広く伝えることを目標としている。財団は、ミュージアムの創設がその目的達成に不可欠であり、また長期的に見てその機能を十分果たしうるものであると位置づけている。所蔵品は、アートワークをはじめ、メモ、書簡、写真、音声や映像など、エルジェに関わるあらゆるものを対象とする。1997年には著名コレクターだったステファン・ステーマン氏(Stéphane Steeman)のコレクションを譲り受けるなど、収集活動もおこなっている。現段階では所蔵品の目録作成を第一目標に掲げ、作業を進めているという。
ミュージアムの設立計画は1980年代初頭から持ち上がっていた。当初、財団側はブリュッセル市内での設立を望み、市側の責任者と交渉が進められた。しかし提示された用地は財団の意向に合わずブリュッセル計画は頓挫。一時はフランスでの設立すら検討されたが、ルーヴァン・カトリック大学からの用地提供の申し出を受け入れ、2001年1月10日(『タンタンの冒険』連載開始記念日)に現在の立地が正式決定された。自治体側もこのミュージアムを観光資源として重要視し、用地や案内標識等の整備に150〜200万ユーロを投資している。大学や自治体の協力と連携があってこそ現在の姿があると言える。
ミュージアムは2009年6月2日に開館し、その1ヶ月後にはベルギー王アルベール2世が訪問している。このミュージアムの存在がベルギーという国にとって大きな意義があると認められていることをうかがわせる出来事である。
Musée Hergé公式サイト
Studios Hergé
http://us.tintin.com/studios-herge/
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