●「施設連携によるマンガ雑誌・単行本の共同保管事業」
京都精華大学
本事業は全国のマンガ収蔵施設をネットワークでつなぎ、これまでマンガミュージアムなどの施設で個別に収集・保存・分類されてきたマンガ資料と、その情報の相互利用の促進をはかる共同事業であり、そのための「マンガ資料に関わる『共同収集・協働整理・協働保存・共同活用システム』構築の足掛かりを作る」ことを目的とする。
●中間報告会レポート
報告は京都精華大学・国際マンガ研究センター研究員の伊藤遊氏が行い、「京都国際マンガミュージアム」「北九州市漫画ミュージアム」「熊本マンガミュージアムプロジェクト」の三団体をネットワークで繋いで、「現物資料と情報の相互利用を促進する」ことを具体的な事業内容として説明した。伊藤氏によると、同事業は、「いったん、熊本市にある共同倉庫に各館の資料を集め、共同管理する可能性を追求している点が特徴となっています」とのこと。
そして「今年度、共同倉庫である熊本倉庫に集められる予定のマンガ資料は、合わせて約42,000点を予定している」とのことで、そのうち「22,000点に関しては、共通のスタッフがその書誌データを取ることを想定している」という。「その際、『文化庁メディア芸術データベース』に、そこで取った書誌データを入力していくことで、新しいマンガ本資料の所蔵状況を社会一般で共有することが可能になる」とした。11月現在では目標の44%となる10,560点が熊本倉庫に入庫され、そのうち5,678点の書誌データが取れているとのことであった。
またこうした作業と平行し、今後検討すべき課題として、以下の三点が挙げられた。
1) 作業工程の記録に基づいての、今後の活動展開における考察すべき視点の整理作業。
2) 共同保管事業の実証実験を担う新しい施設が、現在の三団体以外からどう加入するかの検討。
3) 三団体のサテライト施設としての熊本倉庫資料の活用モデル、とりわけ出納システムの検討。
また熊本倉庫でのデータ入力において、人為ミスや混乱もしばしば起きているため、「作業を繰り返したり、マンガミュージアムのスタッフがいろいろ教育したりすることで、善意に人材を育成していきたい」とのことであった。
さらに、先に報告された「関連施設の連携によるマンガ原画管理のための方法の確立と人材の育成」事業と本事業とを結びつけ、両者が連関して相乗効果を上げることが想定されているとの報告があり、「マンガ作品はマンガ原画と、それが印刷されて流通するマンガ本、それぞれに価値があるが、その価値自体は互いを参照することで明らかになるという種類の価値である」と指摘。そのようにして「発見された価値というのは、例えば近年盛んになっているマンガの展覧会に反映することで、マンガ文化の豊かさというものを一般の皆さんに、より鮮明に示すことが可能なるのではないか」。そして「マンガだけではなくて、同じポピュラー文化としての可能性と、困難を有しているアニメーションだとか、ゲーム領域のアーカイブ構想にも参考になるのではないかと期待しております」と結んで報告が終えられた。
この報告に対して企画委員から「がんばってほしい」との声が寄せられ、伊藤氏は以下のように応えている。
「オールジャパンでマンガの原画や本を集めていくということをしないと、マンガのようなポピュラー文化をアーカイブするというのは難しいのではないかということが(この事業の)前提になっています」。
●最終報告会レポート
報告者 京都精華大学国際マンガ研究センター 伊藤遊氏
本事業は、「大量刊行物であるマンガ雑誌と単行本を所蔵する施設同士が、資源を共有することで、新たな活動展開や運営の効率化を模索する」事業である。つまり、膨大なマンガ資料を、どこか一ヶ所に集めるのではなく、全国に点在する収蔵施設をネットワークで繋ぎ、その上で現物資料と情報の相互利用を促進するという、マンガ資料に関わる「共同収集・協働整理・協働保存・共同活用のシステム」構築の足掛かりを作ることを目的としている。
今回は、京都国際マンガミュージアム、北九州市漫画ミュージアム、NPO法人熊本マンガミュージアムプロジェクト(通称クママン)の3施設が連携して、熊本市内の貸し倉庫スペース「共同収蔵庫」に各施設の資料を集め、その共同管理の可能性の追求が行われた。
各施設の正本(原本)や複本(重複して受入られた単行本など)が「共同収蔵庫」に送られ、「文化庁メディア芸術データベース」に登録された後、保管される。正本は閲覧要求や展示などの必要に応じて出庫され、再び「共同収蔵庫」に入庫して保管される。このような、正本の保管を「サテライト収蔵」と呼んだ。複本は、他施設に所蔵がない場合、他施設の正本(原本)として出庫(寄贈)された後、新たに「サテライト収蔵」される。また他施設の貸出し要求に応じたり、新設のマンガ資料館の蔵書(正本)として出庫(寄贈)されることも想定されている。複数の施設間で共有することを前提に収集したマンガ資料を、「文化庁メディア芸術データベース」に登録した後、「共同収蔵庫」に収蔵して、共同利活用の実証実験を行う試みであった。
今後の課題として、新たな参加施設を募り実験規模を拡大すること、複本活用のマーケット調査やサテライト収蔵に関する取組を増やし実験内容を深化させること、大量刊行物であるマンガ雑誌と単行本のアーカイブの全体的な規模(アーカイブされる資料の総数、必要な保管スペ-スなど)を検討していくこと、さらには、共同保管と利用に関するノウハウをまとめ人材育成を行っていくことや、原画ア-カイブ事業との連携によるマンガ資料の付加価値を発見していく可能性などが述べられた。このマンガ資料のアーカイブモデアルは、同じポピュラー文化としての可能性と困難を有している、アニメーションやゲームを対象としたアーカイブ構想にも示唆を与えていく可能性があることについても言及がなされた。