●「アーケード・家庭用ゲームを対象とする事例研究を通じた保存・活用方法構築のための調査事業」
東京工芸大学
産業化されて40年以上の歴史を持つデジタルゲームは一つの文化となる一方、それを保存する体系的なアーカイブはいまだ設立されていない。この事業は東京工芸大学芸術学部ゲーム学科と立命館大学ゲーム研究センター、一般社団法人・日本アミューズメントマシン協会(JAMMA)の三機関が連携して、短期的には「所有する資料体への事例研究を通じてゲームのアーカイブ化を進め、その方法論を構築」し、長期的には「アーカイブが成立した後の活用を想定し、博物館的運用のノウハウの取得」や「分野専門性の高い人材の育成」を目指すものである。
●中間報告会レポート
東京工芸大学ゲーム学科助教授の山口義英氏は最初に「デジタルゲームの技術の急速な発展はいまだに止まっておらず、ハードウェアなどの陳腐化によって多くのゲームがコンテンツとしての寿命をどんどん失っている」と報告し、「ゲームそのものをきちっと保存し、アーカイブを成立させることが必要であり、これからの文化研究の対象になるにあたってはそれが重要なステップではないか」と語った。そのため東京工芸大学芸術学部ゲーム学科と立命館大学ゲーム研究センター、日本アミューズメントマシン協会の三つが協業体制でアーカイブ化に向けて事業を実施しているとのことである。
実施体制を機関別に見ていくと、事業主幹となる東京工芸大学芸術学部ゲーム学科は「業務用ゲーム基板の保存に関する基礎調査及び収蔵」と「保存用の専用収納ケースの開発」を担当し、「アーカイブを活用するため、企画展示への調査活動、保存の方法論や、手法の模索に関する議論と検討」を行う。
また立命館大学ゲーム研究センターは「所有する家庭用ゲームソフトの保存環境条件の模索と、所蔵品の管理方法の確立」を担当。
「(株)コラボ」こと日本アミューズメントマシン協会は、「同協会が所有する業務用遊技機器の目録作成とその実態調査」を担当している。
そのうえで三機関の事業進捗状況としては、東京工芸大学が「アーケードゲーム基板の保存に適した収納ケースの開発」を目指して「基盤サイズを計測する治具を開発し、実際に所有管理する基盤群について計測し、ゼロから基本的なデータを蓄積するところから始めている」とのこと。
次に立命館大学ゲーム研究センターのほうの進捗は、「同センターが所有している4000体以上の家庭用ゲーム機及びそのソフトについて、保存、管理手法の実践的調査を行い、その知見を蓄積するというのが一番のテーマ」となっているとのこと。
さらに日本アミューズメントマシン協会の進捗状況については、同協会が会員企業から譲渡された業務用アミューズメント機器の実態調査を試み、その結果旧式のモデルが「全部で53台ほどあり、すべてがビデオゲームではないが、所有機器の全貌がある程度把握できたと考えております」と報告された。
この進捗状況の詳しい報告に加えて各機関の側からの評価も報告され、さらに今後の予定が示されると共に、「保存実践」「活用方法」「保存体制」の三つによって構成される報告書の完了イメージも提示された。
報告終了後に行われた質疑応答は、以下のとおり。
1) ゲームアーカイブの活用とは誰が何のために、何を活用するのか?
A:まずは博物館的な展示ができるような形での、常設的なアーカイブの成立を考えている。
2) ゲームのパッケージや筐体の写真だけではゲームとは言えないので、それを展示する方向に持っていくのは難しいのではないか?
A:中心となるのはゲーム本体の保存なので、その方法、または保存・収集したものを管理する方法を中心にして、実機がプレイ可能であることが一番大事だと思う。
3) デジタルゲームはハードだけでなくソフトウェアや回路図がより大事で、それを保存することがアーカイブだと思うが、やっていないのはなぜか?
A:後にエミュレーションできるようなアプローチは現在は考えておらず、その当時の実機自体を残し、動作を維持することがまずは重要だと考えている。
4) 実機を永久に可動させることは不可能だから、何年以内まで稼働するようにするというような、計画性を含めたアーカイブポリシーを示してほしい。
A:現在は、今失われてしまっている実物をなんとか食い止められないかという危機感があり、そのためにどうすればいいかということを常に考えている。
●最終報告会レポート
報告者 東京工芸大学 山口義英氏
本稿では、本報告会で行われた東京工芸大学による「アーケード・家庭用ゲームを対象とする事例研究を通じた保存・活用方法構築のための調査事業」の報告について、報告書での記述を一部参照しつつ、レポートする。
・本事業の背景と目的
まず研究対象としてのデジタルゲームを考えた場合、これまで主な保存形式とされてきたメディア群と比べ、おそらく遥かに深刻な危機に瀕しており、現物保存の重要性を背景として論じた。さらに、そもそも権利者が保存活動を行っておらず、また保存活動は個人有志が主に進めているという現況を踏まえて、ゲームを文化として残す枠組みが不在であり、保存のための実行力が求められていると議論を展開した。
そのような実行力を形成するための要件として、1)資料体の確保、2)ツールと技術、3)活用の場や舞台、といった三点を提起した。それらはいうなれば、ゲーム現物や関連資料といった資料体を確保し保存管理すること、それら資料体を保存するための道具や技術を開発すること、また単に資料体を保存するだけではなくそれらを活用するための場や舞台としてイベントにおける展示などについて検討を進めることにより、問題解決のための方法論構築が進展するという考え方である。
本事業では現物保存や活用がその主眼となっているが、なぜ現物を保存することに意義があるのか、デジタル化したほうが効率的ではないかといった意見に対して、以下の通り現物保存の意義を論じた。ゲームは時代性といった文脈を有する、文化と技術により体現される存在であると考えられているとし、関連・接続領域の情報も価値があるとしたうえで、「ゲーム本体・実物が携帯する情報は一体のもの」であり、これらを分かつ形で保持するべきものではないと述べた。とりわけ、現物保存はコピープロテクトや暗号化がなされているため、デジタル化は著作権的観点からしても現行法の観点からすれば容易ではないし、さらに改良・改造といったコンテンツの変更もあり得ることからすれば、同一性の検証ならびに動作保証のために必要不可欠であると指摘している。
その上で、ゲーム保存にあたり意識していることとして、できる限り研究に汎用的に利用できるものを対象とすること、また遊び以外のものも含む一体のものとして保存されることの意義、著作権運用に絡んだコンプライアンスといったことを挙げた。
・事業概要と実施体制
前述の背景を受けて、本事業の概要として短期的目標と長期的目標の整理を行った。短期的目標は「資料体への事例研究を通じてゲームのアーカイブ化の方法論を構築」することである。このような目標を達成することで、「アーカイブ後の活用を想定し博物館的運用の手法を獲得すること、分野専門性の高い人材の育成」を長期的目標として挙げた。とりわけ今年度活動では、短期的目標で挙げられる点を中心に推進された。
実施体制としては、東京工芸大学(芸術学部ゲーム学科)が統括を行った。家庭用ゲームに関する調査業務は立命館大学ゲーム研究センターが、アーケードゲームの調査業務については東京工芸大学が、またアーケードゲームについて日本アミューズメントマシン協会(以下、JAMMAとする)所蔵のタイトルについては、JAMMAと株式会社コラボが担当した。また保存体制に関する検討として実施された有識者へのインタビュー調査ならびに、展示活用の実施者へのインタビュー調査は本事業統括の東京工芸大学が担当した。
・事業活動
具体的な事業活動としては、以下の通りである。
東京工芸大学では、まず中心的施策としてアーケードゲームについて所蔵している627件のゲーム基板のデータを取得し、それらのデータから統計的にデータ整理を行っている。現物の保管方法構築のためのツールとして保管用箱の試作がなされた。これらは実際の基盤搬送に試験的に用いられており、その優位性が確認されているという。さらに、アーケードゲーム基板収納用のラベル開発が行われており、文字数や必要項目を算定し試作が行われ、これらについては視認性に一定の評価を行なっており、実用化への指針が確立したと報告された。
立命館大学では、家庭用ゲームを対象とするゲームアーカイブの管理システムの構築と運用を行なわれた。ゲーム研究センター所蔵の家庭用ゲーム計4,513件について、所蔵品管理システムの構築が行われた。検索や所蔵品の取り回しの実用性が確認されたという。またゲーム現物ならびにコンテンツとしての画像・映像を対象としてデジタルデータ化が進められている。サンプルを対象とした活動を通じて、作業フローとマニュアルが作成されており、課題抽出・評価が行われたという。その他、サンプルとして200件を対象として物理的な長期保存管理環境構築のためにクリーニングが行なわれているほか、温湿度管理手法について実験が行われており、課題として手法の洗練や持続的運用が提起されているということである。
JAMMA・コラボでは、所蔵機器に対する調査が実施されており、事前調査の重要性ならびに通電における基準といった論点について、ケーススタディとして今後の活動における重要な知見が得られたと報告された。
これら各機関による現物保存体制構築のための調査や管理手法に関する研究以外の活動として、所蔵品活用のための事例調査や大規模なアーケードゲーム保存・活用を展開している企業への保存体制構築に関するインタビューなどといった調査も行なわれている。
所蔵物の活用に関する事例調査としては、4件の事例が対象とされた。ここでは各展示の企画者らによる連携が不十分であることに原因があると想定されるが、内容が類似している点が懸念点としてあげられている。さらには、古い実機の確保について、何の展示においても課題であったことが確認されているという。
ゲーム保存体制に関する検討として高井商会への取材が行われた。同調査では、稼働実機の確保が修復能力の強い関与がある点、さらに技術維持や補修部品保持にはコストと労力が課題となる点が論点として浮かび上がったという。
・講評・質疑応答
本報告に対して、企画委員から大学と個人コレクターや産業界への連携に関する点について、コメントがあった。これに対して、「今回のJAMMAの所蔵機器調査の経緯を株式会社コラボから各所へ公知があったため、2〜3件の問い合わせがあったこと、すなわちこれら活動を引き金としてさらに連携模索といった観点から展望があり得る」ことを論じた。ただし、「現時点ではツールやノウハウといったことについてはまだ限定的であり、今後の課題である」と論じた。