2014年9月2日から11月23日まで、SeMAビエンナーレ「メディア・シティ・ソウル2014」が開催される。ソウル市立美術館(Seoul Museum of Art、通称SeMA)の本館および韓国映像資料院 (Korean Film Archive、通称KOFA)の二カ所の会場で行われ、17カ国42人(チーム)のアーティストの展示と、40余編の上映プログラムは全て無料になっている。開幕に先立って、チャン・ヨンヘ重工業による告知映像が公開された。

今年のテーマは「ゴースト・スパイ・グランドマザー」。アーティスティック・ディレクターを務めるのは、アーティストのパク・チャンキョン氏(1965-)。2010年の第2回恵比寿映像祭で上映された作品「新都内(シンドアン)」(2008)のように近代化と韓国民間巫俗信仰について、またそれ以前に冷戦と朝鮮半島南北分断をテーマに作品を制作してきたアーティストであり、韓国のポスト民衆美術グループの論客としても活躍してきたパク氏の経歴が色濃く反映されているテーマだといえよう。

ただし、より重要なのはこのユニークなテーマが獲得している普遍性と時事性である。諸宗教の発祥地であるアジアの屈折した近現代史と精神的伝統を、メディアを用いて再発見/再発明するアーティストたちを、歴史が忘却し、現代科学が排除した「ゴースト」を召還する霊媒(メディウム)に見立てること。次に、デコーディング、ハッキング、テレコミュニケーション、アーカイビングなど、「スパイ」行為と類似した手法を駆使するメディアアーティストたちの実践が、どのようにそういった行為の社会的意味を逆転させるのかを検証すること。最後に、歴史の生きている証人であり、その悲劇の無力な被害者としての「グランドマザー」たちが表象する忍耐と憐憫を、政治的権力を倫理的に凌駕し、蚕食する能動的な価値として見直すこと。

このような主題意識に基づいて開かれる、今年のメディア・シティ・ソウルが、本紙面のレポート欄で紹介した、前回の「メディア・シティ・ソウル2012」 とは明らかに異なる傾向を呈しているという事実は、日本からの参加作家を並べることでも説明できる。前回が、三上晴子氏、池田亮司氏(1966-)、エキソニモ氏(1996年結成)、クワクボリョウタ氏(1971-)、真鍋大度氏(1976-)と石橋素氏(1975-)、菅野創氏(1984-)と山口崇洋氏(1984-)らだったのに対して今年は、戦後前衛パフォーマンスアート集団であるゼロ次元の加藤好弘氏(1936-)、写真家の内藤正敏氏(1938-)と米田知子氏(1965-)そして第14回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞受賞者の田村友一郎氏(1977-)が参加している。特に、1764年に大阪で起きた朝鮮通信使殺人事件と、旧京城高等裁判所の敷地であるソウル市立美術館本館という場をめぐる歴史的記憶の再構築を試みた、田村氏の新作《世話料理鱸包丁」(SeMAビエンナーレ「メディア・シティ・ソウル2014」のコミッション)が韓国マスメディアの注目を浴びている。

2000年開始からソウル市立美術館主催の民間委託事業だった本ビエンナーレは、2013年から直営事業へ転換に伴い、第8回目の今年からSeMAビエンナーレ「メディア・シティ・ソウル」と改称された。その背後には、ソウル市立美術館の標榜する「ポストミュージアム」というビジョンと、既存の主流美術館文化と制度的限界を乗り越えるオルタナティブな性格を持つレジデンスとビエンナーレの活性化、そして地域別拠点化・空間別特性化という戦略がある。地域に親和的なパブリックアートに特化した「北ソウル美術館」(2013年9月開館)、工芸とデザイン専用の生活美術館としての「南ソウル生活美術館」、美術団体のための貸しスペースの「慶煕宮美術館」、および国際レジデンス・スペースである蘭芝美術創作スタジオと並んで、グローバル・ネットワークという機能を担う西小門本館のアイデンティティーを象徴する主要事業として、国際メディアアート・ビエンナーレ「メディア・シティ・ソウル」を位置づけているのである。ソウル市立美術館と、新しく4館体制となった韓国国立現代美術館のソウル館(メディア芸術カレントコンテンツ内関連記事)が共に、広い意味でのメディアアートに意識的に力を注いでいる。このような近年の動向は、日本のそれとは異なる、韓国におけるメディアアートの位相を物語っているのであろう。

SeMAビエンナーレ「メディア・シティ・ソウル2014」:ゴースト・スパイ・グランドマザー
http://mediacityseoul.kr/