突如、この世界に「未知の風景」が現れた。それはiPhoneやiPadなどのオペレーションシステム(OS)の最新版:iOS6に搭載されたアップル独自の地図アプリが描いたものである。「未知の風景」と書いたが、実際は単に現実と対応していない「地図」のことである。しかし、現実と対応していないからこそ、そこには多くの「未知の風景」があり、それを探し出す多くの「探検者」を生み出している。例えば、「The Amazing iOS6 Maps」には、iOS6の地図アプリが表示するあり得ない画像が数多く集められている。そこではあるべき道路や建物が表示されないだけでなく、アップルが「Flyover」と呼ぶ3D表示では、道路は歪み、自動車は道路に埋没し、橋は捻れ、謎の緑の物体が街中に存在している。現在、アップルの地図はデータとプログラムが描くひとつのパラレルワールドとなっている。このもうひとつの世界は恐らく地図アプリのアップデートごとに少しずつ消失していくだろう。だからこそ多くの人が「未知の風景」を目指して「地図」を探検し、記録しているのである。

地図に「未知の風景」を生み出したのはアップルだけではない。iOS5までアップルに地図を提供していたグーグルも「グーグル・ストリートビュー」で、現実でありながらも現実とは思えないような風景を描き出している。ストリートビューはGPSと全方向撮影用カメラを載せた自動車をあらゆる道路に走らせ、膨大な量の画像を撮影して、現実空間を切れ目なくデータ化する試みである。それらの画像データは現実を過去のある時点で撮影したものだが、地図にプロットされることで独特の存在感を示すものになっている。映像作家のジョン・ラフマン氏(Jon Rafman)が2009年から始めた《9-Eyes》は、ストリートビューを旅した記録である。そこにはガスマスクをして森に潜む人や銃を持つ人、道路をかける馬や虎、そして「この世の果て」などが集められている。それらは現実の風景であったものなのだが、ストリートビューに登場すると、突如、探求すべき「未知の風景」となるのである。

人類は多大な労力をかけて世界を測量して地図を描き、世界から未知の領域を失くしてきた。だが、アップルの地図やグーグル・ストリートビューはこれを反転させてしまった。地図にだけ「未知の風景」を生み出したのである。いや、そもそも地図には建物や遠路などの「記述」はあっても「風景」はなかったはずである。しかし、地図が画像とデータ上で組み合わされ、そこに「風景」が出現しているのである。つまり、アップルとグーグルによる「地図」は新しい機能を実装していくなかで、未踏の地を自ら作り出し、自ら測量しているといえる。これからも、この2つのテクノロジー企業がデータと現実との接点に「未知の風景」を描いていくことに期待したい。

The Amazing iOS6 Maps
http://theamazingios6maps.tumblr.com/

9-Eyes
http://9-eyes.com/