「第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展」が2013年6月1日から始まった。同日にヴェネツィアのプラダ財団(Fondazione Prada)では、展覧会「When Attitudes Become Form: Bern 1969 / Venice 2013」がオープンした。
同展覧会は、クンストハレ・ベルン(Kunsthalle Bern、スイス)でハラルド・ゼーマン(Harald Szeemann、1933–2005、スイス)のキュレーションによって1969年3月22日から4月27日まで開催 (実際には予定の数日前に終了)された展覧会「Live in Your Head: When Attitudes Become Form (Works – Concepts – Processes – Situations - Information)」を会場空間と作品構成も含めて再現した展覧会だ。プレスリリースによれば、プロセス・アート、コンセプチャル・アート、アルテ・ポーヴェラ、ランド・アートなど、63組の作家による約100作品が展示されるようだ。作品のコンディションなどの問題で再制作あるいは展示が実現できなかった作品もある。加えて、ゲッティ・リサーチ・インスティチュート(Getty Research Institute、米)が管理する「ハラルド・ゼーマン・アーカイブ」から記録写真やビデオ、書簡など関連資料も展示される。
同展覧会は、キュレーターのジェルマーノ・チェラント氏(Germano Celant)とアーティストのトーマス・デマンド氏や建築家のレム・コールハス氏らと共に、過去の展覧会を現代に再現することの意義について対話を重ねながら、準備プロセスの段階から内容を練り上げてきた。
同展覧会のような事例は多いとは言えないが、1969年の展覧会を再現した同様の試みをいくつか紹介する。まず、アムステルダムで開催された展覧会「Op Losse Schroeven: Situaties and Cryptostructuren」の再現「Recollections: Op Losse Schroeven」(Stedelijk Museum、2011)。次に、ハイデルベルグ(独)で開催された「intermedia 69」の再現「intermedia 69 | 2009」(Heidelberger Kunstverein、2009)。「intermedia 69」については、カタログに掲載されていない作品の資料や出品作家へのインタビューも含めた書籍 Anarchie - Revolte - Spektakel: Das Kunstfestival intermedia '69 (Steidl Gerhard Verlag)がレナーテ・ブッシュマン氏(Dr. Renate Buschmann、imaiディレクター、独)らの編集によって2009年に出版された。他には、1969年から1973年にかけて計7回、クンストハレ・デュッセルドルフ(独)の展覧会入れ替時の数日間に開催された、実験的でパフォーマンス性の高い展覧会「between」の再現「between 1969‑73 at Kunsthalle Düsseldorf」(Kunsthalle Düsseldorf, 2007)などが挙げられる。ブッシュマン氏は「between」について博士論文を発表し、再現展示のキュレーターとして携わった。いずれの展覧会も、近年、活発に進められている展覧会史あるいは美術館史の研究に基づいている。
ブッシュマン氏は「between」の再現にあたって、「単なるノスタルジーに留まることを避け、アートと社会、あるいは日常を結びつけようとした当時のコンセプトが伝わるように熟慮した」という。また、彼女は「プロセスのトレース」は不可能という立場から、制作プロセスそのものが作品である場合は、再現可能であってもコンセプトをゆがめる可能性があるため、ドキュメンテーション開示にとどめたという。
上記の事例と今回の「When Attitudes Become Form」が異なる点は、オリジナルの展覧会場とは異なる場で入念な再現を試みている点だ。つまり、巡回展のような形式が選択されなかった。筆者は、展覧会を訪れていないので想像の粋を出ないが、同展覧会は、モチーフとなった展覧会そのものをある種マスターピースと捉えていると考えられる。トーマス・デマンド氏の作品のように、切り取られたイメージ(写真)から再構成した贅沢な実寸大の展覧会模型とも言える。このような試みに対して、さまざまな問題提起や意見が交わされそうだ。
また、「When Attitudes Become Form」はよく知られている展覧会の一つであることに加え、会期中は多くの美術関係者が訪れることが予想される。特定の展覧会のみがフォーカスされることによって新たな伝説が加速しないよう、当時、同時多発的に発生したアート・ムーブメントやその研究にも目を向けて総体的な評価や議論がなされることに期待したい。
参考文献
Christian Rattemeyer, Exhibiting the New Art: Op Losse Schroeven and When Attitudes Become Form 1969 (Afterall Books, 2010)
Bruce Altshuler, Biennials and Beyond: Exhibitions that Made Art History: 1962-2002 (Phaidon, 2013)
When Attitudes Become Form: Bern 1969 / Venice 2013