グリーと千葉大学教育学部藤川研究室は2013年度より共同授業「ゲームの力を教育の未来へ」をプロデュースしている。2017年度は学生自らが、小学校の英語教育に活用できるスマートフォン向け学習ゲームを制作。2018年1月17日・24日には完成した4作品を手に、学生達が千葉大学附属小学校を訪問し、同校の6年生3クラスを対象に模擬授業を行った。

板とチョークに加えて、自作ゲームを教材に学生自らが英語の授業を実施

教員を志す学生とゲーム開発のエンジニアによる協働

学習ゲームを筆頭に、医療・福祉・公共政策など、社会の諸問題を解決するためにデザインされるゲームは、シリアスゲーム(またはアプライドゲーム)と呼ばれる。オランダを中心に海外で普及が進んでいるが(註1)、日本では実験的なレベルに留まっているのが現状だ。こうした中、本プロジェクトでは「実際に教育現場で活用可能な学習ゲームづくり」を念頭に、文科省の学習指導要領に即した形で学習ゲームが企画・制作されている。

今回、小学校向けの英語学習ゲームが題材に選ばれた背景には、学習指導要領の改定にともない、2020年度から小学校5・6年生で英語が正式科目になることがある。教員側でも授業づくりや児童の指導に戸惑いがあるのが事実だ。本授業を履修する学生たちの多くも教員志望とあって、こうした教育現場の国際化に対し、ICTを活用しつつ、立ち向かっていく力が求められている。

実際に模擬授業では、学生たちが挨拶やゲームの説明を英語で行うなど、授業づくりに対するさまざまな工夫が見られた。また、ゲームを単に遊ばせるだけでなく、授業内で学ぶフレーズや文法などの説明と組み合わせて、総合的な学習が行えるように配慮されていた。学習ゲームのデザイン面でも、タブレット上で名前を入力させたり、キャラクターの会話をボイスで表現したりと、五感を使った学習が行われていた。

授業では1-2名に1台ずつタブレットが与えられ、授業にあわせて活用された

このように本共同授業では学生が自分たちで学習ゲームを企画・制作し、附属小学校の協力を得て、模擬授業を実施する点が特徴だ。もっとも、大半の学生は教員志望で、ゲーム開発の経験はほとんどない。実際、昨年度は2日間のハッカソンをもとに、グリーのエンジニアによるサポートを得て作品を完成させた。しかし、今年は商用ビジュアルノベルエンジン「ティラノビルダー」を使用し、学生が自力で完成させていた。

本共同授業は千葉大学教育学部が後期に実施する「メディアリテラシー教育演習」内で行われている。授業の目的は学習ゲームづくりを通して、将来「教育の情報化」を担える教員を養成すること。その中には「ゲームデザインの資質を備えた教員」養成も含まれている。ゲーム制作で必要な絵素材なども、趣味でイラストを描いている学生などが担当。英語のボイスは留学生が担当するなど、文字通り手作りで制作が行われた。

これに対してグリー側はゲームづくりに関する知見で開発を支援。2017年10月18日には同社取締役でアプリ開発スタジオ「Wright Flyer Studio」を統括する荒木英士氏がゲームの企画術について講演。その後、学生とともに英語学習ゲームのアイデアについてディスカッションを行った。荒木氏は「製品企画は問題解決」だとして、はじめに英語学習ゲームの「顧客とゴール」を明確化することが重要だと強調した。

左:「アイデアを製品企画に落とし込む方法論」と題して講演を行った荒木氏
右:講演終了後、各チームにまじってディスカッションが行われた

その後、2017年12月10日に制作中の英語学習ゲームをグリー役員らが講評するDemo Day(制作物発表会)が実施された。当日は4チームの学生がそれぞれ、企画意図と進捗状況を発表。会場には附属小学校の教員も参加し、単元ごとの狙いに即してゲームの内容を絞り込むなど、授業での活用に即したアドバイスが送られた。これらを元に各チームから改善案が示され、完成に向けた意欲が改めて示された。

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左:Demo Dayで企画内容と進捗状況について説明するDチーム
右:グリー側では主にゲームとしての完成度や可能性、附属小側では学習内容に即しているか、授業で使いやすいかといった視点からコメントが行われた

各チームによる英語学習ゲーム

A班「Chiba Tour」
https://plicy.net/GamePlay/51844

海外の留学生に千葉県の観光案内を行うという内容。留学生は男女から、観光地は九十九里浜・養老渓谷・成田山から選べる。留学生と選択肢で会話ができるほか、合間でキーフレーズの「What did you do?」について復習ができる。

B班「ピンキーと魔界の大冒険」
https://plicy.net/GamePlay/51278

魔界から迷い込んだモンスター「Pinky」に対して、地図を見ながら道案内をしていくゲーム。「Go straight」「Turn right (left)」といった構文を楽しみながらマスターしていけるように工夫されている。

C班「手伝ってほしい」
https://plicy.net/GamePlay/51858

人気小学生ユーチューバーとともに、英語でしか注文できないお洒落カフェに行き、通訳を行うゲーム。食べ物の注文をする、トイレの場所を聞くといった構文を選択していく。ゲーム終了後、好きな食べ物を英語で注文する復習セッションもある。

D班「お正月を伝えよう」
https://plicy.net/GamePlay/51213

アメリカ人の留学生に日本のお正月の風習について英語で紹介するゲーム。失敗しても何度でもやり直せる「消しゴムの妖精」のサポートを受けながら、初詣の風習やおせち料理などについて、選択式で説明していく。

模擬授業の終了後、藤川氏は「今年度は学生が自分たちで英語学習ゲームを完成させるなど、コンテンツづくりについては一定の成果が得られた。今後は『より授業内で使ってもらいやすい』学習ゲームづくりをめざしたい」と総括。そのためには当初から授業づくりを念頭においたゲームデザインが必要になる。藤川氏は現場教員へのヒアリングをはじめ、附属小やグリーとの連携をますます強めていきたいと抱負を述べた。

藤川大祐氏(左端)と学生たち

シリアスゲーム制作では一般的に、ゲーム開発者と各専門分野を結ぶブリッジパーソンが重要になる。「おもしろさ」を重視しがちなゲーム開発者と、「有効性」が求められる各専門分野では、互いの文化や言語が異なるからだ。こうしたなか「教員志望の学生にゲーム開発者教育を行い、模擬授業を実施させる」例は海外でも珍しく、本共同授業ならではの取り組みだといえる。国際学会への論文投稿なども期待したいところだ。

(脚注)
*1
https://www.investutrecht.com/uploads/factsheets/InvestUtrecht-Factsheet-SeriousGaming-in-Utrecht-September2016-JP.pdf

※註のURLは2018年3月2日にリンクを確認済み