欧米圏ではゲームデザインに関する議論や学問的集積が日本に先駆けて進んでいるが、抽象論が多く、ゲーム制作の現場ですぐに役に立つものは、それほど多くない。いわんや日本語で読める書籍は、ほとんど存在しなかった。こうした中で出版された本書『「レベルアップ」のゲームデザイン』(オライリー・ジャパン、2012年)は、きわめて珍しい存在だといっていいだろう。

著者は『ゴッド・オブ・ウォー』『パックマンワールド』『マキシモ』シリーズなどの制作に関わった現役ゲームデザイナー。豊富な事例と軽快な語り口、そして著者直筆のコミカルなイラストで、これまで培ってきたゲームデザインのノウハウを惜しげもなく呈示している。巻末には企画書やゲームデザインドキュメントのテンプレートなど、すぐに活用できる資料も満載だ。ゲームデザインを学ぶ学生からベテランゲーム開発者まで、幅広い層で参考になるだろう。

また本書は、日本でいわゆる「洋ゲー」とカテゴライズされているゲームが、どのような考えでデザインされているか、その一端がのぞける点でも価値がある。周知の通り「洋ゲー」とは一昔前まで「クソゲー」の代名詞だったが、そうした蔑称は過去のものとなった。この発展を陰で支えたのが、本書のように暗黙知を形式知にして、広く一般化していく取り組みである。日本でもこうした第一線クリエイターによる書籍執筆を期待してやまない。

前書きで説明されているとおり、本書は家庭用ゲーム機向け一人用アクションゲームに関するゲームデザインの議論が中心となっている。そのためソーシャルゲームやカジュアルゲームといった、新しい分野のゲームデザインには、あまり役に立たないと思われるかもしれない。しかしゲーム開発とは、ユーザーへの「おもてなし」を技術でコーディングする行為であり、その本質は変わらない。むしろ、こうした新領域で活躍するゲームデザイナーにこそ、目を通してほしい1冊だ。

『「レベルアップ」のゲームデザイン』

著:スコット・ロジャース

翻訳:佐藤理絵子

出版社:オライリー・ジャパン

「レベルアップ」のゲームデザイン

http://www.oreilly.co.jp/books/9784873115634/