急速に変化を続けるIT業界。個々の事象に注目することも大事だが、一歩下がって大局的な視点から変化を観察することも重要だ。こうした中で本書『ソーシャルもうええねん』は、ともすればソーシャルバブルに踊らされかねないでいるゲーム業界にも、重要な指摘を投げかけている。

著者の村上福之氏は大手家電メーカーのエンジニアを経て独立。株式会社クレイジーワークス代表取締役として電子書籍プラットフォーム「androbook」や、音楽配信プラットフォーム「andromusic」などを開発した。人気ブロガーとしても知られ、本書も「ITmediaオルタナティブ・ブログ」「誠ブログ」「BLOGOs」「エンジニアtype」に掲載された内容がベースとなっている。

本書の白眉は「1日で作ったサイトを150万円でヤクオクで売った話」だ。アメリカで19歳の少年が作り、オープンと同時に投資家から約100万ドルを調達した「Gumroad」の概要をTwitterのツイートで知った村上氏は、実際のサイトを見ることなくパクリサイト(本文より)の「Ameroad」を1日で開発。3日後にはヤフーオークションに出品し、150万円で売却してしまう。これぞ、IT業界ならではの速度感だろう。

ただし、そうした変化の波に踊らされるだけでは、本質を見失ってしまう。冒頭の「フォロワーも『いいね!』もカネで買える」という指摘は、その象徴だ。我々の暮らしを支えるIT技術やITビジネス、そしてグローバリゼーションそのものが、あやふやで、いかがわしさに満ちている。しかし、それこそが人間の営みというものだろう。そこで生きる個人がしっかりとした価値観を身につけるには、本書のように変化を俯瞰して捉え、独自の歴史観を持つことが重要だ。

本書は主にIT業界のエンジニアを対象としているが、グリーやモバゲーのユーザー層、コンプガチャ規制など、ソーシャルゲームに関する記述もある。文章もブログを元にしているため、平易で読みやすい。ゲーム業界がIT業界やソーシャルビジネスとの融合を深める中で、ゲームクリエイターや業界志望の学生にも一読をお勧めしたい。

 

『ソーシャルもうええねん』

著:村上福之、出版社: ナナ・コーポレート・コミュニケーション

新刊JP特設ページ

http://www.sinkan.jp/special/social_eenen/index.html