●「アニメーション研究のマッピング・プロジェクト」
日本アニメーション学会
アニメーション研究は世界で1980年代からその成果が積み上げられているにも関わらず、日本では研究の基本文献となる学術書や論文が学問の現場に届いていない状況がある。平成24〜25年度に「メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業」の「マンガ・アニメーション研究マッピング・プロジェクト」のアニメーション分野を担当し、『アニメーション研究のためのブックガイド』を作成した日本アニメーション学会は、平成25年度に基本的な学術論文をリスト化する『アニメーション研究マッピングプロジェクト』を進め、さらに学会のサーバー内にWebサイト『アニメーション研究のためのデータベース』を立ち上げた。今年度はアニメーション研究の成果を広く共有するため、このデータベースサイトの改良と、エントリー数を増やすことを事業の目的とする。
●中間報告会レポート
日本アニメーション学会会員の土居伸彰氏はアニメーションを「教える現場では、どのような文献に依拠して研究や教育指導を行っていけばいいのかわからない、というような声もよく聞かれる」と報告し、しかし1987年に設立された国際アニメーション学会(Society for Animation Studies)や、1999年に設立された日本アニメーション学会でも、着実に研究の成果が積み上げられていることを伝えた。「つまり現在起こっているのは、優れた研究成果が多数あるのにアクセスすることができない状態。マッピング・プロジェクトはそのギャップを埋めるために構想されました」と述べられ、目的達成のためのポイントとして、以下の三つが挙げられた。
1)使い勝手の良いデータベースサイトを構築し、情報への到達を容易にすると共に、情報の幅をより広範にする。
2)論文のエントリーを広範化し、これまでに取り上げてきた学術誌以外もピックアップ。海外の主要な学術誌もカバーする。
3)『アニメーション研究のためのブックガイド』をベースに学術書も新たに取り上げ、新たな視点で重要文献の選定を行って、最終的に論文と学術書あわせて150エントリーの追加を目指す。
以上が提示された後にWebサイト『アニメーション研究のためのデータベース』の新バージョンのラフ案が示され、その説明が行われた。
他方で『アニメーション研究マッピンクグプロジェクト』の問題点として、「概要が無い論文をいかに紹介すべきか」、「学術書の紹介において掲載許諾など、出版社の協力をどう得るか」等々についても指摘。今後のスケジュールとしては1月末に新サイトを公開したうえで2月に報告書を作成し、3月の最終報告会に臨む予定であるという。
報告の後、以下のような質疑応答が行われた。
1) リストは網羅性に欠け、マップには網羅性にきりがなく、キュレーション的なガイドには主観が入るという三つの相反する方向性がある。『アニメーション研究マッピングプロジェクト』はそのうちのどれを重視しているのか?
A:外部の方にそれぞれが重要と思う文献のリストを作ってもらう「推薦文献リスト」の機能を導入することで主観性を複数同居させていき、その総体として、今活躍している方々がどんなものを重要に思っているのかが、サイトの中におぼろげに見えてくるのではないかと考えている。
2) できあがったリストが実際に使えるかどうかの検証はどう行うのか?
A:リストを実際に使ってもらうことで、それぞれの立場によってリアリティが変わってくると思う。そういう中でもっと簡単に文献を発見できる仕組みを、レスポンスを得たうえで考えていきたい。
3) 外部の人間ではなくアニメーション学会の会員に対して、主体的にこのリスト化に関わってもらえる仕組みをどのように提供していくつもりなのか?
A:将来的には、学会員からもリストを公募するという形で参加してもらうなど、みなが参加できる仕組みを作れればと考えている。
4) データベースの対象領域として、研究文献の範囲をどこまで広げるかという問題がある。中間領域が非常に広いと思うので、その線引きをどのように行うのか?
A:線引きについてはあえてファジーにして、今回作り上げていく中で反応を見ていきたい。そもそもアニメーション研究とは何を指しているのかということ自体、まだ全体的な了解が日本の中で取れていないと思われるため。
●最終報告会レポート
報告者 日本アニメーション学会 土居伸彰氏
本事業は、これまでアニメーション研究が積み上げてきた成果、重要な文献、成果を追うべき重要な研究者といったアニメーション研究に係わる現状のマッピングを研究者の観点から行い、アニメーション専門外の方々へ伝えることを目的としている。
このプロジェクトの背景には、アニメーション研究の成果が、専門外領域へ充分に共有されていないという問題意識がある。アニメーション研究の歴史を振り返ると、海外では1985年に設立されたSociety for Animation Studiesが成果を上げている。日本アニメーション学会も1998年に設立され成果を残しているが、アニメーション研究の外にその状況が伝わっているかは疑問である。たとえば、隣接する分野である映画学では、基本的な重要論文をまとめたアンソロジーが出版されているが、アニメーション研究ではそういった類書は無く、研究の動向を追う方法がないという状況である。
今回の事業に先立って、日本アニメーション学会では知識のギャップを埋める活動を行ってきた。その主なものとしては、平成24〜25年度「メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業」内の「アニメーション研究のためのブックガイド」(平成24年度)や、また次年度の「アニメーション研究マッピングプロジェクト」がある。後者では基礎的な学術誌(論文)をリスト化した。このように、アニメーション研究に着手するために必須の文献・論文についての専門家の観点からのリストを対外的にリリースする活動を行ってきた。これらの活動をベースに、ウェブサイト上にデータベースサイトも公開した。しかし旧サイトの問題点として、論文情報が個々のエントリーとして存在するだけで、タグや検索機能などの横の広がりが不十分であったという。
それを踏まえ、本年度のアニメーション研究マッピングプロジェクトで行ったことは、そのウェブサイトを再構築することで文献間のネットワークを可視化して、アニメーション研究の全体像を掴むことに頂くように試みたことが報告された。
サイト参照 http://database.jsas.net/mapping/
このサイトで意識したことは論文から関連する他の論文へ飛べるようにし、学術的な論文作成で重要な先行文献の参照や、研究の新規性を主張しやすいように考えている。例えば論文情報として、発表年、著者、取りあげている作家、作品などのタグ、キーワードを通じて様々なページへ移動できるようにしている。更に標準として作家や作品名をキーワードとして別の論文や情報にアクセスできるリンク一覧があり、HP自体にもTOPページにはランダムピックアップとして、思わぬ論文に出会うようにしてある。また著者一覧で多くの論文を発表している人は重要な研究者であると判るようになる。日本アニメーション学会の要望の作品や作家から論文を引けるような機能も入れている。また今年の一番の目玉として「推薦文献リスト」を掲載した。国内外で活躍する研究・関係者として、津堅信之(歴史的観点)、須川亜紀子(少女・子供向けアニメ)、藤津亮太(非アカデミックな観点)、イゴール・プラッツェル(中欧・東欧アニメーションの地域的観点)、ジョルジュ・シフィアノス(美学的観点)らにそれぞれの研究テーマの立場から重要な文献リストの作成を依頼したとのこと。
まだキーワードのソートやエントリー数などクオリティを上げなくてはならないが、アニメーション学会からも推薦文献リストを公募したり、関係者を広げることで、アニメーション研究をやりやすくするWebサイトを作り上げたいと考えているという。
講評・質疑応答
企画委員より
- 「研究マッピングを最も必要としているのは、大学院で海外からの学生達がアニメーションの研究をしたいと要望している一方で、そういった学生が学部時代にマンガ・アニメーションを学ぶ機会が少ない中で独学しなければならない。そういったときに何を読むべきか、また指導するためにも学会・業界の論文で何をまず読むべきかを指定してくれると良いと思う。また分野横断的な連携がこの場(メディア芸術連携促進事業)で図られていることから、マンガ・アニメ、更には最近の学生が研究テーマとして注目しているニコニコ動画やBLなど分野横断的に連携を図れたらと考える」
- 「アニメーション研究外の方を対象とするとしているが、一般の方々なのか大学の研究者レベルなのかでもマッピングターゲットは異なるので、ユーザー層や収集範囲などはもう少し明確にしても良いのではないだろうか」